ANAHEIM, CA - AUGUST 30: Mike Trout #27 of the Los Angeles Angels catches a fly ball hit by Sandy Leon #3 of the Boston Red Sox in the first inning in front of a Tyler Skaggs poster on the outfield wall at Angel Stadium of Anaheim on August 30, 2019 in Anaheim, California. (Photo by John McCoy/Getty Images)

MLB全階層でマリファナ容認へ

 MLBと選手会がかねてから交渉中だった禁止薬物に関する新たな取り決めが合意に近づいたと報じられた。スポーツ専門ウェブサイト『The Athletic』のケン・ローゼンタール記者によると、両者はマリファナを傘下マイナーリーグも含めて検査対象から外すことに合意する見通しだ。
 
 現在のところ、MLBはメジャー40人枠の選手に対してはマリファナの検査は以前に違反して治療プログラムを受けている選手にしか行われていない。過去にマリファナ摂取で罰則を受けたメジャー選手もいない。
 
 一方でマイナーリーグではマリファナの摂取が禁止されており、選手の違反が発覚した場合、1回目の違反で25日の出場停止、2回目の違反で50日の出場停止、3回目で100日の出場停止、4回目で永久追放となる。出場停止期間中は給料の支払いもなくなるので、ただでさえ薄給にあえぐマイナーリーガーたちにとっては死活問題となってきた。今回の合意が正式にルールとして発効すれば、MLB全階層においてマリファナが事実上容認されるということになる。
 
 米国のマリファナに関する法律は過渡期にある。2019年12月現在、カリフォルニア州を始めとした11の州で完全合法化されてはいるが、連邦レベルでは未だに違法であるし、違法ではなくても医療目的に限られているところが多い。全面的に違法としている州もまだある。言うまでもないことではあるが、国や州の法律はMLBのルールに優先するので、野球選手たちが無制限にマリファナを摂取できるようになるというわけではない。 
 
 例えば、カリフォルニア州に本拠地を置くロサンゼルス・エンゼルスの選手がホームでのシリーズ期間中にマリファナを摂取することにはまったく問題はない。だが、ニューヨーク・ヤンキースとの遠征シリーズにマリファナを持参すると、同州ではマリファナは医療目的でしか認められていないので、法律上の問題が生じてくる。さらにマリファナを全面的に禁止しているウィスコンシン州のミルウォーキー・ブリュワーズとの遠征シリーズでマリファナ所持が発覚すれば、逮捕・拘束という事態にもなりかねない。
 
 スポーツ界には実際にそうした例がある。ボクシングWBC世界ヘビー級チャンピオンのデオンテイ・ワイルダーは2017年アラバマ州においてマリファナ所持容疑で逮捕され、翌年には有罪判決を受けている。アラバマ州は現在でもマリファナを全面的に違法だとしている州の1つだ。




現在オピオイドに侵されている選手を救うことも

 そもそもMLBが禁止薬物に関する取り決めを見直している背景には7月に遠征中のテキサスで急逝したロサンゼルス・エンゼルスの元投手タイラー・スキャッグスさんの事件の影響が大きい。検視報告書が公表され、スキャッグスさんの血中からオピオイド系の薬物であるオキシコドンとフェンタニルの摂取が確認されている。MLBと選手会が進めているとされる新たなルールではオピオイドの摂取が発覚した選手には罰則が科せられることはなく、MLBは治療プログラムを提供して回復へのサポートを行うと見られている。
 
 新ルールは正式に決定したわけではない。細部には今後あらたな修正が加えられる可能性はあるが、全体的な方向性としてはMLBの禁止薬物に関するスタンスが大きく変わりつつあることを感じさせる。
 
 報道通りにMLBがマリファナ検査を撤廃するとすれば、米国の主なスポーツ団体としては初の試みとなる。マリファナは一般的には他の禁止薬物より危険性は低いと見られているが、一方でオピオイドは危険性も常習性も非常に高く、大きな社会問題になっている。
 
 マリファナもそうであるが、元々は鎮痛剤であるオピオイドにはアスリートの競技能力を高める効果はない。競技の公平性を失わせる筋肉増強剤や他のパフォーマンス強化剤とは異なる扱いをされるのはその為だ。
 
 マリファナには体力の回復を助け、ストレスを軽減する効果があるとされているし、日々痛みとは無縁ではいられないアスリートたちが市販の鎮痛剤に依存してしまい、そこからオピオイドに手を出してしまうことも多いとされている。
 
 厳罰に科せられる心配がなくなるとすれば、現在オピオイドに侵されてしまっている選手たちが正直に名乗り出て、適切な治療を受けることが可能になる。違反した選手をいたずらに犯罪者扱いをする風潮に一石を投じることにもなるだろう。合意が最終化される時期はまだ明らかではないが、今後の経緯に注目したい。
 
 
角谷剛