衛藤美彩、『静かな雨』で映画初主演「たい焼き屋さんに1週間弟子入りしました」

昨年、乃木坂46を卒業した衛藤美彩が、2月7日公開の『静かな雨』で映画初出演・初主演を果たす。原作は映画化もされた『羊と鋼の森』で直木賞を受賞した宮下奈都。衛藤とW主演を務めるのは仲野太賀。脇を固めるのはでんでん、村上淳、萩原聖人、河瀨直美など日本映画界になくてはならない実力派キャストたちだ。
衛藤が演じるのは事故によって新しい記憶を短時間しか留めておけなくなった女性、こよみ。映画は今日あったことを毎日忘れてしまうこよみと、彼女と生きる決意をした行助(ゆきすけ=仲野太賀)の日々を描いた、美しく切ないラブストーリーだ。衛藤美彩に映画初出演と初主演の話を聞いた。

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──映画初出演にして初主演、おめでとうございます。主演と聞いて、いかがでしたか?

衛藤 映画はいつか挑戦してみたかったので嬉しかったです。仲野太賀さんとW主演ということで安心感がありました。

──脚本を読んでの感想は?

衛藤 脚本も原作小説も読ませていただきました。現代において自分はどう生きていくのかを語りかけているお話だと思いました。試写会の後、監督さんや太賀さんと、「こういう映画ってあまり観たことないよね」と話しました。

──交通事故の影響で記憶に障害がある役を演じていますが、どのようにアプローチしていきましたか?

衛藤 今回演じたこよみは謎に包まれているんです。だから、自分とリンクさせるというやり方は通じなかったので、中川(龍太郎)監督にどんどん質問をして、こんな人生を送ってきたんじゃないかと想像して、こよみの年表を書いてみたりしながら固めていきました。パチンコ屋さんの前でたい焼き屋さんをやっているんですけど、こよみがパチンコを打つことがあるセリフからわかるので、実際に人生初のパチンコを打ちに行きました(笑)。そういうところから役柄のルーツに迫っていきました。

──映画やドラマの世界では、主役の人が現場の空気を作るといいます。そのために努力したことはありますか?

衛藤 太賀さんと監督は以前もご一緒したことがあったので、すでに空気ができ上がっている中に私が入っていく形になりました。なので、私は雰囲気に乗せていただいた感じですね。太賀さんいわく、「監督と僕だけでいると常にディスカッションをしてしまうから、衛藤さんがいてくれて助かった」って。だから、現場の雰囲気を柔らかくすることはできたのかな?と思っています。
静かな雨

──共演者の方とはどんなコミュニケーションがありましたか?

衛藤 村上淳さんは乃木坂46のことを応援してくださっているので、会った瞬間、「本物!」って言われました(笑)。元メンバーの西野七瀬や深川麻衣と共演したことがきっかけらしいんですけど、乃木坂46の番組も毎週チェックしてくださっているようです。大先輩なんですが、とてもフレンドリーに接してくださってうれしかったです。すごいと思ったのは、アドリブですね。本番前に私が飼っていた犬の名前を聞いて、セリフに入れてくるんです。しかも、二度と同じことを言わない。河瀨直美さんもそうでした。あるシーンでは全部アドリブでやられていて、「これが女優さんなんだ」と思いました。女優さんの本質に触れた気がしましたね。

──ご自身でその影響を受けたシーンはありますか?

衛藤 初めて行助の家に入るシーンはほぼアドリブでした。何回も撮るんですけど、同じことは言わないようにして。「ここに一人で住んでるの?」とか「たくさん本を読んでるんだね」とか、目に入ったものをセリフにするようにしました。その時にこよみが思ったことを口にすればいいわけですから、演技に不正解はないんだなと思いました。撮影期間は10日間でしたけど、とても濃い体験をさせていただきました。ただ、リハーサルなどを含めると1カ月以上の準備期間があって、たい焼きを焼く稽古に1週間通いました。

──そんな稽古が(笑)。

衛藤 やっぱり自然に焼いていないといけませんから。今でも焼けますよ(笑)。一度にたくさん焼くのではなく、私の場合は一丁焼き(焼きごて一つにつき、一つずつ作る)だったんですけど、そのほうが美味しく焼けるそうです。

──これまで何本もの舞台に立ってきましたが、初めての映画撮影を体験したことについては?

衛藤 映画もいいなぁと思いました。撮影が終わってから、完成するまで時間がかかりますよね。自分が参加していないシーンのことはわからないから、完成を観て、初めてつながるから自分が出演しているのに新鮮というか。舞台やミュージカルとはまた違った面白さを感じました。

──今までの経験が生きたと感じたことは?

衛藤 監督は、私が出演した舞台「三人姉妹」をご覧になって、出演を決めてくださったそうです。そうやって、作品と作品がつながっていくんです。声を褒めていただけることが多いので、自分の声を大切にしていこうと思っています。
静かな雨

──乃木坂46を卒業したのが2019年3月でした。1年近く経って、仕事への取り組み方に変化はありますか?

衛藤 自分に優しくなりました。グループにいると、どうしても誰かと比べてしまうので、自分に厳しくしないと頑張れませんでした。入った当初は特にですが、強くいなきゃいけないと思っていました。卒業後は時間をゆったり取れるようになったので、「おっとりしたね」と言われるようになりました。環境によって人は変わるということを実感しています。

──常に気を張ってもいたでしょうし。

衛藤 そうですね。以前は自分にも厳しくしていた分、人に対しても厳しくなってしまう時がありました。そのつもりはなかったけど、結果としてそうなっていました。でも、卒業後は、自分を労わってあげられる人が他人にも優しくしてあげられるんだな……なんて、空を見上げながら考えています(笑)。ここ何年か、空なんて見たこともなかったし、地面を見ればアリが歩いている。そんなことにも気づけませんでした。でも、それは当時の自分が前だけ見ていたからなんですよね。上や下を見る余裕がなかったのかもしれません。朝、パンを焼いて、コーヒーを飲んで……という時間の幸せを今は改めて感じています。

──心の余裕が、いい方向に向いている証拠ですね。

衛藤 以前はお休みがあると不安でした。「お仕事入れてください」ってお願いしていましたから。でも、今は朝起きてから、「今日は何しよっかな」と考えることもあるし、昼までだらだらしていることもあります。会いたい時、会いたい人に会いに行ける。心身ともにより充実した時間を過ごしています。

──1月8日にはフォトブック『Decision』も発売されました。

衛藤 アイスランドと(出身地の)大分県で撮り下ろしました。メイクやコスメのページもあって盛りだくさんですが、特にお勧めはインタビューのページです。卒業した今だからこそ話せることも書かれています。あと、母との対談も収録されていて、スタッフさん達もみんな、「感動した」と言ってくれました。自分を知っていただくためのコンテンツを入れたかったので、写真集ではなく、フォトブックにしたんです。お手に取ってくださるとありがたいですね。

▽映画『静かな雨』
2月7日(金)より全国順次公開
出演:仲野太賀、衛藤美彩、三浦透子、坂東龍汰、古舘寛治、川瀬陽太、河瀨直美、萩原聖人、村上淳、でんでん
監督:中川龍太郎
原作:宮下奈都『静かな雨』(文春文庫刊)