フルサイズミラーレスなどのレンズ交換式カメラは、開放F値が小さい大口径レンズが人気を集めています。薄暗いシーンでも感度の上昇を抑えてきれいに撮れるだけでなく、なんといってもボケの表現が大きく印象的になるから。35mmクラスの広角レンズだとF1.4が標準的ですが、シグマが発売したミラーレス用レンズ「35mm F1.2 DG DN」は、ひとまわり明るいF1.2とした点が話題を呼んでいます。三井カメラマンがLマウントのフルサイズミラーレス「SIGMA fp」に装着して実力をチェックしてみました。

  • シグマのミラーレス用レンズ「35mm F1.2 DG DN」。Eマウント用とLマウント用の2種類を用意する。実売価格は、いずれも税込み15万円前後(+ポイント10%)

レンズ自体は重量級、重さは1kg超え!

シグマの「35mm F1.2 DG DN」は、このクラスのレンズで標準的な開放F1.4よりもひとまわり明るい開放F1.2とした大口径レンズ。開放F1.2のレンズは、シグマとしても初めてとなる意欲作です。「DG DN」の名称からも分かる通り、ミラーレスカメラ専用設計としており、絞り開放からシャープな写りが得られるとしています。

そのルックスは、昨今のシグマのデザイントレンド「SGV(シグマグローバルビジョン)」の流れを汲んでいます。ソリッドでクールな印象は、fpと組み合わせた際にマッチすると感じました。

  • F1.2という明るさだけに、フィルター径は82mm、重さは約1,090gと、堂々としたサイズ感のレンズだ

フルサイズミラーレスでは世界最小・最軽量のfpとは対称的に、このレンズはとてもボリュームがある仕上がりになっています。フィルター径は82mmで全長は136.2mm、重量は1,090gと、大口径ズームレンズ並みの存在感。fpに装着した場合は、別売りのLCDビューファインダー「LVF-11」と併用するとバランスが取れて使いやすいと感じました。

絞り開放から使える描写性能と立体感に満足

レンズ構成は12群17枚で、SLDガラスを3枚、両面非球面レンズを含む非球面レンズ3枚を最適に配置。ショートフランジバックのミラーレスカメラ専用の光学設計にしたうえで、歪曲収差や周辺減光はカメラ内補正機能を効果的に使うことにより、高画質に仕上げたといいます。過酷な環境下での使用にも耐える防塵防滴機構とともに、レンズ最前面には撥水・防汚コートを施しているので、屋外でも安心して使えます。

写りも、絞り開放から安心して使えるシャープネスさを持っていると感じました。F1.2の開放絞りではきわめて薄いピントとなりますが、fpのAF性能が素晴らしく、絞り開放で積極的に使えました。フルサイズということもあり、開放時のボケ味は大きく豊かなもので、見る人に空間の奥行きと立体感を存分に味わせてくれます。もちろん、少し絞ればシャープネスとコントラストはグンと向上し、克明な描写を見せてくれます。

35mmという普遍的な画角をF1.2という明るさとボケ味でどう絵作りするか、あれこれ考えるのが楽しいレンズといえます。LマウントとEマウントでとっておきの作品を撮りたいと考えるユーザーなら、一度試してほしいと思います。

  • とても存在感のあるレンズで、fpに装着する場合はLCDビューファインダーを併用すると重量バランスがよくなると感じます。少しだけ絞り、放置されているスツールを撮りましたが、座面の素材感や背景に写るシャッターのサビ具合がよく伝わります(ISO100、1/80秒、F3.5、-0.7補正)

  • とても大きく重いレンズですが、オートフォーカスのレスポンスはまずまず高速。貨物列車が通る踏切での光景をパッと撮りましたが、イメージのとおりに合焦してくれました。35mmというクセのないパースペクティブで、自然なスナップが楽しめます(ISO100、1/100秒、F4.0、-1.3補正)

  • このレンズ最大の魅力は、なんといっても「F1.2」という明るさでしょう。光量が少ないシーンで活躍するのはもちろん、背景をぼかしたいときにこのF値が役に立ちます。捨てられている自転車を運河沿いで撮影しましたが、広角レンズながら背景からしっかりと浮かび上がってくれました。開放ながらシャープな写りで、貼られているステッカーまで判別できるのには驚きました(ISO250、1/40秒、F1.2、-1.7補正)

  • 同じ運河沿いにあるお店のネオンにフォーカスしました。透き通ったネオン管の繊細な描写とクリアなヌケ感が何ともいえません。コントロール性に優れる絞りリングは、左手で繰っていて実に楽しくなります(ISO100、1/125秒、F1.2、-1.7補正)

  • 湧き水でできた池に生える植物を、絞り開放で撮影。F1.2なのに、この精細感には驚きました。水面に浮かぶ枯れ葉と、そこに写るボケた木々のハーモニーの美しいこと!(ISO100、1/100秒、F1.2、-0.7補正)

  • 神社の参拝者が鈴を鳴らすための神具「鈴緒」をアップで。最短撮影距離は30cmと短めなので、F1.2の絞り開放ながら年季の入った房網のディテールを素晴らしく捉えてくれました。背景のボケもスムーズかつリッチで、fpのカラーモード「ティールアンドオレンジ」とマッチし、画面に奥行きをもたらしてくれています(ISO100、1/250秒、F1.2、-1.7補正)

  • 絞り開放で使うのは本当に楽しいと感じます。自然で連続感のあるボケと、周辺光量落ちを使っての絵作りにハマってしまいそうです。ややコッテリとした色のりも、fpのカラーモード「ティールアンドオレンジ」と相性がよく、絵がキマッてくれます(ISO100、1/8000秒、F1.2、-1補正)

  • 国分寺崖線の湧水に生えるシダ類をF1.2の絞り開放で接近して撮影しました。美しくボケる背景が、LCDビューファインダー「LVF-11」を通して目に飛び込んできます。葉脈まで確認できる精細さと、そこに同居する上品なボケ感がたまりません(ISO100、1/1250秒、F1.2、-0.7補正)