病院へのお見舞い・差し入れに食べ物を持参してよいのか悩む方がいるようです。お見舞い品のマナー、考え方について、病院スタッフからのお願いも兼ねて解説します。

◆病院へのお見舞い・入院中に食べ物の差し入れは禁止?
大切な人が入院してしまったとき、何か手土産を持ってお見舞いに行こうと考える方は多いでしょう。しかし病院では感染防止のために「生花」を禁止しているところも多く、食事も治療の一環として決まったものを提供しています。何を持っていけばよいのか悩む方は少なくないと思います。

厳しいようですが医療提供側から申し上げますと、事前の相談のない食品の持ち込みは正直なところ非常に迷惑です。というのも、病院での食事は患者様の今の身体に必要な栄養素を過不足なく提供できるように献立を作成しているからです。

入院されている事情にもよりますが、ある程度の期間の入院の場合、病院では「食塩制限」や「エネルギー指示」など病気治癒のために、食材の選び方、味付け、調理の方法に至るまで、それぞれの患者様の病状に沿うよう、さまざまな工夫をした食事を提供しています。提供した食事以外のものを食べることは治療の妨げになってしまうこともあるのです。

また、病院の食事は衛生面にも最大限に配慮し、病気のときでも食べやすいように考えて作っています。患者様が好きな食べ物であっても、許可のない食べ物の差し入れは控えていただきたいというのが、申し訳ないのですが本音です。

それでもどうしても食べ物をという場合には、医師に確認をとり、許可を取った上でお願いいたします。

◆病院のお見舞い品・差し入れで食べ物の許可が出るケース
病院へのお見舞い品としての差し入れは、上記の通り、原則禁止です。ただし、医師から食べ物の持ち込みが許可される場合があります。高齢で老衰がすすんで認知もあるため、本当に好きなもの以外食べていただけない方、末期がんなどのため好きなものを食べていただきたい方などの場合です。

例えば、心臓に負担がかかっていて医師からの指示で「食塩制限食」が提供されていたとしても、まったく食べないのであれば、食塩過剰になることはありません。ふりかけをかければご飯を食べていただけるのであればその方がいいだろう、というような考え方です。

正直、ふりかけくらいなら、病院で用意できなくもないのですが、日本人は多くの場合食塩の摂りすぎです。食塩制限の指示のない患者様の食事についても、栄養科内で少し厳しい基準を設けて提供しているため、外食などの味付けよりも薄味になることが多いのです。

食塩制限をすることで治療効果が上がる患者様は、濃い味を好む人が多いので、病院提供のふりかけをかけている患者様がいることが分かれば不満を感じるでしょう。

それ以外の患者様でも外食の多い患者様など「味が薄い」とお話があった際に「薄味に慣れてください」と啓蒙するためにも、あえてふりかけを用意せず、医師の許可を取って持ち込んでもらうというスタイルをとるのです。

「ふりかけがあったら食べる」のほかにご要望が多いのは「アイスクリームなら食べる(時々は提供するのですが、溶けてしまうため、提供する頻度を上げようとすると厨房が悲鳴を上げます)」「○○のパンなら食べる(当院の近くに有名なパン店があるのです)」「コーヒーを飲ませてもいいですか? (お父様が入院された娘様からのご希望が多い)」といったもの。

いずれも必ず医師に確認して差し入れの許可をとり、病棟看護師に持参した旨を伝え、持参した人がいる間に食べていただくか、看護師に預けておいて体調のよいときに食べさせてもらうようにしてください。決して、許可なく無断で床頭台の引き出しなどに入れて帰ることのないようにお願いします。

なぜここまで厳重にお願いするかということもお話ししておきますね。 実際に私が体験した事故です。正月が明けてすぐのタイミングでノロウイルスが発生し、病棟全体がパンデミック状態になったことがあります。小康状態になるまでの約2カ月間、すべての患者様のお見舞いが禁止されました。

もちろん、厨房も病棟もスタッフは全員ノロウイルスは陰性。そうなるとお見舞い、お見舞い品を含め、外部から出入りされた方が持ち込まれたのだと考えられます。この時はどこから感染したのか特定することはできませんでしたが、不用意な差し入れは病棟内でのこういったリスクも上げることになり、他の患者様のご迷惑にもなりかねないのです。

お見舞いの品だけでなく、面会時間が決められているのも患者様の身体のために必要なルールです。必ず守ってください。

◆病院の医師・看護師・施設スタッフへの差し入れは?
時折、病院のスタッフにまでお気遣いをいただき、差し入れをちょうだいすることがあります。当院を好んでくださっているからこその心遣いであることは分かりますし、そういったお気持ちはたいへんありがたいものです。

しかし、病院スタッフへの差し入れはやはり必要ありません。大学病院等の厳しいところであれば、せっかく持参されても、一切受け取らないという病院もあります。

こんなことを書くと、気を悪くしてしまう方もいるかもしれませんが、大きい病院になればなるほど、癒着や賄賂といったものではないかと疑われてしまう可能性もあり、医師や看護師が困ってしまうこともあるのです。

医療費という正しい形で、患者様からの報酬はすでにちょうだいしています。できるなら、医療スタッフに差し入れを渡すお金で患者様に必要なものを1つ買って差し上げてください。そして、退院した後、再発しないように丁寧に生活していただけるのが何より嬉しいです。

ときどき、退院する患者様に「外来でならお目にかかりたいですが、病棟でお目にかかるのはこれっきりでお願いします」と申し上げることがあります。当院の入院患者様の平均年齢は80歳代ですので、高血圧の薬やコレステロールの薬などを常に服薬している人がほとんどです。

それらの薬は外来受診の後に処方箋が出ますので、外来に来ているということは、その人なりに元気に生活できているという証になります。

病院では医師、看護師、薬剤師、検査技師、管理栄養士など、さまざまな職種の人間が働いています。持ち場、持ち場で思うことはありますが、いずれも「患者様によくなってほしい」「快適な時間を過ごしてほしい」と患者様や利用者様の幸せを願って、日々の業務に当たっています。

病院で「最近、○○さんの顔を見ないけど元気かな?」というと笑い話のようですが、お元気で過ごしていただけるのであれば、それが何よりの医療人の励みになります。

以上、厳しい言葉も書かせていただきましたが、病院や病院スタッフと適度な距離感を保って、お互いに気持ちの良い医療体制を作っていけたらこんなに嬉しいことはありません。

◇平井 千里プロフィール
メタボ研究を行いエビデンスに則ったダイエットを教える管理栄養士。小田原短期大学 食物栄養学科 准教授。女子栄養大学大学院(博士課程)修了。前職の病院での栄養科責任者、栄養相談業務の経験を活かし、現在は教壇に立つ傍ら、実践に即した栄養の基礎を発信している。

文=平井 千里(管理栄養士)