2010年代の音楽業界を揺るがしたニュース50選

2010年から2019年までの10年間、ビジネスとしても文化としても、音楽は過去に例を見ないほど大きな変化を経験した。その中でもとりわけ人々の印象に残った50のニュースを列挙する。

嵐のように過ぎ去っていったこの10年間、音楽業界は素晴らしく充実し、同時に混迷を極めた。スタートアップが古くなったヒエラルキーを破壊し、因習の打破と斬新なアイディアで勝負する人々が台頭し、音楽以外の面で影響力を発揮するアーティストたちが登場し、IT企業が何十年と続いてきた業界の構造を刷新し、音楽業界は再び金を生み出し始めた。これらでさえ、過去10年間のうちに起きた画期的な出来事のごく一部でしかない。

この10年間がもたらした怒涛の変化は、アーティストとファン、そして業界の権力者たちの力関係を根本から覆した。これからの数年間で、その影響は我々の目に見える形で現れるだろう。2010年代の音楽業界を震撼させた50のニュースを、時系列に沿って紹介する。


1. TicketmasterとLive Nationが合併し、世界最大のコンサートプロモーターが誕生

Tom Williams/Roll Call/Getty Images

2010年1月 — アメリカ合衆国司法省は、世界全体で44億ドルと言われるコンサート市場における2大企業の合併案を承認した。物議を醸したこの案について、業界の実力者であるIrving Azoffは「音楽ファンにとって喜ばしい出来事」と語った(しかし次の10年間、コンサート愛好家たちの多くはそう思わなかっただろう)


2. ザ・ビートルズの曲がiTunesで解禁

Justin Sullivan/Getty Images

2010年11月 ー 長年の封印が解かれ、ビートルズの全作品がAppleのiTunesで販売開始された。バンド側に極めて有利なそのディールは、ビートルズのファンにとっては喜ぶべきことであると同時に、抗えない時代の流れを象徴する出来事だった。しかしデジタル配信全盛の時代は、やがてストリーミングの隆盛により終焉を迎えることになる。

3. レベッカ・ブラック「Friday」の大ヒット

Chris Pizzello/AP/Shutterstock

2011年3月 ー 当時13歳のレベッカ・ブラックが発表したこの無害な曲は、何カ月にもわたってチャートを席巻した。Matthew Perpetuaは本誌のレビューでこう述べている。「この曲の魅力のひとつは、ポップにおける模範解答のような歌詞の馬鹿馬鹿しさを、ブラックの独特のトーンが図らずも強調しているところだ」




4. コンサートの新スタンダードを築いたU2の全方位型ステージ

Kevin Mazur/WireImage

2011年6月 ー 2009年から2011年にかけて行われたU2のワールドツアーでは、Clawと名付けられた宇宙船を思わせる金属製の舞台装置が話題をさらった。そびえ立つその物体、目の眩むようなLEDライト、そして凝りに凝った振り付けを伴った2時間に及ぶそのショーは大きな話題を呼び、世界各地で行われた全60公演は大成功を収め、音楽業界が縮小の一途をたどる中で史上最高の集客数を記録した。後にそのアイディアのパクリが無数に登場したこと、そして彼らのコンサートのチケット代が高騰したことは言うまでもないだろう。


5. Spotifyがアメリカに上陸

Charles Eshelman/Getty Images

2011年7月 — アメリカでSpotifyがローンチした当初、あらゆるメディアは「Spotifyとは一体何なのか?」というヘッドラインを打ち出した。しかし2019年末の時点で、アメリカで最も支持されている音楽プラットフォームとなったSpotifyの総ユーザー数は全世界で2億4800万人に達しており、同社は次の10年間で更なる急成長を遂げるためのプランを掲げている。

6. カーリー・レイ・ジェプセン「コール・ミー・メイビー」がバイラルヒット

Matt Sayles/Invision/AP/Shutterstock

2012年春 — カナダ出身のポップスター、カーリー・レイ・ジェプセンが放った大ヒット曲「コール・ミー・メイビー」は、チャートを制し、他のアーティストたちから支持され、世界中にファンベースを築くという、音楽業界におけるサクセスストーリーのお手本のようなケースとなった。カラオケで歌われることを念頭に置いたような同曲は、ジャスティン・ビーバーやケイティ・ペリー、ジェームズ・フランコ、ハーバード大のバスケットボール部等によってカバーされ、現在まで続く彼女の根強い人気を確立した。




7. 新たな市場を切り拓いたコーチェラでの2パックのホログラムショー

Christopher Polk/Getty Images

2012年4月 — 同年のコーチェラでは、トゥパック・シャクールのホログラムがスヌープ・ドッグとドクター・ドレーと「共演」を果たした。10万〜40万ドルとされる費用を伴ったそのショーは大きな反響を呼び、追従する形でロイ・オービソンやホイットニー・ヒューストン等のホログラムコンサートツアーの開催が決定したが、中には未だに実現していないものもある。


8. 欧米中心の音楽業界に風穴を開けた「江南スタイル」

Tracey Nearmy/EPA/Shutterstock

2012年冬 ー 人気の曲、バイラルヒットする曲は数あれど、強烈なインパクトを残すミュージックビデオと独特の振り付けによって、世界中の人々がK-POPに目を向けるきっかけを作ったPSYの「江南スタイル」は別格だった。「あの振り付けを考えついた時、その場で『ホース・ダンス』って名付けたんだ」PSYは本誌にそう語っている。「(ディレクターに)こう言ったんだ。『ホース・ダンスっていうからには、馬を使わないとな』ってね。そうすることで安っぽさとバカバカしさに拍車がかかると思ったからね、迷わず実行したよ」



9. EDMをメインストリームに押し上げた「ハーレム・シェイク」とそのミーム

Chelsea Lauren/WireImage

2013年2月 — 「江南スタイル」から間髪入れずにインターネットを席巻したダンスチューン、それが「ハーレム・シェイク」だった。DJのバウアーが2012年5月にレコーディングした同曲は、2013年2月に無数のパロディ動画がYouTubeに投稿されたことで一大ブームとなった。バウアーのレーベルの代表が「不思議で斬新、でもやや不可解」と語った同曲の予期せぬヒットは、スティーヴン・コルベアやジミー・ファロンといった有名人らをも巻き込み、「ハーレム・シェイク」は俗に言うノベルティ・ソングの代表例となった。




10. 『アナと雪の女王』の主題歌「レット・イット・ゴー」が大ヒット

Courtesy of Disney

2013年冬 ー 音楽業界の重役たちは、2013年のサウンドトラックのセールスの大半について「古き良き時代への回帰」によるものだと語ったが、ディズニーの『アナと雪の女王』のサウンドトラックは、主題歌の「レット・イット・ゴー」のオスカー受賞に後押しされる形で100万枚を上回るセールスを記録し、再生回数はわずかな期間のうちに数億回に達した。Disney Music Groupの社長Ken Buntは、本誌にこう語っている。「これらの楽曲が社会現象になるとまでは考えていませんでしたが、あの映画が人々の胸に響く素晴らしい音楽に恵まれた、特別な作品であるということは確信していました」




11. ビヨンセのサプライズアルバム『ビヨンセ』がシーンを席巻

Robin Harper/Invision/AP/Shutterstock

2013年12月 ー ビヨンセが何の前触れもなく発表した、全14曲と17の映像からなるヴィジュアル・アルバム『ビヨンセ』には、彼女の夫であるジェイ・Z、そして2歳の娘ブルー・アイヴィーをはじめとするゲストの数々が参加していた。同作は「ビヨンセの思考とヴィジョンを追体験する、ノンリニアなヴァーチャル・トリップ」であり、「冒頭からエンディングまで通して体験すべきオーディオ/ヴィジュアル作品」だとされていた。同作に追従する形で、以降数年間はアルバムを突如発表するケースが流行した(ソランジュの2016年作『ア・シート・アット・ザ・テーブル』、リアーナの2016年作『アンチ』、ケンドリック・ラマーの2017年作『ダム』等)。ストリーミング主導の現代においては、サプライズリリースという手法が、何カ月もかけて宣伝するケースと同等のインパクトを持ちうることを証明した。



12.  ケンドリックよりもマックルモアを選んだグラミー、揺らぐその権威

Invision/AP/Shutterstock

2014年1月 ー グラミー4冠を達成したマックルモアは、受賞の数時間後に同じくBest Rap Album部門にノミネートされていたケンドリック・ラマーに次のようなメールを送った。「俺は君に獲って欲しかったし、君が獲るべきだったと思ってる。俺がこの賞を貰っちまったことはおかしいし、何かが間違ってる」そのことが明らかになると、彼は大きな批判にさらされた。ファンに向けたソーシャルメディアへの投稿で、マックルモアはラマーこそが「Best Rap Album賞にふさわしい」と述べたが、この出来事はアーティスト自身がメディアよりも強大な影響力を持ちつつあること、そしてグラミーに代表される伝統的アワードの権威が揺らぎつつあるという事実を浮き彫りにした。


13. 6秒間のカバーで世界を虜にしたショーン・メンデス

Drew Gurian/Invision/AP/Shutterstock

2014年夏 ー カナダ生まれのティーンエイジャー、ショーン・メンデスが動画アプリVineに投稿したジャスティン・ビーバーやエド・シーラン等の6秒間のカバー動画は、瞬く間に5億回という驚異的な視聴回数を記録した。2013年にある敏腕マネージャーにその才能を見初められた彼は、以降数年間でスターダムを駆け上がった。




14. 5億人のiTunesユーザーに無差別に配信されたU2の新作

Marcio Jose Sanchez/AP/Shutterstock

2014年9月 ー U2の新作『ソングス・オブ・イノセンス』を無作為に選ばれた5億人のiTunesライブラリに自動的に加えるという前代未聞のマーケティング手法は、思わぬ結果を招くこととなった。Appleが巨額の金をつぎ込んだPRスタントは、技術面での問題に直面したほか、ユーザーたちから「スパム以下のやり口」と批判され、同社は発表から1週間経たずしてアルバムの消去方法を公開する羽目になった。しかしジミー・アイオヴィンは後に、そのギミックに隠されたメッセージについてこう語っている。「ロックの求心力がすっかり失われている今、彼らはセオリーに抗おうとした。そのためなら、使えるツールは何であれ使うべきだ」


15. 業界における力関係に疑問を呈したケシャとドクター・ルークの法廷闘争

Roy Rochlin/Getty Images

2014年〜現在 — 2014年、シンガーのケシャは「性的・肉体的・精神的苦痛を与えられ、死の寸前まで追い詰めれらた」 として、彼女のプロデューサーであるドクター・ルークを告訴し、彼はこれを真っ向から否定した。非難の応酬となった裁判の経過は大々的に報じられ、テイラー・スウィフト、レディー・ガガ、ケイティー・ペリーらはそういった問題に対する自身の考えを表明した。またこの裁判は、音楽業界全体における男女の力関係に疑問を投げかけるきっかけとなった。


16. ストリーミングのビジネスモデルに待ったをかけたテイラー・スウィフト

Matt Baron/BEI/Shutterstock

2014年11月 ー Spotifyの無料ユーザーの扱いに異議を唱える意味で、テイラー・スウィフトは自身の全作品を突如同プラットフォームから取り下げた。それに伴い、彼女は次のようなコメントを発表した。「音楽は芸術であり、芸術とは重要で稀有なものです。重要で稀有なものには価値があります。そして価値があるものには、対価が支払われるべきなのです」2017年には彼女の作品が再びSpotifyで聴けるようになったが、その空白期間は業界の人々に、ストリーミングが主流の時代にアーティストが持ち得る影響力の大きさを悟らせた。

17. ヒップホップのソープオペラ『Empire 成功の代償』が大ヒット

Chuck Hodes/FOX

2015年2月 ー 家族、金、そしてラップをテーマとするこのテレビシリーズの大ヒットは、音楽とエンターテインメントにおける新たな共生関係を示していた。FOXの『Empire 成功の代償』について、Rob Sheffieldは本誌でこう述べている。「『ハッスル&フロウ』にも通じるヒップホップのセンシビリティと、黄金期のソープオペラを思わせるオールドスクール感が融合した本作は、どこまでも馬鹿馬鹿しく、果てしなく痛快だ」




18. 著作権に対する認識を一変させたロビン・シックの「ブラード・ラインズ」

Kevin Mazur/WireImage

2015年3月 ー ロビン・シックがファレル・ウィリアムスとT.I.と共作した大ヒット曲「ブラード・ラインズ」が、マーヴィン・ゲイの1977年作「黒い夜」(原題「Got to Give It Up」)に似ているとして、ロサンゼルス裁判所が被告であるシック側にゲイのエステートに数百万ドルの支払いを命じたことは、音楽業界を震撼させた。その決定が著作権を巡って争っている他の裁判に影響を及ぼす可能性があるとして、音楽業界は危機感を示したが、その懸念は概ね現実となった。




19. 初回ゲストにマライア・キャリーを迎えてローンチした、ジェームズ・コーデンの大人気企画「カープール・カラオケ」

CBS

2015年3月 ー 『レイト×2ショー with ジェームズ・コーデン』における新企画のローンチにあたり、コーデンが車の中でジョージ・マイケルと熱唱する動画を見せられたマライア・キャリーは、その初回ゲストとして登場することに同意した。1分間の「カープール・カラオケ」は絶大な人気を呼び、2016年にはApple Musicと独占ライセンス契約を交わした。この出来事は音楽市場において、従来とは異なる新たなメディアが大きな可能性を秘めていることを示していた。




20. AppleからのSpotifyへの返答、Apple Musicがローンチ

studioEAST/Getty Images

2015年6月 ー Appleが満を持して発表したサブスクリプション方式のストリーミングサービスApple Musicについて、IT系の批評家たちは「Spotifyとまったく同じもの」と評した。Spotifyの創始者ダニエル・エクは、「あっそ、ふーん」とツイートするなど無関心を装っていたが、ハードウェアとソフトウェアの利点を組み合わせるという同社の戦略はユーザーから支持され、ストリーミング市場を独占していたSpotifyにとっては思いがけないライバル出現となった。

21. 音楽の楽しみ方を変えたプレイリスト

Courtesy of Spotify

2015年7月 ー パーソナライズド・ミックステープというキャッチコピーと共に登場したSpotifyのDiscover Weeklyプレイリストは、アルゴリズムを用いた半自動システムがユーザーの好みに応じて選曲するという、カスタマイズされたラジオ局のような存在となった。どこか曖昧ながら絶大な支持を得たそのプレイリストは業界におけるスタンダードとなり、ライバル企業たちは同様のサービスを開始した。個人の好みを反映したプレイリストは、もはやストリーミングサービスと同意義になりつつある。


22. 給料日に狙いを定め、アルバム発売日を金曜日に統一

Shutterstock/canyalcin

2015年7月 ー 国際レコード協会は、新譜の発売日を原則的に金曜日とする方針を固めた。違法ダウンロードの抑止、ソーシャルメディア上でのアーティスト自身によるキャンペーンの強化を目的としたこの決定は、週末目前のリリースはファンの購買意欲を促すという統計結果に基づいており、新譜の発売を心待ちにする感覚を再燃させるという狙いもあった(レベッカ・ブラックの影響の有無については不明)。


23. コンサート会場を狙ったテロ行為と警備体制の強化

Oli Sscarff/AFP via Getty Images

2015年11月 ー パリのバタクラン劇場で行われていたイーグルス・オブ・デス・メタルのコンサート襲撃事件は、100人近い犠牲者が出る事態となった。その2年後には、アリアナ・グランデのマンチェスター公演の会場に爆弾が仕掛けられ、22名の命が奪われてしまった。同じく2017年には、ラスベガスで開催されたRoute 91 Harvestフェスティバルが狙われ、58人が銃弾を受け死亡した。これらの事態を受け、特殊な訓練を受けた爆薬探知犬やドローン対策テクノロジーの試験的導入など、各コンサート会場はセキュリティ面を大幅に強化することを強いられた。かつてのセキュリティの役割は観客の誘導や監視だったが、現在ではテロ行為を未然に防ぐという重大な責任を負っている。


24. ミュージカル『ハミルトン』の記録的大ヒット

Theo Wargo/WireImage

2015年冬 ー 2010年代にヒットしたサウンドトラックは、「レット・イット・ゴー」を収録した『アナと雪の女王』だけではない。リン=マニュエル・ミランダが主演・監督・脚本を務め大ヒットしたブロードウェイミュージカル『ハミルトン』のサウンドトラックは、Billboard 200で初登場12位を記録し、ミュージカルのキャストが歌ったものとしては前例のない成功を収めた。同作について、本誌のBrittany Spanosは次のようにレビューしている。「ザ・ルーツの手を借りて制作されたこのアルバムは、ミュージカルそのもの以上に印象的だ。21世紀においては、キャストが歌うサウンドトラックが力強く一貫したポップレコードとなり得ることを、本作は証明してみせた」



25. コンサート業界に旋風を巻き起こした、大御所バンドたちの再結成ツアー

Kevin Mazur/Getty Images for Coachella

2016〜現在 ー  大物バンドの再結成ツアーと聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、2010年代半ばに行われたガンズ・アンド・ローゼズのラスベガス公演だろう。その数日前に行われたウォーミングアップ公演で、アクセル・ローズは足を骨折していた(松葉杖をついてステージに上がり、デイヴ・グロールから借りた玉座に座りながら彼はこう言った。「慣れればどうってことないな」)。ミュージシャンたちにとってコンサートが最大の収益源となり、過去のバンドが次から次へと再結成ツアーに出るのは、お金を自由に使える年齢に達した忠実なファンたちが迷わずチケットを購入するからに他ならない。


26.  発表済みの楽曲に修正を加えたカニエ・ウェスト

Scott Dudelson/FilmMagic

2016年2月 ー アルバム『ザ・ライフ・オブ・パブロ』の発表からわずか数時間後、カニエ・ウェストはアルバムはまだ未完成だと語り、収録曲「ウルヴス」に手を加えると宣言した。その1カ月後、ウエストは12曲すべてをアップデートした。主な変更点はプロダクションとヴォーカルの微調整だったが、完成済みの作品に手を加えるというコンセプトは、ストリーミング中心の現在では時代遅れなのかもしれない。あるいはアルバムというフォーマット自体が、今や過去のものになりつつあるのかもしれないが。




27. プリンスの死、そして彼の未発表音源をめぐる攻防

BERTRAND GUAY/AFP via Getty Images

2016年4月 ー オピオイドのオーバードーズによってプリンスがこの世を去ったというニュースは、世界中のファンを震撼させた。同時に、ペイズリー・パークの貯蔵庫に保管されている何千時間にも及ぶ彼の未発表音源に注目が集まった。遺書は残されておらず、数億ドル相当と言われる彼の作品の扱いについて、議論が過熱することは必至だった。プリンスのエステートとの間で2018年に行われた協議の結果、ソニーのLegacy Recordsが既発アルバム35枚のディストリビューションを独占的に担うことで合意に至ったものの、未発表音源の今後については不透明なままだ。


28.ストリーミング限定アルバムがグラミーのノミネート対象に

Kevork Djansezian/Getty Images

2016年6月 ー The Recording Academyは、ストリーミング限定アルバムをグラミーのノミネーションの対象とすることを発表し、その結果チャンス・ザ・ラッパーの『Coloring Book』は、フィジカル版を出すことなくグラミー賞を受賞した史上初の作品となった。「名声や成功は、全部チームとしての努力の賜物なんだ」自身の信条について、チャンスは本誌にそう語っている。その哲学は、グラミー賞が掲げる様々なルールともリンクする。




29. テイラー、キム、カニエがソーシャルメディア上で繰り広げた非難合戦

Laurentvu/Sipa/Shutterstock, Broadimage/Shutterstock, John Salangsang/Invision/AP/Shutterstock

2019年7月 ー 当初は痴話喧嘩程度に思われたテイラー・スウィフトとカニエ・ウェストの衝突は、問題となっていた「フェイマス」における彼女についての歌詞の採用をスウィフトが容認しているようにとれる電話越しの会話の一部を、ウエストの妻であるキム・カーダシアンがスナップチャットに投稿したことで一気に全面戦争へと発展した(スウィフトはその内容が正確ではないと主張し、広く拡散された「もうこの件とは一切関わりたくない」というコメントをInstagramに投稿した)。ソーシャルメディア上で交わされる言った言わないというやりとりの一部始終を、ファンはリアルタイムで見届けることになった。


30. レコード業界を震撼させたフランク・オーシャンのワンツーパンチ

Ilya S. Savenok/Getty Images

2016年8月 ー フランク・オーシャンは新作『Endless』をApple Music限定で公開し、Universal Music Groupとの契約を満了した。しかしその翌日、彼が突如発表したもうひとつの新作『Blonde』は、より「正当な」アルバムとして評論家たちから高く評価されたほか、インディー作品であるがゆえに、彼は印税の大半を自らの懐に収めることに成功した。Universalの代表を務めるLucian Graingeはこれを教訓とし、その前年に同グループが力を注いでいたストリーミング限定というディールの締結を即座に禁じた。




31. ノスタルジーの経済効果を見せつけたフェス、デザート・トリップ

Kevin Winter/Getty Images

2016年10月 ー 「大人向けのコーチェラ」と銘打たれたそのイベントには懐疑的な見方も少なくなかったが、ローリング・ストーンズ、ニール・ヤング、ポール・マッカートニー、ロジャー・ウォーターズ、ボブ・ディラン、ザ・フーらが出演したそのフェスは大きな成功を収めた。3日通し券が最大で1599ドルという前代未聞の価格設定が功を奏し、同フェスの収益はコーチェラの9400万ドルを遥かに凌ぐ1億6000万ドルに上った。

32.  英詞を用いずに世界制覇を果たした「デスパシート」

AP/Shutterstock

2017年1月 ー ルイス・フォンシとダディー・ヤンキーによる「デスパシート」は音楽業界の固定概念を覆すほどの大ヒットを記録し、ジャスティン・ビーバーを迎えたリミックスはその勢いをさらに加速させることになった。YouTube史上最速で50億回再生を記録し、ストリーミングにおける全世界最多ストリーミング再生回数を記録するなど、同曲は数々の歴史的記録を樹立した。しかし同曲の最大の功績は、アメリカのポップチャートにおける言葉の壁を破壊し、歌詞の意味が伝わらなくとも大衆の支持を得ることは可能だという点を証明したことだ。




33. ドレイクが発表した22曲入りのアルバムならぬ「プレイリスト」

Arthur Mola/Invision/AP/Shutterstock

2017年3月 ー 『モア・ライフ』とは一体何なのか?ドレイクはそれがアルバムでもミックステープでもなく、「リスナーの人生を彩るサウンドトラック」としてのプレイリストだと強調している。カリブ海のダンスホールから南アフリカのハウスまで、様々な要素が詰まった全82分に及ぶ本作は、彼の名を冠したコラボレーション作品となっている。Rob Sheffieldは同作について、本誌でこうレビューしている。「とどのつまり、オーブリー・グレアムはプレイリストなのだろう。ポップの真の開拓者でありながら、アーティストである前にいち音楽ファンであることを忘れず、自身を鼓舞してくれる新たなサウンドを常に探し求めているのだ」




34. フューチャーが2枚のアルバムでチャートの1位と2位を独占

Scott Legato/Getty Images

2017年3月 ー いい知らせは多いほうがいいと言わんばかりに、フューチャーは2枚のNo.1アルバムを立て続けに放った。Billboard 200の頂点に立った先発の『フューチャー』を、後発の『HNDRXX』が引きずり下ろしたことで、彼は音楽が極端に身近で手頃になった現在では、どんな滑稽なことも起こりうるということを証明してみせた。2枚のアルバムを立て続けにリリースするという手法はセールスを意識したトリックかもしれないが、それがメジャーなアーティストによる新作を一刻も早く聴きたがっているオーディエンスのニーズにかなったものであることは事実だ。





35. ストリーミングがアメリカ音楽業界最大の収益源に

Valentin Wolf/imageBROKER/Shutterstock

2017年 — Recording Industry Association of Americaが2016年の音楽業界において、ストリーミングの収益がその他のあらゆるフォーマットを上回ったという結果を発表した時、ストリーミングについて懐疑的だった人々も考えを改めざるを得なかったはずだ。旧体制からの方向転換を強いられた音楽業界の各企業は当初こそ反発していたものの、現在ではその大半が成功の度合いに見合った額をアーティストたちに分配するようになった。


36. 幻と化した富裕層のためのフェス、Fyre Festival

Mark Lennihan/AP/Shutterstock

2017年4月 ー ビリー・マクファーランドは天才か、それとも狂人か? いかなる才能と手腕を持ってすれば、Fyre Festivalを成功へと導くことができたのだろうか? 参加予定だった富裕層たちの失望をあざ笑いたくなる気持ちや、敵意むき出しのドキュメンタリーは妥当なのだろうか? これらの疑問に答えが出る日は、おそらく永遠にやってこないだろう。


37. 「グッチ・ギャング」とSoundCloudという金脈

Scott Dudelson/Getty Images

2017年7月 ー わずか2分強の間にグッチという言葉が51回登場する、リル・パンプの「グッチ・ギャング」は純朴さと不遜さを絶妙なバランスでブレンドしてみせた。トラップのファンからデイヴ・グロールまでを虜にした同曲は、SoundCloudで曲を自主リリースしていた彼を、わずか数カ月間のうちに契約金800万ドルとも言われるメジャーアーティストへと生まれ変わらせた。SoundCloudというDIYプラットフォームが次世代のラップスターたちが眠る金脈であることを、リル・パンプはこの曲で証明してみせた。




38. スタジアムツアーに取って代わるベガスでの定期公演

Kevin Mazur/Getty Images

2017年12月〜現在 ー 1億ドルとも噂される契約金で、レディー・ガガはラスベガスのMGM Park Theaterでの定期公演開催に同意し、シン・シティで機材を共有するビッグアーティストたちの仲間入りを果たした。その直後にドレイクがXS Nightlubでの数年間に及ぶレジデント公演を決定したほか、マシュメロはKAOS Nightclubと同様のディールを交わした。しかし彼の高額なギャラが原因で、同会場は2019年後半に閉店に追い込まれており、レジデント公演のバブルは長続きしないという見方が強まっている。

39. ケンドリック・ラマーがピューリッツァー賞を受賞

Bebeto Matthews/AP/Shutterstock

2018年4月 ー クラシックとジャズ以外のアーティストとして初めて、ケンドリック・ラマーはアルバム『ダム』でピューリッツァー賞を受賞した。同賞の審査委員会は、同作における「自国文化のリアルな描写とリズミックなダイナミズム」を称えた。「当初の目的は、最初のアルバム2枚のハイブリッド版を作ることだった」同作について、ラマーは本誌にそう語っている。「メロディを通じてサウンドとリリックの両面でそれを達成すること、それが俺たちの目標だった。そして結果的に、俺の頭の中で鳴っているサウンドを具現化することに成功したんだ。すべては俺の一部なんだよ。俺は4歳の頃から、音楽的探究心に突き動かされてきた。すべては俺の頭の中にあって、最大の課題はそれをいかに形にするかってことなんだよ」




40. コーチェラの歴史を塗り替えたビヨンセとJ. バルヴィン

Kevin Mazur/Getty Images

2018年4月 ー「ビヨンセのコーチェラ」として記憶され続けるであろう伝説のステージで、世界的スーパースターは100人を超えるバンドメンバー、ジャンルの垣根をまたぐゲストの数々、そして伝統的にロック色が強い同フェスのイメージを塗り替える斬新なヴィジョンをもって、カリフォルニアの砂漠で毎年開催される同フェスの歴史にその名を刻んだ。サプライズゲストの1人として登場したJ. バルヴィンは、スペイン語の「Mi Gente」を披露し、同フェスにおける新たなフェーズの幕開けを示した。彼は翌年のコーチェラにソロで出演し、ロザリアやショーン・ポール、そして巨大な首振り人形の数々を擁するステージングでオーディエンスを熱狂させた。


41. R. ケリーとXXXテンタシオンを締め出そうとしたSpotifyの独善

Uncredited/AP/Shutterstock (2)

2018年6月 — SpotifyはR. ケリーとXXXテンタシオンの楽曲をプレイリストから除外することで、「憎しみに満ちたコンテンツと行為」を規制するポリシーを実践しようとした。しかし、モラルの警察であろうとする同社の姿勢は独善的だとして多方面から非難され、Spotifyはその方針をわずか数週間で撤回することとなった。同社にとっては手痛い経験となったが、悪事を働いたアーティストをサポートすべきかどうかという議論は、現在でも加熱する一方となっている。


42. プシャ・Tのディスにより発覚したドレイクの隠し子騒動

Rmv/Shutterstock, Robb Cohen/Invision/AP/Shutterstock

2018年6月 ー プシャ・Tが歯に衣着せぬディス・トラック「The Story of Adidon」で暴露したドレイクには隠し子がいるという説は、あっという間にネット上で拡散された。その1カ月後に発表した2枚組アルバム『スコーピオン』で、ドレイクはそれが事実であることを認めたが、同作に参加したプロデューサーの何人かは、それがプシャの曲に対する返答であるという見方を否定している。様々な憶測が飛び交う中、プシャにその情報を流したのはカニエ・ウェスト(過去にワイオミングにある自身の農場にドレイクを招いている)だという説も流れた。真相は不明だが、そのビーフが楽曲を通じてのみ繰り広げられたことを考えれば、両者が著作権収入という恩恵に預かったことは確かだ。


43. 女性ラッパーとして史上初めて2曲のNo.1ヒットを放ったカーディ・B

Mediapunch/Shutterstock

2018年7月 ー 「ボダック・イエロー」に続き、「アイ・ライク・イット」がシングルチャートを制したことで、カーディ・Bは史上初めて2曲のNo.1ヒットを放った女性ラッパーとなった。また自身を「ストリップクラブのマライア・キャリー」と評した彼女は、レディー・ガガ以来初めてデビューアルバムから2曲のNo.1ヒットを出した女性アーティストとなった。カーディは本誌にこう語っている。「私がクソみたいな曲を出すのを待ってるヘイターどもを黙らせてやるの。そういう思いがあるから、私は他のラッパーたちのことを研究してるのよ」彼女はそう話している。「金とか車とかについてラップしてるような女性ラッパーたちと、自分を差異化するための方法について研究するの。私の何がそいつらと違うかって? 喧嘩上等ってとこかな!」




44. ストリーミング市場の覇者ドレイク

Prince Williams/Wireimage

2018年7月 ー ストリーミング主導の時代における2枚組(というよりは「長尺」とした方が正確)アルバムの流行に便乗する形で、ドレイクの『スコーピオン』は公開から1週間で10億回再生という、まさに前人未到の記録を打ち立てた。また彼のレーベルの発表によると、ドレイクは総再生回数500億回を突破した初のアーティストとして認定されたという。しかし実際のところ、こういった数字は一体何を意味しているのだろうか?




45. ラッパーたちと警察の終わりなき攻防

Jefferson Siegel/NY Daily News via Getty Images

2018年11月 ー SoundCloudから人気に火がついたブルックリンのラッパー、Tekashi 6ix9ineが逮捕されたというニュースは、ギャングの関与が噂されたことも手伝い、ボビー・シュマーダとミーク・ミルの逮捕と同じく大々的に報じられた。しかしラップがアメリカで最も人気のある音楽として定着した今、そういった事件はむしろアーティストの人気の向上に寄与しているようにも思える。(2019年には、音楽フェスRolling LoudがNYPDの勧告を受けて5人のラッパーの出演を取り消したほか、ドナルド・トランプがスウェーデンで収監されたエイサップ・ロッキーの釈放を求めるなどの事態が起きた)



46. 一時のブームにとどまらなかったTikTok

SOPA Images/LightRocket via Getty Images

2019年1月 ー 2018年だけで10億ダウンロードを記録したアプリTikTokは、音楽業界にとって無視できない存在となった(同年におけるInstagramのダウンロード数は、その約半数にとどまっている)。15秒間の動画を投稿できるそのアプリの影響力は計り知れず、アマチュアからメジャーレーベルのアーティストまで、ブレイクを狙う無数のミュージシャンたちがTiktokを積極的に活用している。フォロワー数やシェアの頻度などが人気のバロメーターになるその他のプラットフォームとは異なり、TikTokのアルゴリズムは新たなコンテンツを素早く発見することに特化している。TikTokで人気に火がついたあるユーザーは、本誌にこう語っている。「手っ取り早く有名になる方法があるなら、使わない手はないでしょ」


47. 「サメのかぞく」がアメリカを席巻

YouTube

2019年 ー 「サメの家族」(原題:Baby Shark)の出所については未だ明らかになっていないが、韓国の教材ブランドPinkfongのマーケティングによって世代を超えて親しまれるカラオケの定番となった同曲は、全米TOP40入りという快挙を成し遂げた。またメジャーリーグのワシントン・ナショナルズが非公式のテーマソングとして用いたことで、同曲の人気は再燃した。その勢いは衰えるところを知らず、現在行われているコンサートツアーの人気ぶりを考えれば、2020年が終わる頃には『スター・ウォーズ』にも匹敵するブランドへと成長していてもおかしくない。




48.  ジャンルという概念を無効化した「オールド・タウン・ロード」

Frank Micelotta/Picturegroup/Shuterstock

2019年3月 ー リル・ナズ・Xの「オールド・タウン・ロード」は、ビデオの強烈なインパクトとラジオ受けするキャッチーさを兼ね備えていたが、音楽業界はその曲をどうカテゴライズすべきか決めかねていた。ビルボードのカントリーチャートから(一時的に)除外されたことは、むしろ同曲の人気に火をつけるきっかけとなった。またこの上ないタイミングで発表された、カントリー界の大御所ビリー・レイ・サイラスを迎えたリミックスは、現代では従来のジャンルという概念がもはや通用しないことを世界中に知らしめた。




49. 『グッド・モーニング・アメリカ』で全米を虜にしたBTS

Erik Pendzich/Shutterstock

2019年5月 — アメリカでブレイクを狙う全ポップアクトの登竜門である『グッド・モーニング・アメリカ』のサマーコンサートシリーズのオープニングにBTSが抜擢されたことは、K-POPのアメリカにおける影響力について懐疑的だった人々を黙らせた。韓国のグループとして史上初めて全米スタジアムツアーを全公演ソールドアウトさせた彼らは、『サタデー・ナイト・ライブ』や『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』、そしてBillboard Music Awardsへの出演も果たした。Elias Leightは本誌でこう述べている。「メジャーレーベルがアーティストの育成を放棄し、既に知名度のあるアクトの人気を加速させる方針に転換したことは、BTSをはじめとするK-POPアクトたちにとって大きな追い風となった。20年前に流行した煌びやかなR&Bのサウンド、そしてアクロバティックなショーマンシップを武器とする彼らに太刀打ちできるアーティストは、今のアメリカには決して多くないだろう」




50. テイラー・スウィフトは誰のもの?

Michael Buckner/Variety/Shutterstock, imageSPACE/Shutterstock, Joe Russo/Variety/Shutterstock

2019年7月〜現在 — 契約書や法的拘束力のある文書にどのような記載があろうとも、彼女の人生の舵を取るのは彼女自身であるべきだ。自身の作品の原盤がスクーター・ブラウンに売却されたことを、彼女は事後報告という形で知らされたと語った。その数カ月後、彼女はブラウンと前レーベルの社長スコット・ボルチェッタによって活動を不当に制限されていると主張した。ブラウンとボルチェッタはどちらの批判に対しても一貫して否定し続けているが、この状況においては真実は必ずしも重要ではないのかもしれない。そのことを物語るように、スウィフトは無数のファンに直接訴えかけるなど、自分のことは自分で決めるという自由を得るためなら、使えるツールはすべて使うという姿勢を示している。彼女が体現しているもの、それは次なる10年に待ち構える荒波を乗り越えるためのエネルギーなのかもしれない。