羽田空港や成田空港で飛行機の撮影をしていると、時折、見慣れた民航機とは違う、ずっと小型のジェット機が離着陸するのを見かけることがある。これが、「カルロス・ゴーン逃亡事件」で一躍脚光を浴びることになってしまった、ビジネスジェットと呼ばれる機体である。

ビジネスジェットとは、何者か?

日本では「自家用機」というものに馴染みが薄いから、飛行機に乗るといえばすなわち、定期便の旅客機に乗るということ。という方が大半ではないだろうか。実際問題として、多くの移動は定期便で用が足りる。

ところが、何事にも例外は発生する。世界を股にかけて事業を展開している大企業のトップが、急いで海外に移動しなければならないという時に、都合のいいフライトがあるかどうか。はたまた、フライトがあっても空席があるかどうか。

大企業のトップの動向は事業の動向に直結するから、例えば隠密裏に提携交渉をしようとして相手先に向かった時に、それを目撃されて要らぬ勘ぐりをされる、なんてこともあり得る。また、芸能関係者やスポーツ選手などの著名人であれば、定期便で移動すると「追っかけ」が発生してドタバタしてしまう可能性もある。

そうした問題を解決する手段がビジネスジェット機だ。「ビジネス」と付くから仕事の移動に限られるのかというと、そういうものではない。「プライベートジェット機」という方が実情に即しているかもしれない。平たく言えば、「個人レベルで好きに使用できるジェット機」である。

定期便と違い、決まった運航スケジュールはない。必要な時に必要なところまで飛ばすという種類のものだから、突発的な移動、あるいは隠密裏の移動には都合がよい。

ただし、その機体を利用する人が自ら機体を購入して飛ばす、とは限らない。第一、移動する当人が操縦資格を持っているとは限らない(むしろ、持っていないことが大半だろう)。だから、機体を利用する人がオーナーとなり、運航や整備の実務は専門業者に委託する形になる。

また、複数のオーナーで機体の所有権を分割して、出資比率に応じて機体の飛行時間を「買う」 という形態もある。「いつでも好きな時に飛ばせる」という理想からは一歩後退するが、ビジネスジェット機利用の敷居を下げる効果は大きい。

このほか、自ら保有しているわけではなく、必要に応じて運航会社の機体をチャーターする形態もある。

変わった形態としては「F1ドライバーが自ら操縦資格を取得して、レースが終わったら自宅まで自家用ジェット機を操縦して帰る」なんていうものもある。

どんな機種があるの?

ビジネスジェット機は少人数の移動に使用するものだから、そんなに大型の機体は必要ない。せいぜい十数人も乗れれば十分である。しかし、小型だから航続距離が短いとは限らず、ものによっては10,000km以上飛べるものもある。

馴染み深いメーカーとしては、ガルフストリーム(米)、セスナ(米)、ボンバルディア(加)、ダッソー・アビアシオン(仏)、エンブラエル(伯)といったところがある。

そのすべてを紹介するにはスペースがないので、最新鋭のフラッグシップ機として、ガルフストリームG700の製品情報ページにリンクしておこう。

Gulfstream G700https://www.gulfstream.com/aircraft/gulfstream-g700

G700の航続距離は最大13,890km。ゴージャスな内装を見るだけで、目がクラクラしそうだ。機体は量産品だが、内装は買い手がカスタマイズできる。そこでかかるコストが気になるような人は、最初からビジネスジェット機なんて買わない。

ちなみにG700のお値段は7,500万ドルだそうだ。なんと、「機体単価8,000万ドル切り」が話題になっているF-35Aに迫るお値段である!

  • ガルフストリームG650(VP-BLF)。マークプラン・チャーター所属 撮影:井上孝司

    ガルフストリームG650(VP-BLF)。マークプラン・チャーター所属

  • ボンバルディア・グローバル6000(N2020Q)。以前、ZOZOファウンダーの前澤友作氏が所有していた機体

    ボンバルディア・グローバル6000(N2020Q)。以前、ZOZOファウンダーの前澤友作氏が所有していた機体

  • エンブラエルEMB-135BJレガシー650。中国の東方公務航空所属

    エンブラエルEMB-135BJレガシー650。中国の東方公務航空所属

日本では買い手がいないから展示会にも滅多に出てこないが、海外になると話は別。たとえばオーストラリアで隔年開催しているアヴァロン・エアショーでは、多数のビジネスジェット機が屋外の展示エリアに並んでいた。アメリカだと、ビジネスジェット機「だけ」の展示会があるぐらいだ。

  • アヴァロン・エアショーで展示されていた、ダッソー・ファルコン8X。国土が広いオーストラリアなら需要はありそう

    アヴァロン・エアショーで展示されていた、ダッソー・ファルコン8X。国土が広いオーストラリアなら需要はありそう

ちなみに、「カルロス・ゴーン逃亡事件」で登場した機体は、トルコの運航会社であるMNGジェットが飛ばしているボンバルディア・グローバルエクスプレス(登録記号TC-TSR)だった。

近年、ホンダ・エアクラフト・カンパニーのHondaJetが販売実績を伸ばしているが、これもビジネスジェット機の1つ。ただし、欧米のメジャーどころと比較すると小型の機体であり、航続距離も2,200~2,600km程度と短め。

なお、先に書いたこととは矛盾するが、ボーイングやエアバスが既存の旅客機をベースにしたビジネスジェット機を売り出している。といっても、ベースモデルは737やA320といった単通路機で、ボーイングはBBJ(Boeing Business Jet)、エアバスはACJ(Airbus Corporate Jet)と称している。中東の石油王ぐらいになると、この手の機体を買っても懐は痛まない。