自作のポルシェ911には様々な工夫が!自分のためだけの1台を造り上げる

自作の911プロジェクトをはじめるまで

2010年にクリスはふたたびアディダス社からオファーを受けてドイツに戻ることになった。もちろん2台のポルシェも一緒だ。「引っ越し直後に2~3カ月借家で暮らしてから、職場に近い場所に家を買った。新居のガレージは2台に充分なサイズだったし、職場まで車でたったの4分。昼休みには帰宅して、オフィスに戻る前にクルマの作業までこなせたんだ」

「あのプロセスははかどったよ。たとえば夕方に採寸して計画を立てると、翌日の昼休みに切り出しや成形の作業ができる。その日の晩には組み立てや溶接をして、翌朝に磨いて、といった具合さ。つまり、長期プロジェクトの中でやっと本格的に前進できたんだ」

塗装プロセス全体の費用

「ウインドウフレームはクロムで再メッキした。サイドウィンドウはアクリル製で、本物の"プレキシグラス"のロゴを焼印した。スタンプは僕が自作したものさ。リアウィンドウは、最初はアクリルをカットして作ってみたが、気が変わってね。今はレース用スタイルのストラップにオリジナルのガラスを組み合わせている。フロントのウインドシールドは、ガラスに熱処理を施したものだ」

「シングルワイパーは製作過程の初めのうちから使おうと決めていた。ただ、今後は二度と選ばないな。それでも、まぁ役立っているよ。1本だけのワイパーをセンターに配置すると、ボンネット上部にあるベンチレーター用の通気孔が塞がってしまう。そこで、ダッシュボードの下に並ぶファンを調整して、空気がウインドシールド側に吹き出すようにしたんだ。シングルにしたのでワイパーリンクは作り直さなければならなくて、VWゴルフGTI用の市販品を使って改造したよ。アームはアルミで製作して、リベット留めのワイパーピボットに取り付けたんだ。ただ、実製作の前にアームの適切な角度や長さを見極める必要があって、一時はいろいろな木製モデルが作業用ベンチに並んでいたものさ」


 
リストに並ぶ次の大型タスクは配線だった。クリスはドイツで知り会って親しくなったフィル・スミスに助けてもらった。シーメンス社に勤務する彼の提案で、電装系統はすっかり最初から再構築することになった。新しい配線、モダンなリレー部品類、ブレードフューズボックスなどを使っている。「配線はフィルが進めてくれて、僕は細かい仕上げ作業に集中できた。別の友人も、僕が燃料タンクを自作したときにサンドブラストを手がけてくれたよ。偶然なことに僕らが知り合ったのは、彼が自作のサンドブラストマシンを自宅ガレージで完成させたタイミングだった」

「2.2リッターのエンジンは、もとはT仕様だったが、中身はE仕様にしてウェバー40IDAを備えて、点火系はMSD 6ALにアップグレード。ファンシュラウドは軽量なRスタイルのFRP製に交換した。現状では排気系はスポーツタイプのステンレス製レーシングヘッダーと、ターボトーマス製911Rスタイルの2 IN/2 OUTシステムを備えた。どれもRSRのマウント方法にして、スーパープロ製ブッシュで固定したんだ」

「ギアボックスは901のドッグレッグ型だが、まだリビルドが済んでいないんだ。取り外したデフの点検やクリーニングまで済ませたものの、アウトプットシャフトを元に戻せなくなってしまってね。シャフトを取り外す時は、必ず一度に1個までと肝に銘じたよ」クリスの口調には後悔がにじむ。
 
標準のブレーキシステムはオーバーホールしてそのまま使うことにしたが、ブレーキラインは現代の強靱なグッドリッジ製とし、柔軟性に富むスチールメッシュのブレーキホースと組み合わせている。キャリパーは912用のリビルド品だが、将来的にはビレット6やイギリスのデボン州にあるR to RSRが製作する4ポット式に交換する予定だという。

さらに、このプロジェクトの方向性を左右するのはホイールとタイヤだろう。クリスはこれにマッチする細くシンプルなデザインのものとして、なんとポルシェ964に搭載されているスペアタイヤ用アルミ製スペースセイバーリムを選び、コンチネンタル・スポーツコンタクトの195/50×16を履かせた。随分と完成に近づいたものの、さらに内装などの作業が続く。



「内装のトリミングは最小限にして、地元の日曜大工用品店で見つけたグレーのカーペットを敷き、ドアにはレザー製のプルストラップとチェックストラップをつけた。どれも自分で縫製して穴あけ加工をした手作り品さ。シートは年代もの風のバケットシートを2脚、仕上げに新品のレパ製4点式ハーネスを加えた。ハーネス類はインターネット・フォーラムのDDKでデイブ・オコナーから入手した。デイブが仕事で使うレパのオリジナル・ロゴを僕がデザインやコンピューターのスキルを生かして制作したので、お返しに彼はハーネスのセットを譲ってくれたというわけさ」

「911Rのエンジンリッドに大きく並ぶ"P-O-R-SC-H-E"の文字は、昔から大好きだった。ただ、このクルマにはもう少し私的な工夫を加えてもよいかと思ってね。僕は自分自身をモッズ系とは思わないけれど、初期のモッズ・スタイルに流れる美学やミニマリストを理想とする美意識は好きだ。そしてこのミニマリスト的なアプローチは、僕がビルドしたクルマの方向にもぴったりだと感じていたんだ。しかも、"PORSCHE"の文字をカスタムした写真をオンラインで投稿したら、"Modrod"のニックネーム案が出てきたので、そのままクルマの名前になったのさ」

「実は、モモ・プロトティーポのステアリングにも" Modrod"のロゴを付けている。モモのダレン・トンプキンスがDDKォーラムの常連でね。このときも、ホーン用プッシュスイッチのコンピューター・ファイルを僕が彼のために製作したら、その対価に、彼は僕に"Modrod"のロゴを入れたホーン用プッシュ・スイッチをつくってくれたんだ」
 
この段階で、クルマはついに完成したように見えた。少なくとも、クリスができることはやりつくしたかのように見えた。「初めてクルマを動かした瞬間には感動したなあ。クルマが、人が押したり引いたりしないで、エンジンの力で初めてガレージから出た時もね。地元のポルシェ専門家たちに話したら、このクルマなら彼らが預かって、ドイツの厳しいTUV 認証を通す手配を整えられるだろうと口をそろえて言ってくれたんだ。でも結局はあれこれと理由がついて、クルマは我が家のガレージに鎮座したまま。TUV認証はあきらめかけたよ」

「その後、トム・ガドゥケと雑談を交わしたんだ。彼はポルシェの専門パーツを製作するオナシス社を立ち上げた人で、彼が必要としていたロゴやグラフィック類を僕が手がけたのをきっかけに、互いに連絡をとりあっていたんだ。あれは2014年、トムの友人ダニエル・シェーファーが彼のクルマを仕上げたと聞いたものでね。しかも、そのクルマはとても印象的だった」

「そこで僕はトムに連絡して、そのクルマについて聞いてみたのさ。そのときの会話で、クルマを仕上げたダニエルと父カールの親子はデュッセルドルフの近くにあるワークショップ"クラシック・ボクサー"のオーナーだとわかったんだ。それから2~3回ほど電話連絡があって、僕のクルマは彼らのワークショップへとトレーラーで運ばれた。数日後に僕も北へと運転してダニエルに出会って、僕のクルマに必要な作業について話しあったんだ」

「ダニエルの見立てでは、TUV認証は通せるかもしれないが、その前に調整がいくつか必要とのことだった。僕らは、まずクルマを正しく走らせる調整から始めることにしたんだ。走るには走るけれど、ダニエルがキャブレターを取り外してクリーニングし、セッティングしたら走りが完璧になった。サスペンションのアライメント調整を終えて車重を計ったら、ちょうど860kgだった。パワーはまだ完全な計測をしていないが、テスト運転を2~3回ほどしてみた感触から、おそらく160〜170bhpあたりだろうとダニエルは見積もっているんだ」
 
実は、この物語はまだ終わらない。2015年に、クリス一家はアメリカのオレゴン州ポートランドにふたたび引っ越すことになったのだ。今回はナイキ社への昇進だという。そしてもちろん、2台の912も彼とともに引っ越した。「"Modrod"は完成地点がほぼ見えたけれど、今度はポルシェ356のプロジェクトを始めたくてうずうずしているんだ。ただ、次はもう少し、コンベンショナルな方法で進めてみたいものだね…」