ウーバーイーツで話題のギグワーカーは自由な生き方を後押しできるか?


働く人が個人の事情に応じた多様で柔軟な働き方を選択できるようにと、国や企業によって「働き方改革」が進められています。

深刻な労働力不足を解消するべく、時短勤務、副業の解禁、パートタイム労働者の待遇格差解消など、さまざまな取り組みがなされる一方、勤務時間の短縮で収入が減るほか、ジタハラなどの別の問題も浮かび上がり、労働者にとっては良いことばかりと言えない事態になっています。

そんな中、ここ数年「ギグワーカー」という働き方を選択する人が増えているそうです。

欧米では社会に浸透しているというこのワークスタイル。インターネットを介して、労働者が働きたい時間だけ労働力を提供するというものですが、日本では、2016年に飲食店の料理宅配サービス「Uber Eats(ウーバーイーツ)」が登場。その利便性とともに、副業として配達パートナーをする人の働き方が話題になりました。

終身雇用制度や年金制度が形骸化しつつある今、ギグワーカーは生涯現役を目指す中高年や、決められた時間に出社ができない子育てや介護中の主婦、自分らしい生き方を探る若年層など、多くの人の期待を集め、自由な経済活動や、生き方そのものの多様化を後押しするものになるのでしょうか。

まだまだ耳慣れないギグワーカーとはなんなのか、起業支援キャリアカウンセラーの新井一さんに聞きました。

もっと自由な生き方を実現したいなら、副業的にギグワーカーを取り入れ、実力をつけたうえで起業を考えることも

Q: インターネットを介して単発の仕事を受けるギグワーカーとは、どのような仕組みでしょうか。
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「ギグ」とは、もともとはミュージシャンが細かい打ち合わせなしで、即興的にステージセッションを行うことです。そこから派生して、インターネットを通じて、自分の空いている時間に単発で仕事を請けることを、ギグワークと呼んでいるようです。業務の内容は、IT系の作業、専門性の高い業務、単純労働などがあります。

新しい働き方というよりは、以前から存在していた在宅ワーク、フリーランス、クラウドソーシングといった、企業と労使契約を結ばないワークスタイルの中の、特に部分的な作業を単発で行うものに、最近になってキャッチーな名称をつけたというような印象を持っています。

Q:フリーランス、クラウドソーシングによる在宅ワーカーもギグワーカーと言えるのですか?
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フリーランスは、専門スキルを持つ個人事業主として、企業と雇用契約を結ばずに仕事を請け負うワークスタイル。仕事の内容は、単発のプロジェクトをまるごと請け負う人もいれば、部分作業だけを請ける人もあり、業務内容だけでギグワーカーと並列することには無理があります。

クラウドソーシングや在宅ワークと呼ばれるものにしても、ランサーズ、クラウドワークス、シュフティなどのサイト運営者や、キャリア・マム、Job-Hubマルチソーシングなどの仲介業者を介して、自分の空き時間に仕事をするというスタイルで見ると、現時点ではギグワークとの違いは、あまり明確ではないように思います。

ギグワークが注目されるきっかけとなった「ウーバーイーツ」にしても、やっと労働組合が機能しはじめたばかりですし、まだ、この働き方の定義も解釈も定まっていないというのが現状ではないでしょうか。

Q:実際、どんな人がどのようにギグワーカーとして仕事をしているのですか?
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これまではギグワーカーと言えば、正社員として企業に勤めていない人、フリーランスや学生、主婦、フリーターといった人が、自由な時間に仕事をするというイメージでした。近年、国が働き方改革の一環として、副業・兼業の普及を進めていることもあって、企業に勤める人の中にもいち早く反応し、単発の仕事をする人が増えてきたようです。

具体的には、ウーバーイーツなどのように、アプリや公式サイトから登録して仕事を開始するものがほとんどのようです。「ココナラ」や「ストアカ」といったアプリで、得意なことやスキルを売り買いできるものや、「minne」など、個人のハンドメイド作品を売り買いできるもの、ブログのライティング、データ入力、プログラミング、アプリ開発、買い物代行、物流、経理代行と、業務内容はさまざまです。

今後、企業や個人のニーズの高まりによっては、一時的にしろ、さらに多岐にわたって業務の幅が広がると思われます。

Q:アルバイトや派遣などとも違うギグワークという働き方のメリットは?
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介護や子育てなどで、決まった時間や場所に出かけるという働き方が難しい人も、隙間時間に仕事をすることができます。また、単純に空き時間を労働に充てることができるので、その分の収入が増えるというメリットがあります。

労働時間や勤務方法、仕事量、働く場所を柔軟に選ぶことができるので、自分のワークライフバランスをコントロールできるのが魅力と言えるでしょう。

終身雇用が形骸化しているうえに、大企業に勤めていても「大きな労働サイクルの中の一部でしかない」などと感じている人には、別の仕事に携わることで、新たな価値観が生まれるきっかけにもなるでしょう。

主体的に仕事をするという働き方から、下請け作業のみに終わらず、副業から本業へ、さらには起業へとバージョンアップしていくことも可能になるかもしれません。

依頼する企業側は、経費と時間を使って従業員を育てるなど固定のコストを支払わずに、案件ごとの支払いで済むギグワーカーを利用した方がコストの削減にもなります。一時的な労働力の確保も容易ですし、慢性的な人手不足の解消にもなります。

Q:自由度の高さが注目されるギグワーカーですが、それゆえのデメリットはどんなことが考えられますか?
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収入が安定しないということにデメリットを見る向きもありますが、そもそも、それも納得したうえで、自由な働き方を選ぶのであれば、そこはあまり期待すべきではないと考えます。

とは言え、誰でもできる単発の作業をもらう下請けに甘んじてしまうと、労働量に比べてあまりに安価に使われてしまうという事態になりがちです。

労働者であれば当然保障されるべき最低賃金や、労災・雇用保険、有給休暇といった労働にまつわる法律の適用を受けることができないことを考えると、ギグワークだけで生計を立てるのは、まだまだ不安要素が多いと言えるでしょう。

労災に関しても、ギグワーカーの草分け的なウーバーイーツの配達員で構成する労働組合が、ようやく補償制度を導入したばかりで、その適用範囲も十分とは言えません。

実際にウェブライティングやプログラミングなどを依頼した経験からすると、中にはプロ意識に欠けるワーカーが存在しているのも事実で、納品せずに連絡がとれなくなるという事態が何度もありました。

単純作業であっても、個人の意識やスキルに差があるうえに、依頼する側には見極めがつきにくいというリスクがあります。

業務に報酬が発生する以上、最低限の社会常識を踏まえる必要がありますし、依頼側にも発注するためのスキルや管理ノウハウが必要です。

Q:今後、日本でも欧米のようにギグワーカーによる経済活動「ギグエコノミー」が浸透していくのでしょうか?
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国の施策としても、労働力確保のためのルール整備や支援が進むことは間違いありません。

ただ、終身雇用が崩壊し、年金制度が厳しくなってきているとしても、働き盛りの世代や、これから就職を考える若い世代の中には、大企業の安定した労働環境を支持する風潮が根強いのも現実です。転職も以前より一般的になったとはいえ、欧米の比較になりません。

また、数年後に実施予定のインボイス制度(適格請求書発行事業者以外からの仕入れ等については、仕入税額控除ができなくなる制度)などが、多くのギグワーカーに不利に働くことも想定されており、多くの人が満足できるまでにはまだ時間がかかりそうです。

Q:ギグワーカーは自由な生き方を後押しする働き方と言えるのでしょうか?
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ワークスタイルを選ぶことは、突き詰めると、その人が何に重きをおいて生活していくのかにかかってくると思います。

生活の安定を最優先するにしても、今の時代、大企業に属しているから安心ということはありませんし、自分の得意なことを仕事で生かしたいのか、仕事以外に優先したいことがあるのか、人それぞれの考え方があるかと思います。

何を優先するにしても、その働き方で、優先したいことが実際に実現可能なのかを見極める必要があります。

いずれにしても、自分で自由な働き方や仕事に挑戦できることは、どの世代にとっても、理想の生活に近づくために大きな意味があると思います。

個人的には、ギグエコノミーの環境整備が途上の現時点では、あくまで副業的に活用し、実力をつけたうえで起業を考えるなど、発展的に捉えることが、もっと自由な生き方に近づく方法ではないかと思っています。

(新井 一:起業コンサルタント)