34年をかけ「疲れ果てた」姿からサーキットマシンへと進化したポルシェ911

初期型911 Sレジストリーの管理人を務める一人であるジョン・ディルガーが保有する、〝疲れ果てた〞1971年911カレラSは34年をかけ、美しいサーキットマシンへと進化を遂げた。

ポルシェといえば軽量、高性能、緻密、耐久性というキーワードがいつの時代にも付いて離れず、モータースポーツとは切っても切れない間柄だ。週末の草レースから国際レースまで、ポルシェの姿を見かけないことはない。それこそ世界中に愛好者がいて、911をチューニングするノウハウは潤沢に蓄積されている。しかし、今回紹介する71年式911カレラSのオーナー、ジョン・ディルガーの右に出るエンスージアストも少ないと思う。
 
ジョンは" R-Gruppe"のメンバーであり、初期型911Sレジストリーの管理人であり、クラブの会報誌『Esses』でライター兼カメラマンを務めてもいる。いつもは取材する側が取材されるのは新鮮だとジョンは笑う。



「1972年に大学を卒業後、たまたま新聞広告で見つけた地元のポルシェセールスマンの職に就きました。奇しくも前年、同じディーラーで914を購入したことに縁を感じましたね」
 
当時、ポルシェの販売手法はユニークで、セールスマンはいわば"実演販売"していた。保険代もガソリン代もディーラーが経費負担し、セールスマンは売り物を乗り回しながら販売していたのだ。引き渡し時には数千マイル走っていることもザラだったが、そうした"デモカー" に新車保証がつけられて購入者に納車されていた。


 
セールスマンとしてのジョンは、年間4台の新車に"乗る"ことが仕事で、そうした夢のような生活が8年間も続いたという。勤務先のディーラーからの支援もあり、ジョンがほとんど乗ることがなくなった914は、サーキット仕様にモディファイが施された。常に新しいポルシェに乗ることが仕事で、休日にはピックアップに914を載せてサーキットに通うという、クルマ好きの誰もが羨む人生を送っていた。

ただし、幸せは長続きしにくい…。1980年、ジョンは離婚によって多額の慰謝料を支払うことになった。サーキット通いをする資金はなくなり、サーキット通いするためのピックアップも、肝心のサーキットラン用914も手放さざるを得なかった。



「なんとか自分の生活を立て直し、この1972年911Sを手に入れるまでに4年かかりました。とはいってもギリギリの予算で購入したので、当時はただの古ぼけたスポーツカーでしたがね」とジョンは笑う。

ボディ各所に凹みがあったものの、機関には問題がなかった。エアコンやサンルーフなどの快適装備はなかったが、スポーツシートは装着されていた。914に代わるサーキット仕様車を望んでいたので、ちょうどよかったという。前オーナーがこの911Sを見ても、まさか同じ車両だとは思うまい。購入時のジョンでさえ、今の姿を想像していなかったに違いない。

当初、目論んでいたチューニングといえばスタビライザーとトーションバーの強化、軽量化のための不要なインテリアの取り外し、クロスレシオのトランスミッションに載せ替え、LSDの見直しといった定番メニューだった。時を同じくして、ジョンは初期型911Sレジストリーの活動に加わることになった。


・・・次回へ続く