ボルトの1本に至るまでフルレストア!ひねりの効いたポルシェ911が完成するまで

これは、「羊の皮を着た狼」真っ赤なポルシェ911が秘めたスピードとパンチとは?の続きです。

サスペンションをフルレストアする間に、エンジンは仲間のマーティーに送った。130bhpの2.0リッターエンジンを2.2S仕様にコンバートするためだ。ボア84mmのシリンダーとピストンに交換し、ヘッドに手を加え、カムシャフトも交換した。その結果、出力は推定180bhpにまで向上した。
 
外観のオリジナリティと同様に、標準装備のソレックス製ツインキャブレターもそのまま生かした。ソレックス・キャブレターが残っていたのもこのクルマの特徴だ。初期型の911は、いずれかの時点でウェバーに交換されている場合が多いのである。しかし、ソレックスをきちんと調整して作動させるのは容易ではなかったとマグナスは話す。苦労の甲斐あって、今ではドライバーの気分次第で、子猫のようにのどを鳴らすことも虎のような唸りを上げることも可能だ。

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パフォーマンスの向上を計算に入れて、ブレーキはデュアル・マスターシリンダーとSスペックのベンチレーテッドディスクに4輪ともアップグレードした。また、ホイールもオリジナルの4.5Jではなく、1968年式の15インチ5.5Jのクロームめっきスチールホイールに代えた。とはいえ、よほど目ざとい人でなければ気づかないだろう。それは、フロントサスペンションをわずかに下げている点にも当てはまる。ハンドリングを改善するため、タイヤも太いものにした。オリジナルは165 m m 幅だったが、現在は195/65のブリヂストン製ラジアルタイヤを履く。


 
クルマを購入した際には、シートとドアパネルとステアリングは失われていたが、マグナスは当時のパーツをストックしているので、それほど問題にはならなかった。計器類はもちろん標準のヨーロッパ仕様だが、きちんとリビルドして再調整し、メーターを囲むベゼルもクロームめっきをやり直した。計器の下を飾るのは、オリジナルの化粧板を模したマホガニーのパネルだ。

この工夫によって、1960年代中頃のベッカー社のラジオ「メキシコ」を中央に付け加えることができた。すぐ近所に木工所を見つけると、オリジナルをベースにすべてが収まるパネルを製作してもらい、最後にマグナスが退色処理を施した。パネルの内側には後期のステレオスピーカーが隠れている。
 


ダッシュボードの左端に、外気温を示す温度計が付いているのにお気づきだろうか。摂氏表示のもので、ポルシェから取り寄せたこのクルマの"出生証明書"にも記載されている品だ。証明書にはほかにもサンルーフやベバスト製燃焼式ヒーター(マグナスの手で再装備した)、オプション装備のヘッドレストと千鳥格子のシートインサートが記されていた。
 
シートは証明書の通り千鳥格子でトリミングし直し、同じ生地をリアシートの一部にも使った。「ポルシェもプロトタイプではこの組み合わせを使っていたんだ。ところがどういう訳か、量産車ではこのリアのインサートは省略されて、単色の合皮になってしまった。千鳥格子を使うことにしたのは、インテリアをあの時代らしいユニークな印象にしたかったからだ。フロントの千鳥格子をリアにも使うことで、当時の雰囲気をうまく出せたと思う」

イエローのフォグランプは証明書には記載されていなかったが、購入したときに装着していたので、そのまま残すことにした。ほかのオリジナルのエクステリアトリムはクロームめっきをやり直し、ラバーシールも前後左右すべて新しいものに取り換えた。


 
マグナスはこのプロジェクトを次のようにまとめた。「このクーペには当時と同じパフォーマンス・アップグレードを施すように心掛けた。1960年代から70年代初頭にかけて、パフォーマンスを向上させるアップデートが新たに登場すると、ポルシェのオーナーはそれを導入して自分のクルマを継続的に進化させていた。ベンチレーテッド・ディスクブレーキや、デュアルサーキットのブレーキシステム、エンジンのパワーアップなどがその例だ」

「ボルトの1本に至るまでフルレストアしたのは、これが初めてだった。すべてバラバラにして、多くのパーツをクロームやカドミウムでめっきし直した。それに、アフターマーケットのパーツは一切使っていない。やりがいのあるプロジェクトだったよ。これまでに仕上げた911は、たいてい必要最小限に軽量化したモデルで、少ないほどいいというアプローチだった。だけどこの66年式では、もっとディテールにこだわった。ついホットロッドにしたくなって、自分を抑えなければならなかった」
 


作業はおよそ1000時間にのぼったというが、出来上がりには大満足だと話す。マグナスはグリーンの1966年式も所有しており、こちらは完全なオリジナル仕様だ。ファクトリーでの製造時期は3週間しか違わないが、走りではこの赤い911が楽々と勝利するだろう。自分なりの"ひねり"を加えて、50年以上前のクルマをまた1台甦らせたことに、マグナスは大きな達成感を味わっている。このクルマにとって、これからの50年が素晴らしいものとなることを祈りたい。