昨年9月にフジテレビを退社し、フリーとして活動を開始した矢先の12月、悪性リンパ腫のため、療養に入った笠井信輔アナウンサー。現在、抗がん剤治療のため入院している病院で、退社とともに卒業した情報番組『とくダネ!』(毎週月~金曜8:00~)の密着取材を受けている。

これは、闘病の様子や自分の思いを発信したいという笠井アナの要望を聞き、「ずっと一緒にやってきた仲間なので、番組として一緒に発信していこうこと、そして笠井さんはカメラを向けるとびっくりするくらい元気になるので、密着することが一番の応援になると考えたんです」(根本孝明プロデューサー)という経緯で実現したもの。あす10日に第4弾の特集が放送される予定だ。

そこで、今回の取材を担当し、笠井アナと約20年の付き合いだという、高須尚史ディレクターと永野陽子ディレクターに、密着を通して見える闘病の様子や、笠井アナへの思いなどを聞いた――。

  • (左から)高須尚史ディレクター、永野陽子ディレクター、笠井信輔アナウンサー

    (左から)高須尚史ディレクター、永野陽子ディレクター、笠井信輔アナウンサー=提供写真

■出演者ではなく、いちスタッフ

――『とくダネ!』で一緒にお仕事されていたときの笠井さんは、どういう印象でしたか?

高須:私はタレントさんのインタビュー取材が多かったのですが、とても真面目な方だというのは当時から思ってましたね。スタジオを担当するときも、その展開の仕方は勉強させてもらうことばかりでした。

――スタジオの展開も笠井さんが考えられていたんですか?

永野:単なる出演者というより、いちスタッフですね。8時にOAが始まる4~5時間前にやってきて、当初はVTRの原稿を自分で直したり、モニターでこれを見せたいんだというスタジオの演出もやったりしていました。ディレクターとすごく密にコミュニケーションをとるので、ケンカになるときもありましたが、良い関係で一緒に番組を作っていける人だと思います。私はプライベートでも本当に仲良くさせていただいて、結構寂しがり屋な人なので急に暇ができたりすると「今週の金曜日空いてない?」って言ってくる人で(笑)。自宅にも何回か来ていただいて、実は私が結婚するときの保証人も笠井さんになっていただいたんです(笑)

――そんな笠井さんが「悪性リンパ腫」を患っているというのは、どのように聞かれたのでしょうか。

高須:僕と永野は、プロデューサーやチーフが集まる会議に呼ばれて聞かされました。それまでたまにお会いすると元気そうだったので、まさかと思ってびっくりしました。そのときは、血液のがんというのをあまりよく知らなくて、まだ「がん=死」というイメージだったんです。でも色々調べると、最近は助かる方が多いということだったので、そこでちょっと安心しました。でも、やっぱり厳しいなと思いましたね。

永野:もう、言葉が出ないくらい驚きましたね。付き合いたての恋人かっていうくらい、まる1日ずっと笠井さんのことをばかり考えちゃうほど、本当にショックで。最初に聞いた後、3~4時間して本人から電話がかかってきて「こういうことになっちゃったんだけど、闘っていくから取材してほしい」と言われたんです。声が明るかったので、それで落ち着いた部分もありまし、取材するという立場になってちょっと冷静になれた部分もありました。

■「自分の爪痕を残したいんだ」

――病を公表する前から、密着取材は始まったんですよね。

高須:病気の話を聞いて、まずは仕事風景を撮影しようという話になりまして、笠井さんが福岡で行う講演会に行きました。そのときずっと思っていたのは、これから闘病生活に入るのに、なんで笠井さんは取材を受けるのかって、どうしても納得できなくて。その理由をどこかのタイミングで聞こうと思ったんですけど、講演会場では時間がなくて、結局その日の夜、ホテルに着いてから、笠井さんが「俺の部屋でビール飲もうよ」って誘ってくれたんです。じゃあそのときに、映像は回さないでペンでもいいから聞こうと思ったんですけど、部屋に入ったら「カメラ持ってきて回してもいいから」って笠井さんが言うんですよ。そうは言っても、カメラで撮りながら話を聞く気にならなかったので、ちょっと遠くに置いて撮影して、告知されたときにどう思ったのかとか、いろいろ話を聞いたんですけど、最後のところで本当に勇気を振り絞って「なんで取材を受けるんですか?」って尋ねたんです。そしたら、「療養に入る前に、自分の爪痕を残したいんだ」と切り出して、「自分はワイドショーのアナウンサーでタレントさんの闘病も取材してきて、今度は自分が病気になったんだから、自分が発信する番だ」ということをおっしゃったんですね。その話を聞いて、これはちゃんと取材しないとダメだなって思いました。

――あらためて、プロ根性を感じますね。

高須:そのときは2時間くらい飲んでたんです。体も痛かったはずなんですけど、今のうちに全部話しておきたかったんじゃないかと思いますね。

――そして、『とくダネ!』のスタジオに生出演され、視聴者に直接報告されました。

永野:私はそのとき、公表されてから初めて会ったんですが、「体が痛い」と言ってるんですけど、スタジオに来るとテンションが高くなって、いつもと変わらない感じなんですよね。それを見て、ホッとしたのと同時に「やっぱりこの人すげぇな!」って思いました。病気を聞く3日前くらいにフジテレビの別の番組に出るというので楽屋でちょっとお話ししたんですけど、そのときも相当しんどいはずなのに、そんな素振りを全く見せず。でも、もっと驚いたのは、あの日『とくダネ!』に出た後、『ノンストップ!』『バイキング』『グッディ』『Live News it!』の取材を立て続けに受けていくんですよ。最初、『とくダネ!』終わりで今後の密着取材の打合せしようって話してたんですけど、それも全くできなくて(笑)。入院前に受けられるインタビューは全部受けておこうという彼の思いだったのかなって思いますけどね。