2019年11月13日(水)〜15日(金)、幕張メッセ(千葉県)において開催されたInter BEE 2019。その会場内のカンファレンスエリア「INTER BEE CONNECTED」で行われたセッションプログラムでは放送・広告業界における最先端の取り組みが紹介された。

本稿では11月14日(木)に行われたセッション「消費行動の変化に広告主はどう対応し、テレビ業界は何をすべきか」をレポートする。このセッションは『InterBEE CONNECTED』のなかでも広告主が主体の“異色のセッション”として大きな注目を浴びた。

隣国・中国では流通におけるECの割合が大きく増加し、広告主の対応も大きく変わりつつある。同じ変化が日本にも起こりつつあるという現状を踏まえ、こうした消費行動の変化に広告主がどう対応していくのか、そしてテレビ業界としてとるべき道とは何かを探っていく。

左から盧誠錫氏、生井秀一氏、下川猛氏

パネリストは花王株式会社 先端技術戦略室 課長の生井秀一氏、楽天株式会社 グローバルアドディビジョン 市場ソリューション推進部 ゼネラルマネージャー/楽天データマーケティング 執行役員の盧誠錫氏、株式会社フジテレビジョン 総合事業局イベント事業センター ライツ事業戦略部兼コンテンツ事業センターコンテンツ事業室の下川猛氏。モデレーターは株式会社LivePark 代表取締役社長の安藤聖泰氏が務めた。

■決済からプロモーションまでEC業者が担う

セッション冒頭、安藤氏が日本における消費行動の変化についてコメント。消費行動そのもの軸がインターネット上に移りつつあるいま、マス側の立場として従来どおりのマスプロモーションのあり方に危機感をにじませる。

安藤氏:この10年、スマートフォンの登場で私たちの生活は大きく変化した。国内地上波各テレビ局が発表した2020年3月期決算予想では概ね広告出稿が落ち込むとの見方が強い。これまで言われてきた「テレビ広告費がインターネット広告へ流れている」ということもあるが、ほかにもっと根底の大きな変化 、具体的には消費行動の変化が出てきているのではないか。10年前よりも消費者は明らかにEC(E-Commerce:電子商取引)を経由して購入するようになり、「必要なものはスマホで買う」が当たり前になってきた。テレビ局はただ単に「インターネットにコンテンツを流す」のではなく、消費行動の変化を捉えた対応をしなければいけないのではないか。

国内最大級のECサイトを擁し、販売機能のみならず決済やプロモーション面もカバーする楽天。盧氏はインターネット側の最先端の立場から、いまや“EC先進国”である中国の現状を解説した。

盧氏: EC化率(ECを介した商品取引の割合)を見た場合、日本は6%前後。いっぽう中国は20%を超えている。中国のメーカー各社は「Tモール(天猫:アリババグループの中国最大ECサイト)」においた自社の公式店舗にて販売をしており、プロモーションもTモールへの出稿という形で行われる。ターゲットの購買パターンから逆算してプロモーションする方法が主流で、決済や販売機能など、実際に消費者が購入する窓口を握っているECサイト運営会社が上流のプロモーションも手掛けている。日本では中国ほどの極端な変化にはならないかもしれないが、今後の販売のありかたを考える上では無視できない。

日本でもYahoo!とLINEが経営統合を発表するなど、同じような方向への動きが予想される向きもある。いっぽうで盧氏はテレビ広告に対してポジティブな見方を示す。

盧氏:本当にテレビ広告は弱くなったのか? と思う。ゴールデンタイムのHUT(Households Using Television:リアルタイム視聴率)は2018年現在でも6割のリーチが取れている。やはりこれだけのリーチが取れるメディアはユーザーに物を買ってもらう意味では重要な存在。Yahoo!とLINEの統合でまとまったリーチは取れるかもしれないが、テレビもいまだ影響力を失っていない。むしろどう垂直統合していけるかが関心どころだ。

■ECを選ぶのは「顧客に合ったブランド価値が伝えられるから」

生井氏は花王でECマーケティング全般を担当。これまでに手掛けた事例を振り返りながら、感じた消費行動の変化について語った。

生井氏:2012年に自社ブランド「メリット」のシャンプーのプロモーションを担当したが、このときのヘアケアまわりの販売市場は大変だった。花王はこれまでマス向け施策を得意としてきたが、ここへ来てECチャネルに新興メーカーが勢いを付けて参入してきた。

そして、「2015年ごろには、テレビを中心にマーケティングの効果が出てきにくくなったと感じるようになった」と生井氏は語る。その理由として、

生井氏:消費者がより比較検討するようになった。かつては「テレビCMを流せばお店に買いに行ってくれる」と大変楽だったが、SNSの台頭によって消費者の声に意識が集まるようになり、新たな消費行動を作り出すイノベーター的な立場の人の発言を注視しなければならなくなった。

生井氏は同年にEC担当部署へと異動。これまでのマスマーケティングとは異なる戦い方を打ち出すようになったという。

生井氏:いかに消費者に「これはいい」というレビューをつけてもらい、広げてもらうか。そのための付加価値をいかにしてつけるかというのがECでは最重要課題となった。

同氏は具体的な例として、歯磨き製品の「ピュオーラ」におけるクリエイティブ変更の事例を紹介した。当初同製品ではマス向けにひとつのメッセージを発信していたが、ECで購入した人の口コミを見ると新しいアイディアがみつかった。

生井氏:お客様の口コミには、「研磨剤が入ってないから電動歯ブラシとの相性がよい」とあった。そこで「電動歯ブラシにおすすめ」というキャッチコピーを新たに打ち出し、広告を打った。消費者のリアルな声をもとに広告クリエイティブを変えるようになった。

結果としてECでは「ピュオーラ」そのものが持つ価値をクローズアップして伝えられ、プロモーション先として相性がよかった。

いま、日本のECではどんな消費行動がなされているのか。プロモーションにおいて重要なポイントはどう変わっていくのか。

盧氏:インターネットが普及した事で、消費者はより自分のものさしで判断して物を選ぶようになった。インターネットが普及する以前の世の中では商品について伝えられる媒体と情報量に限りがあったが、デジタル媒体には伝えられる情報量に制限がない。そのため、商品の成分・効能や、使用によって具体的にどう便利になるかなどの情報をより詳しく伝えることができ、その結果、消費者が本質的な商品の価値を深く知った上で判断することができるようになったためだ。そういった商品情報が、お買い物の場であるECサイトにも掲載されることで、消費者はより深く商品の情報を知った上でお買い物をするようになり、結果として価値の高い高単価の商品がECを中心に購入されるケースが増えている。

生井氏:『メリット』では2年ごとに商品を改良し、その都度テレビCMを打ってきたが、うまく消費者に価値を伝えきれていないと感じていた。『メリット』の本質的な商品価値は「ふわふわの泡立ち」であり、それはずっと変わらない。しかし、改良ごとに打つテレビCMでは「(改良に伴う)新しい要素」ばかりが伝わってしまい、他社製品に比べて本質的な商品価値を伝えられていないというのが課題だった。

デジタル媒体やECに限らず、メーカーとして伝えたいメッセージに応じた媒体選びが加速していると生井氏。

生井氏:現状、「テレビCMで伝えられないことは(デジタルなど)いろんな媒体で伝える」という方針。たとえばテレビにしてもインフォマーシャル(番組本編の体裁をとって出演者たちが直接広告する形態)で伝えたり、電車通勤客に向けて列車内のドア広告なども試したりした。

■「テレビCMをそのまま流すなら無意味」

媒体選びやその出稿方法にいたるまで、広告主サイドが「本来伝えたいメッセージ」に応じた新たなプロモーションの形を模索するなか、テレビ業界は何ができるのか。下川氏はテレビ業界の側から見た消費行動の変化について述べた。

下川氏:ゴールデンタイムにリビングでテレビを見るという行動が変わってきたり、テレビ受像機以外でテレビコンテンツを見る人が増えた。個室(自分の部屋)で見る人も多い。そもそも、21時まで家に帰らない人が多い。テレビ局としてもコンテンツの消費のされ方が変わっていることは認識しており、(広告主も媒体も、消費行動の変化への対応を迫られているという点で)お互い同じ悩みを持っているといえるだろう。テレビCMの枠はその構造上有限であり、必然的に流されるものは強いアテンションを目的としたものになる。結果、詳しい効能などを伝える場はWEBになっていく。テレビ媒体だけにこだわらず、テレビCMとWEB展開を複合的に考えないといけない時代かなと思う。

これに対し、生井氏が広告主サイドとして率直な意見をぶつけ、下川氏、安藤氏と議論に。

生井氏:テレビとWEBが一緒になって「伝えられないことが伝えられる」ならば興味がある。(テレビとWEB展開をセットで展開しても)これまでと同じものを配信するだけなら意味がない。それならまだテレビ本体に出稿するほうが効果的だ。これまでと違うコンテンツを作り、お客さんを呼んだ後にどう買わせるのかの設計が大事。たとえばテレビ単体、テレビ+TVer(キャッチアップ)それぞれどんな強みがあって、具体的にどう展開方法が変わるのか。そういった違いを明確に比較できなければいけない。

下川氏:例えば、キャッチアップサービスでいうとスマートフォン(で視聴中)の画面をクリッカブルCMにするとか、地上波ではできない長尺の動画広告を流せるとか、動画広告から直接ショッピングカートに商品を入れられるようにするとか、そういった仕掛けをつくることで新たな購入動線を作り出せるのではないか。テレビとネットを単純につなげるのではなく、いかに新しい仕組みとして提供するかが大事だと思っている。デジタルならではの広告モデルに放送局側も真剣に向き合って、新たな消費行動へとつなげたい。

安藤氏:限られたCM尺では(以前の商品との)差分くらいしかつたえられない、となると、CMフォーマットそのものを変えていかなければいけないか?

生井氏:残すべきところと変えたほうが良いところは分けて考えたほうがよい。テレビCMにしても、「いかにもCMっぽくない作り」にすることで成功するかもしれない。もともとマス媒体とデジタル媒体には求められる情報が違う。

■デジタルと「相性のよい」クリエイティブとは

テレビ業界サイドで「対応しなければ」という思いはつのるものの、その具体的なプランがまだまだ描ききれていない「デジタルならではのクリエイティブモデル」。具体的には何を参考にすればよいのか──。ここで生井氏が過去の事例を紹介した。

生井氏:以前楽天で高価格帯のシャンプー製品の動画広告を配信した際、「世界観を作り込んだ従前のテレビCMと同一内容のもの」「商品の具体的な使いどころに寄せたハウツー要素の強いもの」の2つのバージョンを作ってその反応の違いを見たところ、デジタル媒体では後者がよく見られた。これはどちらが良いか悪いかではなく、デジタル媒体のうえでの相性の良さを示すものだと考えている。EC化率が高いのは先にも述べたとおり「重くてかさばるもの」と、もうひとつは「悩み系」の商品。薄毛や白髪など、店頭で消費者が買いづらいものはEC化率が高い。そういった「(人には相談しづらい)悩みの解決」という方向に(クリエイティブの方向を)振ると、デジタル媒体上では購入につながりやすくなる。

ECサイトにおいても企業ごとに得意とする情報の出し方も異なる、と盧氏。

盧氏:Amazonは書店から、楽天は地方の製造小売の集合から始まった。Amazonは「みんなが知っている商品を便利に買える」、いっぽう楽天は「インターネットでしか買えない商品を買える」が当初のコンセプト。Amazonはみんなが知っているものをどこよりも簡単に買えるユーザー体験に特化していったし、楽天はセールを企画して人を集め、ひとつでも多くのお店に接触してもらって知らない商品に出会ってもらうことに特化していった。その結果、楽天に来るユーザーは「商品情報を詳しくみる」という行動を取るため、商品について深く訴求することと楽天は相性が良い。かつて楽天では「商品ページはながければ長いほうがいい」と言われ、実際に20メートル分にも及ぶ販売ページが存在した。本当に商品について深く知りたい人にとっては、たとえ20メートルもスクロールしなければならなくとも、判断材料となる情報をより得られたほうがありがたいというわけだ。

■消費行動の変化にテレビはどう対応するべきか

セッションが進むにつれ、広告主がデジタル媒体への出稿にどんな役割や意義を見出しているかが徐々に明らかとなってきた。これを踏まえ、テレビ業界として踏み出すべきつぎの一歩とは──。パネリストたちがそれぞれ考えを述べた。

盧氏:どのようにユーザーに買ってもらう行動を誘発させるか。一度に多くの人にリーチするという手段として、テレビは重要な存在だ。もっともテレビが伝えるのは広告だけではなく、災害報道など、なにかあったときの情報を伝えたり、文化創造の一翼を担っている。情報を伝えることに価値のある媒体だが、単に「情報を届けること」ばかりにこだわっていては価値観の変化に対応しきれない。伝え方やその深さをどう変えていくかということに軸足をおいていかなければいけない。

下川氏:これからは「この番組の視聴者はスマートフォン使用率が高いから、こうしたクリエイティブが効果的」といった具体的な戦略を立てていく時代になる。TVerの実数(視聴)ログなども活用しながらより細かなターゲット層を定義し、テレビ局側も具体的な提案ができるとよいと思う。

盧氏:いままで視聴者の共通項は年齢、性別のみで語られることが多かった。30代女性がみんな揃って同じ趣味や志向を持つことはありえないが、ある特定のシャンプーを買った人に共通する傾向があって、それがデータ分析によって浮かび上がったりする。こうした部分もコンテンツ制作に活かすことで、より効果的な広告が行えるのではないか。

生井氏:プロモーションはタイミングも大事。テレビCMをスポットで流した後に、その商品を薦めるメール配信をするとコンバージョンが上がることがわかった。こうした合わせ技も大事になってくる。消費行動がデジタル起点になったとき、テレビをどう展開していくかを(テレビ局と)一緒に考えていきたい。

安藤氏:広告主とともにこれからを考えられるということはとても大きい。テレビもリーチがあるとはいえ、ここから爆発的に上がっていくことは難しい。さらに、既存のテレビの延長だけ考えてもこれからの消費行動の変化には対応できない。クリエイティブの面でも消費者にとって比較検討の材料を与えるつくりにしたり、楽天などEC各社とともにマーケティングデータを連携させたり(ことで具体的なユーザー像や導線作りに取り組む)など、いままでのマスで伝えられてなかった部分に(テレビも)踏みこんでいく時代になっていくと思う。

消費行動の起点がマス媒体からデジタルヘシフトしている、という危機感をテレビ業界側のパネリストたちがあらわにする一方で、商品主やデジタル媒体側のパネリストたちはテレビのアテンションの高さを評価していた点が印象に残った今回のセッション。デジタルとテレビそれぞれの媒体としての特性を上手に利用した導線作り、そして共通したマーケティング基盤の整備が急務といえそうだ。いま、広告主と放送局が一丸となった「新しい広告づくり」が求められているのかもしれない。