米国の衛星放送会社「ディレクTV(DirecTV)」は2020年1月19日、運用中の静止通信衛星「スペースウェイ1」が、バッテリーの故障により爆発する危険性があると明らかにした。

このため同社は、衛星に残った推進剤を完全に排出するという通常の手続きを経ずに、静止軌道から「墓場軌道」へ緊急退避させることを計画している。

バッテリー損傷で爆発の危機

スペースウェイ1(Spaceway-1)は、ディレクTVが運用する通信衛星で、ボーイングが「702HP」という衛星バス(衛星の基本機能が入った筐体)を使い製造した。

  • 702HP衛星バス

    ボーイング製の702HP衛星バスの想像図(画像はスペースウェイ1とは異なることに注意) (C) Boeing

2005年4月にロケット会社「シー・ローンチ」のゼニート・ロケットで打ち上げられ、西経103度の静止軌道上から、北米に向けて高解像度テレビ放送やデータ通信サービスを提供。打ち上げ時の質量は約6tで、当時世界最大の静止通信衛星だった。設計寿命は12~13年とされ、すでに設計寿命を超えていることもあり、最近はバックアップ機として運用されていた。

ディレクTVが米国連邦通信委員会(FCC)に提出した文書によると、打ち上げから15年目、すなわち設計寿命を3年超えた昨年12月、スペースウェイ1になんらかの問題が発生し、バッテリーが「重大かつ修復不可能な熱損傷」を受けたという。これにより、次にバッテリーに電源が入った際に、爆発する危険性があるとしている。

バッテリー損傷の原因や詳細は明らかにされていない。また、バッテリーの中の損傷した部分のみを使用しないような運用は不可能だという。

これを受けディレクTVは、スペースウェイ1のKaバンド機器を停止し、衛星を必要最低限の状態で、また太陽電池パドルによって生成した電力のみで運用している。

しかし、2月25日から衛星が「食」の時期に入るため、バッテリーを使わざるを得ない状態になる。衛星の食とは、静止軌道上にある衛星が、一時的に地球の影に入り、太陽電池による発電ができなくなる現象で、衛星と地球、太陽とが一直線に並ぶ春分の日と秋分の日の前後に起こる。

もしバッテリーを使えば爆発する恐れがあり、一方でバッテリーを使わなければ、電力を失って衛星の機能が完全に停止し、次に太陽電池に太陽光が当たっても再起動が不可能になり、静止軌道上で漂流を始めてしまう可能性もある。

推進剤を完全に排出せずに墓場軌道へ

このためディレクTVは、スペースウェイ1を2月25日よりも前に、静止軌道から、いわゆる「墓場軌道」へ移動させ、運用を終了することを計画している。墓場軌道とは静止軌道から約300kmほど高い高度にある軌道のことで、静止衛星が運用を終える際には、運用中の他の静止衛星の邪魔にならないよう、この軌道へ退避するのが通例となっている。

ただ、FCCは衛星会社に対して、「静止衛星を墓場軌道へ移動させる前に、衛星の中に残った推進剤を完全に排出すること」を規則で定めている。これは墓場軌道上で衛星のタンクが爆発し、デブリを生み出すリスクをなくすことを目的としたものである。

だが、スペースウェイ1には未だ約73kgの推進剤(四酸化二窒素と非対称ジメチルヒドラジン)が残っており、完全な排出には2~3か月かかるため、食の始まりに間に合わない。このため、ディレクTVはFCCに対し、推進剤が残った状態で墓場軌道へ移動させると報告している。

ディレクTVが米国の宇宙ニュース・サイト「SpaceNews」に語ったところによると、「スペースウェイ1はバックアップ機として運用していたため、サービスに影響はない」という。ただ、同時に「スペースウェイ1の運用終了により失われるバックアップの役割を置き換えるために、軌道上の別の衛星を移動させることを検討している」としている。

また、衛星を製造したボーイングは同サイトに対して「他の702衛星バスを使った衛星に、同じようなトラブルが起こるリスクは低いが、なるべくそれを避けるために、他の衛星オペレーターに対し、『運用手順のマイナー・アップデート』策を提供している」と語ったという。

ディレクTVは、墓場軌道への移動時期や、移動完了までにかかる時間について明らかにしていないが、衛星の観測を趣味にしている衛星ウォッチャーなどは、すでに移動を開始したことを捉えている。

食が始まる前に墓場軌道へ移動し、停波を行って運用を終えることができれば、バッテリーが爆発するリスクはほぼなくなる。しかし、その一方で、衛星の中に残った推進剤が原因で爆発するリスクは残り続ける。

今後、運用終了までの約1か月の間に、どれだけ推進剤を排出できるか、そして爆発を防ぐ処置を取れるかが重要となる。

出典

DIRECTV Enterprises, LLC SAT-STA-20200119-00011 Satellite Space Stations
DirecTV fears explosion risk from satellite with damaged battery - SpaceNews.com
Boeing says Spaceway-1 battery failure has low risk of repeating on similar satellites - SpaceNews.com
Spaceway 1, 2, 3 - Gunter's Space Page
Boeing: Boeing 702HP Fleet

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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