■度重なる計画変更で現在の位置に

ところで、湘南モノレールに実際に乗車すると、多くの人が「なぜ、終点の湘南江の島駅はやや内陸寄りの、しかもビルの5階(ホームは地上約15m)に位置する空中駅なのか」との疑問を持つのではないか。これにも理由があり、概要をまとめると以下の通りである。

  • 湘南江の島駅ホーム。全通記念の花電車と竜口山隧道(提供 : 湘南モノレール)

  • 湘南江の島駅に到着した全通記念の花電車(提供 : 湘南モノレール)

  • 開業当時の湘南江の島駅(提供 : 湘南モノレール)

まず、計画の初期段階では、やはり江の島へのアクセスが良い小田急電鉄の片瀬江ノ島駅と境川を挟んで向かい側付近に駅を設置する予定だった。しかし、土地の有力者と話し合った結果、これが不可能となり、「次善の策として海岸まで100メートルの距離にある片瀬内住宅土地共約2,000坪を日立金属工業から約2億2千万円で買受け、ここを終点駅として竜口山中心部を隧道で抜き県道上を横断して江ノ電江ノ島駅の中央部を通過する」(『設営の記録』)計画に変更した。

しかし、「江ノ電駅中央部を横断することについては江ノ電側の強硬反対論」(『設営の記録』)に遭い、江ノ電の親会社である小田急電鉄の社長(当時)、安藤楢六氏の仲裁で、「江ノ島駅の藤沢寄り洲鼻通上を横断することを江ノ電は承認することとして(中略)当社予定の2,000坪の土地を放棄し、洲鼻通の江ノ電駅付近に設けることに変更した」(『設営の記録』)という。

  • 湘南江の島駅付近略図。当初予定線、第二次予定線および最終的に決定した駅の位置が描かれている(『湘南モノレール 設営の記録』より)

ところが、この計画も駅用地の交渉で暗礁に乗り上げ、結局、現在の駅の位置に「後退せざるを得ない結果」(『設営の記録』)になった。また、駅が隧道を出てすぐの位置になったため、ホームを隧道出口と同じ高さに設置せざるをえなかった。以上が湘南江の島駅の位置決定に至るあらましである。

■開業50周年の湘南モノレール、2020年の展望は

湘南モノレールは2015(平成27)年5月に経営共創基盤の傘下企業、みちのりホールディングスに株式が譲渡され、同年10月に尾渡英生氏が代表取締役社長に就任。新体制となった。尾渡社長は開業50周年に寄せて、次のように話す。

「今年は江の島が東京オリンピック・パラリンピックの会場になります。この記念すべき年に、われわれは偶然にも開業50周年をむかえることになります。まずは、これまで当社を支えてくださった地域の皆様との連携を深めていく一年間にしたいと思います。

また、当社は東京オリンピック・パラリンピックを大きな目標として、ここ数年間、湘南江の島駅をはじめとする各駅のバリアフリー化やPASMO(パスモ)の導入など様々なインフラ整備を行ってきました。今年は世界各国から多くの方々が、当社沿線を訪れていただけることと思います。このことを念頭に置きつつ、3月7日の開業記念日を皮切りに様々なイベントを行い、“楽しい乗り物”という部分をしっかりとアピールしていきたいと考えています」

今回は湘南モノレール沿線を散策した。筆者の地元にも近く、たびたび利用する路線が開業に至るまでに多くの人の苦労があったことを改めて知り、感慨を覚えた。湘南モノレールが無事に開業50周年を迎えられることに、心よりの祝福を申し上げたい。

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

慶應義塾大学卒。IT企業に勤務し、政府系システムの開発等に携わった後、コラムニストに転身し、メディアへ旅行・観光、地域経済の動向などに関する記事を寄稿している。現在、大磯町観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員、温泉ソムリエ、オールアバウト公式国内旅行ガイド。テレビ、ラジオにも多数出演。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。