マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、2020年「英ポンド/米ドル」の相場がどうなるのかについて取り上げます。

  • 2020年「英ポンド/米ドル」の相場はどうなる?

前回は2020年「ユーロ/米ドル」の相場を考察しました。今回は「英ポンド/米ドル」の見通しについて考えてみましょう。

英ポンドもユーロ同様に米国の相場材料に大きく影響を受けることは間違いありません。例えば、2017年1月の米トランプ政権誕生後は、保護主義の台頭による米ドル安の裏返しとして、英ポンド高が進みました。

2018年は米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が着実に利上げを続けたことで米ドル高となり、英ポンドが下落しました。それらの点では、英ポンドもユーロも対米ドルで似た展開でした。

ブレグジットの混乱が英ポンドに大きく影響

ただし、英ポンドの場合は英国のEU(欧州連合)離脱、すなわちブレグジットというかなり特殊な事情で相場が動いてきた面も無視できません。とくに、2016年6月23日の英国の国民投票ではブレグジットが可決されるというビッグ・サプライズが発生、英ポンドは急落しました。

それ以降、英国のメイ首相(当時)がEUと離脱協定案で合意して英ポンドが買われた2018年11月~2019年3月。その協定案を英議会が3度にわたり否決して「合意なき離脱」の懸念が高まった2019年夏場までの英ポンド安などもありました。さらに、10月末の「合意なき離脱」が回避されて12月の総選挙でジョンソン首相の保守党が圧勝し英ポンドが上昇した場面が続きました。

そして、2020年に入り、英景気や物価の低迷に対して、BOE(英中銀)が利下げに動くとの観測が強まって英ポンドが軟化しています。

2020年英ポンドの2つの相場材料

さて、2020年の英ポンド/米ドルを考えるうえで、米国の金融政策はあまり大きな材料にならないかもしれません。FRBが当面の据え置きを示唆しており、緩やかな景気拡大と落ち着いた物価という想定される経済環境もそうした見方をサポートしているからです。

11月の米大統領選挙を控えたトランプ大統領の不規則発言&行動や、高値更新を続ける米株の変調などにも注意は必要かもしれませんが、英国サイドの主要な相場材料は次の2つでしょう。

英国とEUの交渉は継続

まず、ブレグジット後の英国とEUの新しい関係に関する交渉がこれから始まります。とくに、自由貿易協定での合意は最優先事項です。1月31日のブレグジットから移行期間が終了する2020年末までの11か月で包括的な合意に達するのは至難の業とみられています。

大きなブレークスルーがあれば、それを好感して英ポンドは上昇しそうです。ただ、どんな形であってもブレグジットは英経済に悪影響を与えるとみられ、2016年の国民投票前の水準に戻るのは難しそうです。

一方、英国とEUとの合意がない、あるいは合意が不十分なまま移行期間が終了するならば、英ポンドには強い下押し圧力が加わりそうです。ジョンソン首相は移行期間の延長を否定しており、延長申請の期限とされる6月末前後に懸念が強まる可能性もありそうです。ただし、その場合でも、「合意なき離脱」の懸念が最高潮だった2019年夏の水準までの英ポンド安はなさそうです。

英国中銀は複数回の利下げに踏み切るか

もう1つの相場材料となりそうなのが、BOE(英中銀)の金融政策です。2020年に入って発表された経済指標があまり芳しくなかったこともあり、BOEメンバーから近々の利下げを示唆する発言が相次ぎました。

早ければ1月30日のMPC(金融政策委員会)で利下げが実施される可能性もあります。BOEにとって、金融政策の変更は2018年8月の利下げ以来、利下げでは2016年8月以来の久しぶりとなります。

金融市場は「次の一手」としての利下げをかなり高い確率で織り込んでいます。ただ、利下げが実施されたうえで、追加利下げの可能性が示されるようであれば、英ポンドは下押すかもしれません。