楽しいおでかけのときも、ずっと立ちっぱなしや歩きっぱなしだと、もうヘトヘト......ああ、はやく座りたい......だったら座ったままどこでも移動できれば良いのではないでしょうか? そんな願いを叶える車いすの実証実験に、科学コミュニケーターの田中が参加してきました!

◇だれもが車いすに乗っている社会がやってくる?

え、車いす? じゃあ自分には関係ないわ......と思った方もちょっと待った! 人生100年ともいわれるこれからの日本。車いすはみんなが当たり前に使う移動手段になるかもしれません。自分の足で歩くことが全くできない方だけでなく、長距離を歩くのは疲れてしまうからおでかけをするのが億劫、近所のコンビニも歩いていくとちょっと遠いのよね......なんて方にとっても、移動を楽にしてくれる車いすはお役立ちアイテムではないでしょうか。

それはもはや「車いす」というよりも、個人個人の移動に役立つ「パーソナルモビリティ」という言葉がふさわしいかもしれません。デザインがおしゃれな電動車いす「WHILL」ならなおさらです!

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「電動車いす」であり「パーソナルモビリティ」である「WHILL」に初めて乗ったときの科学コミュニケーター 田中。WHILLがスタイリッシュです。
※このときは5月だったので、外でもへっちゃら! では、寒い日だと......?!

◇便利な乗り物は、みんなでシェア!

そんな未来を見据え、横浜市で開催された(2019年11月6日~12月5日)のが、WHILLのシェアリング実証実験です。

「シェアリング」という言葉、最近耳にすることが増えた言葉ではないでしょうか。ひとりで所有するだけだと生かしきれないモノやサービスなどをみんなでシェアして有効活用する仕組みです。車を所有せずとも使いたい時だけ使えるカーシェアリング、自転車を街中各所にあるステーション間で必要な時に必要な区間だけ使えるシェアサイクルなども増えてきました。これを電動車いすでやってみよう!というのが、今回のシェアリング実証実験です。

新しい車いすの技術や使い方に興味があった田中は、こちらの実証実験を知り、「体験せねば!」と横浜市に向かいました。

◇WHILLで街へ!

今回の実証実験では、最大3時間まで、みなとみらい地区(約1.86平方キロ)をWHILLで自由に走行できます。みなとみらいは整備された新しい街なので、道幅も広く開放感があります。ですが、1つひとつの建物も大きく、すぐ隣の建物に行くにも意外に歩くことになります。こうした乗り物にはぴったりの街ともいえます。受付は赤レンガ倉庫と横浜ロイヤルパークホテルの2か所。好きなほうで受付し、借りた場所に返却します。田中は赤レンガ倉庫でWHILLを借りました。同意書にサインし、乗り方の簡単なレクチャーを3分ほどで受けました。

そう、WHILLはたった3分のレクチャーで乗りこなせちゃうのです。進む方向を決めるのは、右手のアーム先端についている小さなマウス型のコントローラー。手のひらを載せて、簡単に操作できます。そして左右に動かすと、後輪を軸にしてその場で回転します。これ、実はふつうの自動車などではできない動き。なぜなら、前輪も後輪も、タイヤは真横に進めないから。前進しながら曲がるしかできません。では、WHILLがなぜ後輪を軸に回転できるかというと、その秘密は前輪の「オムニホイール」。小さなタイヤがたくさん集まって、ひとつの大きなタイヤを作っています。小さなタイヤによって、横方向の動きが可能なタイヤなのです。前輪のオムニホイールのおかげで、WHILLはその場で回転でき、小回りが利きます。小回りが利くと、人込みの中を人とぶつからないように移動しやすくなります。専用道路ではなく、人と同じ道を走行するには、小回りが利くことは重要です。

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WHILLの後輪は普通のタイヤ、前輪はオムニホイール
(画像提供:WHILL株式会社)

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オムニホイールは、たくさんの小さなタイヤが集まってできている。この小さなタイヤにより、横方向の動きが可能に。
(画像提供:WHILL株式会社)

3分のレクチャーにはなかったオムニホイールの説明も思わずしてしまいましたが、操作方法がわかったところで、みなとみらい散策へ出発です!

荷物は、リュックであれば背もたれの後ろにかけられますし(1枚目の写真参照)、座面の下の足元部分には20リットルと大容量の荷物入れのスペースもあります(専用のかごを取り付け可能)。これなら、お買い物で荷物が増えても大丈夫そう。足を移動できれば、さっと荷物を取り出せます。

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WHILLシェアリング実証実験に参加中の田中。11月末の横浜の寒さに震えています。

海沿いの埋め立て地を含むみなとみらいの街は比較的平坦で、歩道も広め。スイスイ進むことができました。歩道の段差ではガタガタっとなるものの、特に問題なし(WHILLは5 cmまでの段差を超えられます)! が、出発して数分も経たないうちに、

さ、寒い!!!!! 寒すぎる!!!!!

この日の最高気温は10.6℃。ストールをぐるぐる巻いて、手袋をして、お腹にカイロを貼っても、外の寒さに抗いきれません。心が折れそうです。

と、ここで横断歩道のない交差点に遭遇。歩道橋を渡らなければいけません。欠かせないのがエレベーター。車いす用のボタンは偉大です。

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車いす用のボタンのありがたさを実感。車いすからだと、かなりがんばらないと上のボタンには届きません。

他にも、スロープがなかなか見つけられずに焦ったり、建物の入り口に自動ドアがあることに安心したり、いつものおでかけとは違う視点での体験ができました。ひと通り、歩道や歩道橋、建物の中(ホカホカ肉まんを買って、温もりを補充!)、川沿いの道も走行してみて、もう寒さに耐えられない!!! と、2時間弱で返却しました。もう少し暖かい日であれば、外のお散歩ものんびりできたのにな......というほど、2時間近く乗っていてもお尻が痛くなったりせず、快適な乗り心地でした。最後にアンケートに答えて終了です。

◇便利なパーソナルモビリティは人生を豊かにしてくれるかも?

体力があり元気な私にとって、「WHILLがあって助かった!」という体験にはなりませんでしたが、いつもとは違った街歩きを楽しむことができました。また、外出時に杖を使う祖母とでかけるときには、こうしたパーソナルモビリティが活躍するかもしれないと思いました。WHILLを使うと目線の高さは低くなるものの、速度は歩く速さに合わせられますし、杖を使うときよりも足元への不安が減るので、おしゃべりも弾みやすいかもしれません。杖を使って自分の足で歩くことは、体力維持のためにも重要ですが、「わくわくする楽しいおでかけ」のために、電動車いすのようなパーソナルモビリティを気軽に使えることは、人生を豊かにしてくれるのではないでしょうか。

それにしても、体を動かさないと、体温ってどんどん奪われていくんですね......これを肌で感じ、冬の時期であれば、足や体を温める機能がついていたら快適なのではないかと思い、この気持ちをアンケートに記載してきました! 逆に夏であれば、体を動かさないで済むので、体温が上がりにくいのはメリットかもしれないですね。東京のような夏の気候であれば、冷房や熱を逃す仕組みがついていると快適度がぐんと上がりそうです!

こうして実際に体験してみて感じた自分の声が、主催する自治体、機体を提供する企業や研究者に届けることができるのは、実証実験のおもしろさのひとつだと思います。ただ体験してみておもしろい! だけではなく、自分の声を街づくりや製品、研究などに生かしてもらえるチャンスとしても、実証実験への参加はおすすめです!

◇だれにとっても魅力的な街をめざす

さて、横浜市は、なぜWHILLでのシェアリング実証実験を行うことにしたのでしょうか? 主導する横浜市の担当者である赤谷知子さんにお話しを聞いてきました。

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WHILLのシェアリング実証実験を担当する、横浜市の赤谷知子さん。寒い中、ありがとうございます!

赤谷さん「みなとみらいの魅力度向上をめざす『みなとみらい2050プロジェクト』の一環で、新たな交通手段の可能性を探るため、パーソナルモビリティを活用したシェアリングの実証実験を行うことになりました。せっかく観光しに来たけれど長い距離を歩くのは疲れてしまうという方は少なくない中で、WHILLがシェアリングされるようになれば、だれでも自由に気軽に動き回れる街として、より多くの人にみなとみらいを楽しんでもらいやすくなるかもしれません」

今回使用しているWHILLは、コンパクトで小回りが利くうえに、スタイリッシュなのもいいところですよね。「乗ってみたい!」と思わせる魅力があるように感じます。車いすを普段使いしていない方も参加しやすそうですが、実際の参加者はどうなのでしょうか?

赤谷さん「実証実験を開始して20日ほどで、幅広い年齢の方々50人以上に利用していただいており、そのほとんどは普段は車いすに乗っていない方です。横浜ロイヤルパークホテルに宿泊した方が、出かける際にWHILLに乗れると知り、『乗ってみたい!』と参加される場合もあります」

見かけたから気軽に乗ってみよう! というのは、見た目がおしゃれなWHILLならではのきっかけかもしれませんね。では、参加された方の反応はいかがでしょうか?

赤谷さん「乗っていただいた方の感想をアンケートでみると、比較的ご高齢の参加者からは、『普段なら行けない場所にも行けた』『歩いていると疲れてしまう距離でも、これなら疲れずに行けた』といった声が集まってきています。一方で、若い方だと、『バリアフリーでないところだと逆に不便』『注目を集めてしまい恥ずかしい』などの声も聞かれます」

たしかに、自分の足で歩ける立場からすると、エレベーターを探したりスロープを探したり、いつもは発生しない手間がかかるのは、田中も実感しました。ですが、やはりご高齢の方には喜ばれるということは、電動車いすのシェアリングの価値が、実際の意見として見えてきているのですね!

赤谷さん「頂いた意見を受けて、どうしたら事業として成り立つサービスを作ることができるか、実証実験を重ね、これからさらに検討していく予定です。特に要望として出てきているのは、『好きな場所で乗り捨てしたい』ということ。ですが、乗り捨てができるようにすると、駅など特定の場所に溜まってしまうはずです。それを移動させるための費用もかかってしまい、どう事業として成り立たせるのかが難しいところで、今後検討が必要です。WHILLは自動運転の研究開発も進めているので、将来的には、乗り捨てられた機体が自動で適切なところへと移動してくれるようになるかもしれません」

◇参加したみなさんの意見で、未来をつくる

今後、私たちの生活の中で、どのような乗り物がどのような形で活躍するようになるのでしょうか? 車いすのようなパーソナルモビリティが普及して当たり前になるかもしれませんし、自動運転のタクシーが当たり前になるかもしれません。いろいろな選択肢が考えられる中で、どれが社会にとって良いのかは、やってみないと分からないもの。だから今回のような実証実験は、未来を決めていくための大事な一歩です。まずはやってみて、参加したみなさんの意見を集めるところからはじまります。

各地でいろいろなテーマの実証実験が行われているので、あなたのお住まいの地域の近くでもおもしろい実証実験が行われているかもしれません。未来館でもいくつかの実証実験や市民参加型の実験を行っています。興味を持った方は、ぜひ参加してみてください! そして、みなさんの意見で未来を方向づけていきましょう。

【関連リンク】
パーソナルモビリティ『WHILL』シェアリング実証実験 START!(横浜市)
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/ondan/2019/WHILL.files/0005_20191105.pdf

【謝辞】
本記事を執筆するにあたり、取材にご協力くださった横浜市温暖化対策統括本部SDGs未来都市推進課担当係長 赤谷知子さんに、この場を借りて厚く御礼申し上げます。



Author
執筆: 田中 沙紀子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
生徒も先生もみんな自由でキャラが濃い。そんな充実した高校生活を送り、いろんな人と出会う楽しさを知りました。その後、興味をもった理系の道に進み、大学院修了。企業で働く中で、科学の情報をなかなか知ってもらえない壁に直面。いろんな人と出会い、科学のおもしろさを共有したいと思い、2018年より未来館へ。