ヴィジュアルアートと電子音楽の芸術フェス「MUTEK.JP」レポート

カナダ・モントリオール発祥のオーディオヴィジュアルアートと電子音楽の芸術フェスティバル「MUTEK.JP」が12月11日〜15日の5日間、渋谷を舞台に開催、デジタルアートの可能性を探求する日本と世界のアーティストが一挙集結し、独創的かつ革新的なオーディオビジュアルライブ、カンファレンス、ワークショップ、エキシビジョンなどが開催された。本記事では、12月14日のLINE CUBE Shibuyaで開催された「A/Visions 1」と12月14日23時30分から15日朝方まで恵比寿LIQUIDROOMで開催されたオールナイトイベント「Nocturne 4」の様子をお届けする。

LINE CUBE Shibuyaで開催されたイベント「A/Visions 1」では、18時からベルリンを拠点に世界で活躍する映像/音響アーティストの黒川良一による作品『subassemblies』がパフォーマンスされ、19時15分からは先鋭的な表現で世界的に注目される「Rhizomatiks Research」がアメリカのメディアアーティスト&リサーチャーのカイル・マクドナルドを迎え、演出振付家MIKIKO率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」が2018年に発表したダンスパフォーマンス作品『discrete figures』をパフォーマンスした。

黒川良一による作品『subassemblies』は、雑木林の中を進むモノクロ映像からスタート。レーザースキャナによって取得された、自然、建造物、廃墟の点群データから成り立っているという今回の作品。決して多くはない音数の電子音のサウンドが鳴り響く中、よく見なければ分からないような細かな光の粒子で形成された木々の中を、ドローンから捉えたかのような視点で自在に捉える。重く響く低音とやや不気味な電子音と映像の組み合わせは、ホラー映画の1シーンのような迫力さえもある。同時に、細かく形成されては流砂のように消えていく粒子が、自然の儚さも表しているように感じられた。暗転している間に響いたノイズサウンドは、雑木林の中で枝をへし折って進んでいくカメラワークを表現する音にも聴こえ、細部まで練りこまれていた。雑木林が崩壊していくシーンでは、パーカッシブなサウンドと共に粒子でxyz面上に廃墟が構築されては崩壊し、再び雑木林の世界を作っていく。雷鳴のような音が響くと、会場の照明も合わせて激しく点滅していく。自然と建造物の調合の映像に新たな時代を感じると共に、リアルタイムでサウンドとVJ、照明が全てドッキングしていき、世界観への没入をより深厚なものにしていく。5Gの世界の一端を垣間見たような感覚に陥った。


黒川良一による作品『subassemblies』のワンシーン


黒川良一による作品『subassemblies』のワンシーン

30分の幕間を置いて、ステージ上に純白の衣装を纏い、ショーケースの女性のマネキンのようなポーズを取った、演出振付家MIKIKO率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」が現れ、ダンスパフォーマンス作品『discrete figures』が始まった。テクノサウンドに合わせた無機質なダンスが披露される。身体の動きに合わせて、ダンサーの前のガラスに光のレーザーが現れ、ダンサーの動きとリアルタイムでドッキングして光線も動いていく。実際のステージ上での演出に、リアルタイムでデジタルの世界が投影されていく。ステージに登場したカメラマンが、リアルタイムで撮影したステージの映像に、さらにARを落とし込んだ映像がスクリーンに現れた。実際のステージ上では5人が踊っているだけなのに、スクリーンでは、ダンサーの動きに合わせて光線が動く加工を施したARと一体化したVJが映っており、舞台装置として持ち込まれたガラスとダンサーしかいないステージが一気に近未来な世界へと描かれていく。


ダンスパフォーマンス作品『discrete figures』のワンシーン

先端的な演出技術と身体表現の融合の結晶は、新時代の優美を感じさせられるものだった。ステージではダンサーのソロダンスがパフォーマンスされているのに、ARを通したスクリーン上では、人を形どった光線とダンサーの掛け合いが映し出されていた。最新の機械学習の研究成果をダンスに取り込み、これまでにない知的な振り付けによる身体表現を可能にしていた。また、ただテクノサウンドに合わせて、技術とダンスの表現を合わせた近未来的な表現だけではなく、ポスト・クラシカルな楽曲では、ダンサーのジャズダンスに合わせて、人を模った光線が、まるで人間のような滑らかな動きも見せる。ステージの床や空間にも煌く星や、床の様子も変わって移り、別空間のように綺麗な世界観を作り上げた。ARにより、リアルタイムで投影されたマネキンの無機質な動きと、リアルで舞台上で踊るダンサーのジャズダンスの柔らかな動きの対比も魅力的であり、それがやがて溶け合うように同じ動きになっていくのも面白い。まさに5G がもたらす時代の変化、現実とデジタルの融合を体現したステージだった。カーテンコールでの拍手と歓声が鳴り止まず、ステージ上のダンサーだけではなくカメラマンやスタッフが勢揃いして挨拶。まさに新しい時代を作り上げ、新しい技術を操るのは彼ら人間同士であることを痛感した。





同日の深夜からは、恵比寿・LIQUIDROOMにてクラブDJイベント「Nocturne 4」が開催された。会場1階のメインステージと2階のロフトステージの2箇所で開催された今回のイベント。メインステージには、SXSW 2017への出演やアメリカ東海岸でのツアーを成功させたRisa Taniguchi、世界のテクノアンダーグラウンドで確固たる地位を築いている一方で、実験的かつ前衛的なアートコミュニティにも属するRrose、ベルリンのアンダーグラウンドテクノ・デュオのLADA、写真家、音楽家、DJのVeronica Vasickaの4組が出演した。巨大なスピーカーから流れてくる重低音は、耳だけではなく身体全体で感じなければならないほどの重さで、それが妙に心地よく縦ノリを誘う。さらにその上には、ソリッドでアシッドなサウンドや、近未来感のある煌びやかなサウンドなどが様々に乗っており、各々の持ち味を醸し出していた。





今回のイベントで特に目を奪われたのはステージ上のVJである。荒れ狂う海の波や噴火寸前の火山、細胞分裂など大自然の様子を切り取ったVJの上に、人の形をしたメタリックな幾何学模様や二進法の数字が画面いっぱいに現れた。無機質な画が、人工的なサウンドのクラブミュージックに徐々に重なって、最後には崩れていく。本来は不調和な要素が、目の前でだんだん溶け合っては崩壊していく様はストーリー性があり、そこにデジタルアートとしての魅力を感じた。また、MUTEK自体がカナダで生まれたイベントであることもあってか、外国人の客も多く、アルコールを片手に4つ打ちのリズムに身を任せる人、仲間で集まって賑やかに楽しむ人、一心不乱にダンスを続ける人など様々な客層のるつぼとなっており、それぞれが思い思いに自分の楽しみを追求できるダイバーシティも感じられるイベントであった。






<イベント情報>

MUTEK.JP 2019

2019年12月11日(水)〜15日(日)
会場:Hikarie Hall / SHIBUYA STREAM Hall / LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂) / LIQUIDROOM / EDGEof / SHIBUYA QWS / UltraSuperNew Gallery
料金:MUTEK 5日間パスポート(23,000円)
*各プログラムごとのチケットは各イベント詳細をご確認ください。
*オールナイト公演は20歳未満ご入場できません。一部のプログラムは入場規制する場合がございます。あらかじめご了承ください。
https://mutek.jp/#tickets

出 演:
Akiko Nakayama [JP]
Alexis Langevin-Tétrault [CA/QC]
Alternative Machine [JP]
CD Hata x Koyas [JP]
Chloé Juliette [FR/JP]
Daito Manabe + Kamitani Lab [JP]
Dramian [MX]
Fake Eyes Productions [JP]
Falaises [CA/QC]
gadara [JP]
Hiroaki Umeda [JP]
Intercity-Express & Push 1 stop [JP+CA/QC]
Katimi Ai [JP]
Ken Furudate [JP]
Kode 9 & Koji Morimoto [UK+JP]
Konx-Om-Pax [UK]
Kuniyuki x Soichi Terada x Sauce81 [JP]
LADA (Dasha Rush & Lars Hemmerling) [RU+DE]
Line Katcho [CA/QC]
Mari Sakurai [JP]
Masashi Hirao x Saskiatokyo [JP]
Mayu Amano [JP]
Myriam Bleau [CA/QC]
nor [JP]
Norimichi Hirakawa [JP]
Oslon [KR]
Öspiel [FR/KR]
Peter Kirn [US/DE]
Push 1 stop & Wiklow [CA/QC]
RAMZi [CA/QC]
Rhizomatiks Research × ELEVENPLAY × Kyle McDonald [JP+US]
Risa Taniguchi [JP]
Robert Henke [DE]
Rrose [US]
rubi [DE]
Rutger Muller [NL]
Ryoichi Kurokawa [JP]
Sakura Tsuruta & asagi [JP]
Saskiatokyo [JP]
Sebu Hiroko [JP]
Seiho [JP]
SO [JP]
Toe on net [JP]
Veronica Vasicka [US]
VJ Manami [JP]
vōx [US]
Yosi Horikawa [JP]
Yuzo Koshiro & Motohiro Kawashima [JP]
https://mutek.jp/artists/

主催:一般社団法人MUTEK Japan
特別協力:KDDI株式会社
特別協賛:東急株式会社
協賛: 第23回文化庁メディア芸術祭、Canada Goose
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
後援:カナダ大使館、ケベック州政府在日事務所、アンスティチュ・フランセ東京、渋谷区、一般社団法人渋谷未来デザイン、渋谷エンタメテック推進プロジェクト

オフィシャルサイト:https://mutek.jp