ポルシェ911を自作?ひとりの人物が歩んだ長い道のり②

2008年夏、クリス一家はイギリスに戻ることになり、2 台のクルマは同じコンテナでクリスの義父宅のガレージに搬送された。しかも購入した新居のガレージは、クルマ2台を縦に収めるサイズには不足であり、その後しばらく、プロジェクトはなかなか進まなくなった。また、当時フリーランス・デザイナーとして働いていたクリスは、クルマにかける時間をほとんど取れなくなっていた。それでも寸暇を惜しむように、ボディワークの作業に集中していたという。

購入したてのFRP 製ボディ・パネル(フェンダー、ボンネット、バンパー、エンジンリッド)の取り付けが主だが、そう簡単ではなかったという。

「パネルを箱から出したら、そのまま取り付けられるとまでは楽観的ではなかったけれど、事前の覚悟を超える状態で、フロント・バンパーはサイズが合わなくて、中心から切って狭める必要があったよ。マウントブラケットも付いていなかったから製作する必要があったしね。パネルのズレを許容できるレベルまで整えてから、やっと塗装を検討できるようになったよ」とクリスは回想する。


 
ここで、プロジェクトは興味深い局面をむかえた。塗装をどうするかだ。

「最初から、このクルマには高い金をかけることは考えてはいなかった。塗装を始める2~3年前にローラーを使ったペイント法について読んだことがあったので、10cm幅の高密度ペイントローラーを使って、ラストオリウムのメタル・ペイントで塗装することにしたんだ。塗るたびに乾かしてから磨くということを12回繰り返したよ。この作業は力仕事続きで、2カ月ほどかかったかな。コンクール出品レベルの仕上がりではないと認めるし、あのプロセスは誰にでも合うとは言いがたいけれど、僕自身は満足している。あの方法を選んだおかげで、将来的にパーツの修理や交換が必要になっても高額ペイントを傷つける心配もないしね」


 
塗装プロセス全体の費用は、なんと100ドル程度に収まったという。費用対効果からみて悪くはないだろう。この方法の長所は、クリスが搭載するエンジンを変更した時にも発揮された。「もとは4気筒エンジンをそのまま維持するつもりだったが、911の2.2リッター・エンジンのオファーがあってそちらを使うことにした。912のエンジンマウントを切り取って911のものと交換する必要があったが、溶接さえ済めばあとは簡単で、そこを磨いて溶接の上からペイントすれば済んだ」