アル・ゴアが考える気候変動問題「絶望している場合ではない」

元米副大統領は71歳になった今なお、闘いに挑んでいる。そんな彼の最新インタビュー。

アル・ゴアは、当初から気候変動問題の危険性を訴えてきた預言者だったといえる。今から40年以上前に国会議員となった彼は、半生をかけて警鐘を鳴らし続けている。そのゴアが2020年1月、ダボス会議へ戻ってきた。彼の発するメッセージは、以前と変わらず手厳しいものだった。

ゴアは71歳になるが、それでもドナルド・トランプ、ジョー・バイデン、バーニー・サンダースらよりも若い。テネシー訛りで気さくに語るゴアだが、気候変動問題に取り組む意気込みは衰えていない。アマゾンの自然保護に関する討論会でゴアは、一般に思われているよりも事態は進行していると警告した。「今を生きる世代に課されているのは、道徳的な想像力を働かせることだ」とゴアは言う。「現代版のテルモピュライの戦いやアジャンクールの戦いだ。或いはバルジ大作戦やダンケルクの戦いであり、9.11にも匹敵する。私たちは目の前にある難局を乗り越えねばならないのだ」とゴアは主張した。

また別の討論会では、グリーンエコノミーへの急激な転換は世界的な金融問題につながるという意見に対し、「地球が死んでしまったら仕事がどうのなど言っていられない」とゴアは反論した。

ゴアは滞在していたスイスのダボスにあるホテルでインタビューに応じてくれたが、ユーロポップが流れるレストランは騒がしかったため、化粧室の前に並べられたソファーへ避難して話を続けた。時折ダボス会議の関係者がトイレに行く途中で、元副大統領に挨拶したり感謝の言葉を述べようと立ち寄る中で、インタビューは行われた。

ー気候変動問題について、真の気候科学はもはや問題ではなく、或いは気候科学の段階は過ぎて政策や政治の話に移っていると考えますか? 今は立証の段階から実行に移すべき時期なのでしょうか?

いや、今も気候科学は重要だ。問題そのものはとても複雑なため、確実性の程度についてもさまざまな意見が出てくるし、気候科学に根拠を求める人もいる。科学的なコンセンサスが全体的に取れそうなところまで来ている。コンセンサスが取れれば大きな影響力があると考える。もちろん、反論もあるだろう。しかし反対する人たちの中にもこれまでの反対意見を取り下げ、コンセンサスに反対する行動を控えようとしている人も増えてきている。

ーダマスカスへの道を辿って改宗する訳ではないが、あなたの言うように、密かに時流に乗ろうとしている人が増えているということですね。

その通り。今年(2020年)のダボス会議がよい例だ。(ダボス会議の設立者である)クラウス・シュワブが気候問題を今年の世界経済フォーラムの重要なテーマに掲げたことは重要なステップであり、会議の大多数を占める各業界のトップたちの中には、先ほど述べた定義に当てはまる人も多い。彼らが気候問題を最重要課題として取り上げることはないだろうが、今では彼らは気候問題に反発する気は無い、というところまで来ている。それだけでも大きな進歩だ。


トランプ米大統領は気候変動問題の火付け役

ー活動家の中には、ドナルド・トランプは気候問題運動に火を付け、アクティビズムを生んだ最大の立役者だとする声もあります。彼が大統領に就任して3年が経ちましたが、気候問題運動の火付け役としての彼をどう見ていますか?

彼が火付け役となったことは疑いの余地がない。大統領選挙以降私は、「ある力が働くと、必ず等しい大きさの逆向きの力が働く」という物理学の基本的な法則を主張してきた。気候問題を否定するトランプの態度に対する反動が、気候問題運動における新たな原動力となっているのは間違いない。1979〜80年の米国では、ジミー・カーターが締結した第二次戦略兵器制限交渉(SALT II)に対する議論があった。ソ連がアフガニスタンへ侵攻し、当時大統領候補だったロナルド・レーガンはソ連を「悪の帝国」と呼び、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の配備増強を主張した。その後カーターは上院に諮っていたSALT条約を取り下げたため、反核運動が自然と巻き起こった。現在私たちが直面している物理法則の前例といえよう。大統領が先導して運動を妨害するのを許してもよいのかと言えば、そうではない。ただ、現実はそのように動いている。

ーアクティビストであり政治家でもあるあなたの立場からすると、特に気候問題に関してトランプによる米国独自主義はより際立つと思います。大統領が態度をはっきりせず、あからさまに問題を軽視している場合、主導権を持ち続けようとする米国のやり方にどのような影響があるでしょうか?

私ではなく誰か他の人の表現だが、トランプは悪意と無能が混在する人間だ。特に彼の無能さは、気候変動運動を妨げようとする彼の行動の多くが裁判によって無効と判断されたことからもわかる。それでも米国が積極的で創造力に富み、革新的なリーダーシップを発揮しない場合は、国際社会がより迅速に運動を推進しようという新たなコンセンサスを目指して結束しようとする妨げになる。そしてマドリードは、むしろコペンハーゲンやパリに近かった。理由のひとつは、米国による後ろ盾がなかったからだ。米国の州知事や市長らは、米国の名誉をある程度挽回したのは確かだ。しかし彼らもオバマやクリントン、そして京都での私ほど強力に推進することはできなかった。

ーあなたは40年以上に渡り、気候変動問題に取り組んできました。国民に影響を与えたり心を掴むために最も効果的な方法という観点から、米国民の心理についてどのようなことを学びましたか?

最も強力な味方は母なる自然だということを学んだ。大規模自然災害直後に人々の意識が変わっていく事例はいくらでも挙げられる。甚大な被害をもたらす大規模な自然災害が増えてきたことで、世論も大きく変わってきた。民主党支持者の間では気候変動が最も重要視すべき課題だ、という調査結果もある。リベラルな民主党員にとって最も重要な問題なのだ。共和党の大多数は今、基本的に偏っている。そして若い世代は、全く程遠い。これもまた、甚大な自然災害が大きな原因になっていると思う。オーストラリアの火災は、昨年夏と秋に起きたカリフォルニアの大火災の衝撃を鮮明に蘇らせる。そしてアマゾンの火災。衝撃は一年中続く。さらに今では、「雨爆弾」と呼ぶノアの洪水並みの大洪水が発生している。

ーまだ私たちにできることはあるでしょうか? それとも共和党側による気候変動問題の否定が、まるで信条を試す踏み絵としてまかり通ってしまっているのでしょうか?

酷い状況だ。まだ変わる余地があると、私は信じている。実際に、周りからじわじわと浸食している。部族の協定というのは今なお生きている。三銃士の精神に似ている。部族の中では皆、中絶に反対して銃所持に賛成し、そして気候変動問題を否定している。他にも部族に共通する項目はあるだろう。「One for all, and all for one」だ。ところが気候問題でも銃規制問題でも、何かひとつ自分が意見を変えると、部族のメンバーである証を失う。すると資金的な後ろ盾を失うと同時に対立候補が立てられ、結局議員を辞めることとなる。自分ひとりなら単純なアルゴリズムといえるが、家族やスタッフや有権者が絡んでくると、より複雑な問題になるのだ。

しかしこの状況は、トランプが大統領になる以前から存在した。化石燃料企業が、タバコ業界による偽りのテクニックを真似た手口は、よく知られている。両者が同じPR会社を雇ったり、道義に反する似たような宣伝文句を使ったりする例もあった。しかも今や全部とまでは言わないが多くの化石燃料企業の幹部が、自社の科学者からの警告に反して、酷く非道義的な政策のプロパガンダに対して巨額の献金を行なっているのだ。ことわざにあるように、「柵の支柱の上に亀が乗っているのを見ても、亀が自分で登ったとはとても思えないだろう」。気候変動問題に関して言えば、とてつもなく高いレベルの人間が否定したとしても、それは彼が単独で下した判断ではないということだ。

現在では、ルパート・マードックが責任の一端を担っている。オーストラリアが黒こげになっている最中も、彼は毎日ぞっとするような嘘を吐き続けている。さらに、米国でFOXニュースを通じて行なったように、彼はオーストラリア国民によるコンセンサス形成の能力を貶めている。


「多かれ少なかれ感情的な問題に行き当たるのが現実」

ー気候変動問題は、「気温が1.5度上昇する前に何年以内に何をしなければならない」といったデータ上の議論になりがちです。さらに今は人々が衝撃を受けるような感情的問題になっています。現在の状況をどうお考えですか?

もちろん、私はもっといろいろなケースを見てきた。どんな問題もある程度は感情的な要素を含むものだ。私たちが判断を下す正確なプロセスについては、心理学者に聞けばいい。しかし、そう多くはないものの、最低限度の数字が上がっていくことに絶望感を抱く場合もある。そして、絶望感が問題の拒否反応につながることも多い。それが現実なのだ。

ーあなたは問題の感情的な面にどう対処していますか?

絶望している場合ではない、と皆さんに言いたい。つまり、持続的に気候変動問題に取り組む者は誰でも、多かれ少なかれ感情的な問題に行き当たるのが現実だ。私の場合は特に問題にはならなかったが、避けて通れない問題と言える。

ーあなたはこれまでに、気候変動問題によって家や生活手段を失った人々に出会ってきたと思います。

もちろん。地元のナッシュビルでは、大洪水の被害から10年が経とうとしている。周辺では数千人が家や仕事を失った。この地域ではかつて洪水など経験したことがないため、誰も保険に加入していなかった。尋常な状況でなかったと思う。私の家からわずか数ブロック先でお年寄りの夫婦が亡くなった。彼らは道に押し流されてしまったんだ。

ー2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするというシナリオは現実的だと思いますか?

オフセット(排出量と削減努力との相殺)を適用すれば、実質ゼロは確実に実現できると思う。間違いない。あるマサチューセッツ工科大学のエコノミストは「物事が完了するまでには予め期待しているよりも長い時間がかかるもの。一方で実際には、設定された期限よりも早く仕上がるものだ」と言う。私はこの言葉がお気に入りで、よく引用する。再生可能エネルギーへの移行をはじめ、超効率化、電気自動車、サーキュラー・エコノミー(循環経済)、再生可能農業、排出量ゼロ(ゼロ・エミッション)の建物など、全て実現可能性が高いと思う。さらに私たちは、リソースの大きな変化、つまりコミットメントの大きな展開も目前にしている。私はきっと実現すると信じている。

ー私は大統領選の民主党候補の取材で、ニューハンプシャー州に短期滞在しました。気候変動問題に関して、彼らの主張はどうだったでしょうか。候補者の多くはスピーチの最重要トピックか二番目の課題として取り上げていました。

現在残っている候補者にはとても感銘を受けている。「ああ、何ということだ」などという言葉が流行っているが、そうは感じない。優秀な候補者が多いと思う。実質的に全ての候補者が気候変動問題を最重要事項のひとつとして取り上げていることに、私は感動している。しかも一番か二番目のトピックに挙げている候補者もいるのだ。この状況は驚くべきことでもない。選挙を見ても、民主党支持者が気候変動問題を重要視していることは明らかだ。だから当然、候補者たちも有権者からのメッセージを受け止めようとしている。しかし候補者たちの多くは、それ以上に印象的で包括的なプランを提示しているのだ。


グリーン・ニューディールとグレタ・トゥーンベリについて

ー社会正義と経済的視点を組み合わせたグリーン・ニューディールについてのご意見をお聞かせください。あなたなら、正しい道を進むための第一歩と見ていると思います。

大賛成で、私は熱烈な支持者だ。先程、反核運動が起きた時代について触れたが、その当時私は核軍備制限について研究していた。私は核兵器の凍結はあまりに短絡すぎる考えで、実現は不可能だと考えていた。しかし大多数の米国民は「核兵器凍結に賛成だ」と声を上げ、民主党と共和党のどちらの政党でも多数派を占めた。最終的にロナルド・レーガンは大きな決断を下し、ソ連のゴルバチョフ書記長とゼロ・オプションについての交渉を開始し、さらに歴史的な戦略兵器削減交渉(START)の合意を取り付けた。当時、専門家を自任する人々が核兵器凍結を批判したが、今またグリーン・ニューディールに対しても同様のことが起きている。詳細は立法のプロセスで詰められていくだろう。私としては、大賛成だ。

ーあなたはグレタ・トゥーンベリ氏と面会し、彼女の行動に注目しているようですが、気候変動問題に関わる若者に対する彼女の影響力をどのように見ていますか?

彼女の出現は自然なことだと思う。彼女の発言の多くは記憶に残っているが、特に2019年9月の国連でのスピーチは印象に残っている。その時私は国連総会に出席していたが、彼女は集まった世界のリーダーたちに向かって「あなた方は科学を理解していると言うが、私は信じられない。科学を理解した上で今のような行為を続けているとしたら、あなた方は悪魔だ。私は信じない」というような意味のことをぶつけたのだ。それを聞いて私は「すごい!」と思った。率直に彼女はすごいと思った。「小さい子どもがそれらを導く」という聖書の一節が私の心の中で何度も思い起こされた。歴史を振り返っても、道義の上に立った社会運動が若い世代の参画によって転換点を迎えたことは、何度もある。「若者に希望を求めないで」と言い放つ彼女に、私は希望を感じる。彼女のような若い世代が私に希望を与えてくれるのだ。

ー最後の質問です。本題から逸れますが、最近ラルフ・ネーダーが、2000年の大統領選に立候補したことを20年経った今なお非難する人がいる、と述べていました。あなたとしては決着したのでしょうか?

ウィンストン・チャーチルの有名な言葉に、「米国人の行いはいつも正しい。ただしその前に全ての選択肢をやり尽くす」というのがある。2007年に私がワシントンDCの書店で自著『The Assault on Reason』の出版記念サイン会を開いた時、ネーダーが会場にやって来た。サインを求める人の列に並んだ彼の姿を見て、私は嬉しかった。わだかまりを引きずっていても良いことはないさ。