キヤノンは12月5日、新コンセプトの小型デジタルカメラ「iNSPiC REC」を12月下旬から一般販売すると発表しました。カラビナの機構を備えたシンプルな小形軽量モデルで、クラウドファンディングで先行販売したところ即日完売したことで話題になった製品です。今後は、家電量販店や通販サイトなどで購入できるようになります。

価格はオープンで、予想実売価格は税別13,800円前後。

  • 若年層に向けたキヤノンの新コンセプトカメラ「iNSPiC REC」、一般の量販店などで販売されることが決まりました

“引き算で作り上げた”ミニマムなデジカメ

iNSPiC RECは、2月に開催されたカメラ展示会「CP+2019」で参考展示され、注目を集めた「Outdoor Activity Camera」(ソトアソビカメラ)が商品化されたもの。常に持ち歩いてアウトドアで気軽に撮影が楽しめる、というコンセプトの製品です。

  • iNSPiC RECの本体はスティック型で、とても小さく軽いのが特徴。4色のカラーバリエーションを用意します

今回の一般販売に先立ち、クラウドファンディングサイトの「Makuake」で試験的に先行販売が行われました。この先行販売では1,000台を用意したところ、即日完売という大変な人気となりました。Makuakeで予約ができなかった人も、今後は店頭で購入できます。

  • クラウドファンディングサイトでは即日完売の人気ぶりで、大きな話題となりました

iNSPiC RECはレンズ固定式のため、コンパクトデジカメのカテゴリーに属する製品となりますが、同社が手がけている「IXY」や「PowerShot」などとはだいぶ毛色の違うカメラになっています。

徹底してシンプルさを追求しており、デジカメでは当たり前の液晶モニターすら付いていません。画像の確認は、Wi-Fiで接続したスマートフォンなどで確認できますが、キヤノンの担当者は「“究極の引き算”をしたカメラ。モニターなしという不便さを楽しんでほしい」と語ります。

  • グリーンモデル

  • 筒抜けの四角い部分はファインダーとして使います

  • 上面にシャッターボタンがあります

  • 底面には三脚穴も装備

  • 電源スイッチを兼ねるモードダイヤルもシンプルです

  • カラビナ部分を動かした様子

  • 防水仕様なので、フタ部分にはロックがあります

  • フタを開けるとmicroUSB端子とmicroSDカードスロットが見えました

一般的なデジカメやスマホでは、撮影した画像を確認する行為に時間を要してしまいますが、iNSPiC RECは基本的にその場で確認はせず、どんどん撮影していくスタイルのカメラだという説明でした。

撮像素子は有効約1300万画素の1/3型CMOSセンサー。レンズは35m判換算で25.4mm相当の単焦点タイプで、ズームはできません。フォーカスも固定されており、50cmから無限遠までピントが合うようになっています。画質については「キヤノン独自の画像処理エンジンDIGICは搭載しておらず、IXYシリーズなどとは違ったものになっている」ということで、画質を追求したカメラではありません。

ただ、そういった割り切りがあったからこそ、約90gととても軽くて持ち運びが苦ではないカメラに仕上がったといえそうです。

スマホでは、撮りたいシーンがあった際はポケットから出してロックを解除する、といった手間があります。iNSPiC RECならば、カラビナが付いているのでバッグやズボンなどに付けておけ、サッと外して電源を入れればすぐに撮影できます。いままでスマホを出すのが面倒で撮らなかったシーンでも、気軽に撮影できるでしょう。

  • ブルーモデル

  • ブルーモデル

  • ダークグレーモデル

  • ダークグレーモデル

  • ピンクモデル

  • ピンクモデル

ポップな印象の本体は一見すると華奢な印象も受けますが、実はタフネス性能も充実しています。2mからの落下に耐えるほか、水深2mで30分までの防水性能もあります。こうした部分もスマホに勝る部分であり、アウトドアでスマホで撮るのをためらってしまう環境でも気兼ねなく撮れるのがポイントです。

  • 耐衝撃構造なので、こうして自転車に付けて走っても大丈夫

  • 防水仕様なので、水中撮影も可能です

前面のフェイスジャケット(パネル部分)はマグネットで固定されており、簡単に外すことができます。当初、デザインの異なる3枚のセット(FP-301、税別1,980円)をオプションで用意し、今後はさまざまなデザインのジャケットを追加する予定です。

  • ジャケットは簡単に外して交換できます

  • オプションのジャケット。左端はミラーになっています

本体の操作部は、上部のシャッターボタンと背面のモードダイヤルだけときわめてシンプル。シャッターボタンに半押しはないので、ひと押しで撮影できます。シャッターボタンを押し続ければ、連写(約2コマ/秒)も可能です。カラビナ部分の四角い穴がファインダー代わりになっており、大まかな撮影範囲の目安になる仕組みとなっています。モードダイヤルを動画にすると、最大でフルHD/60fpsの撮影ができます。

感度(ISO100~ISO3200)、ホワイトバランス、露出補正はすべてオートなので、撮影時にあれこれ悩む必要がないのはメリットでもあります。とにかく「被写体に向けてシャッターボタンを押すだけ」というシンプルな操作となっています。

身につけるカメラとしてはアクションカムもありますが、アクションカムはコロッとしたデザインのものが多く、必ずしもカメラとして持ちやすいデザインとはいえません。iNSPiC RECは厚みが約18.5mmと薄いので、一般的なコンデジのように手持ちで撮影がしやすい形状になっていると感じました。

  • カラビナの使用例

写真のアスペクト比は4:3と1:1から選ぶことができます。こうした本体ではできない設定のいくつかは、専用のスマホアプリ「Canon Mini Cam」で行うようになっています。スマホアプリを使えば、Wi-Fiでのリモート撮影やカメラの画像確認/転送も行えます。

記録メディアはmicroSDカード。バッテリーは内蔵で、microUSB端子で充電できます。充電時間は3時間で、撮影可能枚数は約1,000枚です。

  • スマホアプリ「Canon Mini Cam」を使えば、写真の確認やリモート撮影などができます

手のひらサイズの超望遠カメラも登場間近か

iNSPiC RECの発表会場では、CP+2019で参考展示されていたほかの新趣向カメラも並んでいました。いずれも、商品化に向けて開発を進めているとのことです。

「Multi Functional Telephoto Camera」は、望遠レンズを搭載した望遠域専用のカメラ。100/400/800mm相当をボタン1つで切り替えて撮影できます(800mmはデジタルズーム併用)。今回の発表会では動作品が展示され、実際に試すことができました。ファインダー(EVF)をのぞいてみると、小型の望遠鏡をのぞいているような感覚でした。このカメラは前後が分離するようになっていて、いわば「カメラ部」と「操作&EVF部」に分かれる仕組みです。スマホの背面にカメラ部のみを装着して撮影する、といったスタイルも検討しているそうです。

  • この小ささで400mm相当の超望遠撮影が可能な「Multi Functional Telephoto Camera」。CP+の時とデザインが変わり、ほぼ市販の状態になったと感じさせました

  • ボタン類は上部に配置しています

  • EVFユニットを分離したところ

「Intelligent Compact Camera」は、カメラ自身がAIで良いシーンを選んで撮影してくれる自動撮影カメラ。こちらは、内部のソフトウエアの開発が進み、追尾した被写体を見分けて撮影できるようになったそうです。

  • カメラが自動的に撮影する新世代カメラ「Intelligent Compact Camera」。こちらも動作していた

子ども向けのカメラ「Kids Mission Camera」は、ゲームの要素を取り入れているのが特徴です。こちらはCP+2019時からのアップデートはなく、まだモックアップの展示となっていました。

  • EOSシリーズのようなデザインの子ども向けカメラ「Kids Mission Camera」

  • 残念ながらまだモックアップで動作はしなかった

著者プロフィール
武石修

武石修

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。