抗生物質(抗菌薬)が効かない「薬剤耐性菌」によって国内で8000人以上が死亡しているとの推計結果を、国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)などの研究グループが5日発表した。耐性菌による死者は世界的に増加し、6月に大阪で開かれた 20カ国・地域首脳会議(大阪G20)の首脳宣言でも取り組みの強化が盛り込まれた。これまで日本国内の耐性菌による死亡実態は不明で、今回、死者数を全国規模で調べた研究は初めて。

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    代表的な耐性菌であるMRSAとFQRECによる推定死亡者数の推移(国立国際医療研究センター病院提供)

抗菌薬投与は細菌による感染症治療の基本だが、細菌も遺伝子を変えるなどして薬に耐える耐性菌が出現し始める。薬を使えば使うほど耐性菌は増える。この問題にどう取り組むかは世界の医療・保健分野での重要課題になっている。耐性菌は免疫力が落ちている人や高齢者が感染すると重症化しやすく死亡するリスクが高まる。日本でも全国の医療現場で院内感染を含めて耐性菌による死亡が増加するなど深刻な影響が出ており、抗菌薬の適正使用などの対策が求められていた。

国立国際医療研究センター病院などの研究グループは代表的な耐性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)の2種を対象に調査した。全国の協力医療機関から情報が集まる「厚生労働省院内感染対策サーベイランス」のデータを基に、耐性菌による死亡の主要原因と考えられている菌血症の患者数を割り出して、死者数を推計した。

その結果、MRSAが原因とみられる2017年の推定死者数は4224人で、2011年から減少傾向が見られた。その一方でFQRECは3915人で右肩上がりに増えていた。2種の合計は8100人を超えた。この2種以外の耐性菌による死亡も含めると死亡者数はかなりの数に上るとみられる。

研究グループによると、米国では年間3万5000人以上、欧州では3万3000人が死亡しているとの推計が発表されており、2050年には世界で年間1000万人も耐性菌により死亡するという予測もある。世界保健機関(WHO)も事態を重視して各国が協力して対策を強化するよう求めている。G20の大阪首脳宣言には「薬剤耐性に取り組むための研究開発を促進する。国際機関や全ての関係者に効果的に協力するよう奨励する」という一文が盛り込まれた。

耐性菌対策に詳しい専門家は、耐性菌による死亡例が増えている中でもMRSAによる死者が減っているのは抗菌薬の適正使用の考え方が浸透しつつあることではないかと指摘。今後は医師が治療に使う際の薬の選択の基準や新薬開発の在り方などを議論する必要があるとしている。

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