ハイエンドブランドが8割売れる。独自のこだわりを貫き、唯一無二の存在となった下町のセレクトショップ

JR北千住駅から徒歩10分。駅前の商店街を抜けた先の住宅街の中にセレクトショップ「アマノジャク」はあります。店内には、ごく限られた店舗でしか取り扱いのないハイエンドブランドがずらり。小さな1戸建てほどの店舗ではありますが、フォーマルなものからカジュアルなラインまでが揃い、アイテムの一つひとつにこだわりを感じられます。
アマノジャクがオープンしたのは2018年8月。無類の服好き3人組がはじめたセレクトショップの評判はうなぎのぼりで、売上や客数は増え続けているそうです。
お洒落なブランドショップが立ち並ぶ繁華街ではなく、なぜ下町・北千住で店を開いたのか。それがどのように功を奏したのかをアマノジャクの共同経営者の一人、大津寿成さんに教えてもらいました。

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とにかく服が好き。フォロワーが1000人になった段階で開店を決意

――最初に、このユニークな店名の由来について教えてください。



「アマノジャク」というのは、単にトレンドに流されるのではなく、自分たちが本当にいいと思えるものを取り入れてお客様に伝えていきたという思いから考えました。決してトレンドと逆行したいというわけではないのですが……。

アマノジャクで取り扱うアイテムはモード系と評されることもあるのですが、実際にはトラッドもアメカジもテーラーもドレスも置いています。自分たちのこだわり以外のものにあまり縛られず、本心でいいと思うものを売っていきたいんです。僕たちは本当に服が好きで、そのために店を開いたので。

――アマノジャクは男性3人で共同経営をされています。メンバーはどのような集まりなのですか?



ある老舗セレクトショップのいわば卒業生なんです。勤めていた時期にはバラツキがあるのですが、とにかく服が好きという点で話が合って、それぞれが店を辞めた後もよく飲んでいました。会って話す内容はもちろん服の話。デザインなどはもちろんですが、「あのブランドの生産背景はここがいい」「実はあのラグジュアリーブランドの工場は日本と○○工場らしい」といった業界人ならではの裏話をよくしていました。それから3人共同のアカウントでインスタグラムを始めたんです。各々が持っている服を投稿していたところ1年未満でフォロワーが1000人に到達。「どこで買ったの?」「この服のサイズは?」といったコメントが数多く寄せられ、反響が大きくなっていきました。

――それで店を開くことにしたのですね。



そうなんです。店を開くのにフォロワー1000人では少ないと思われるかもしれませんが、相当にファッションが好きな人が多かったため、このままアクティブユーザーを獲得すれば成功すると思いました。僕はもともと独立志望でいつか自分の店を持ってみたいと思っていましたし、二人にも何かといいタイミングだったんです。以前勤めていた店は決して規模の大きいものではありませんでしたが、従業員に責任ある仕事を任せてくれるところでした。そこで3人とも、店長、バイヤー、WEB構築やSEO対策といった異なるスキルを身につけていたのでそれも独立の役に立ちました。

わざわざ来てもらうからこそ、購買率が上がる

――ファッション好きが多く集まる町ではなく、下町のしかも駅から離れた場所に開店したのはなぜでしょうか?



取り扱っている服の魅力をよりよく知ってもらうために、ゆっくり接客がしたいと考えたんです。都心部でオープンすればたくさんのお客様に来ていただくことはできるでしょうが、その分慌ただしくもなる。さらにこれはセレクトショップならではの事情なのですが、メーカーは近隣の店が同じブランドを取り扱うことを嫌がるんです。そうなると、店が多い都心部では扱いたいアイテムが仕入れられなくなることがある。それでは自分の店を持つ意味がないと思いました。

――北千住であることに特別な意味はあるのですか?



23区の東側って銀座あたりまでしかあまりセレクトショップがないんです。このエリアはまさにブルーオーシャン。北千住は最近メディアに出る回数が多くなり、おしゃれな飲食店が増えてきているので商機はあると思いました。夜に活気づく街ではありますが、日中にも人は多い。都心部から移り住んできた高感度なファミリー層も多いので、ここでやってみようと思いました。店の近隣の方々にはびっくりされましたけどね(笑)。近くの美容院で働いている方には「ここは買い物に来る場所じゃないよ」と心配されました。けれど、わざわざ来るからこそ、商品を買って帰ってくださる方が増えるんじゃないかと思ったんです。実際に店を開けてみて、服好きはアグレッシブな人が多いことに気付きました。いい商品さえあれば、遠くから足を運んできてくれるんですよ。

――開店準備はどのように行いましたか?



資本金はメンバーで持ち寄り700万円ほど集めました。政策金融公庫と足立区内の信用金庫からも融資を受けています。資金はほとんど仕入れや内装工事に使いました。ゆっくりくつろいで買い物がしたくなる空間デザインを目指し、特に内装や什器にはこだわりました。また、オープンしたのが8月なので最初に取り扱うのは秋冬物。単価が高いのですが、品数が少なければせっかく来てくださった方をがっかりさせてしまうのでアウター、ニット、シャツはもちろん、シューズやバッグに至るまでのラインナップをしっかり揃えました。

――ハイエンドブランドは卸先を厳選するものだと思います。あまり実績がないなか、どのように仕入れルートを開拓したのですか?



店のコンセプトや僕らの信念を資料化して各メーカーに送りました。「自分たちはこんな思いがあるからぜひこのブランドを扱いたい」という熱意を伝えたんです。想いが伝わったのか「一度会って話がしたい」と大体のブランド担当者に言われ、実際に展示会に足を運び会話を通じて取引を開始することができました。

――そのほか、開業にあたり大変だったことは何でしょうか?



謄本などの書類を用意するのは大変でしたね(笑)。

あとはオープン直後はWWD(ファッション媒体)に掲載していただいたこともあり、1〜2カ月は土日はある程度混み合うのですが、平日の来店数が少なく、苦戦していました。

認知度がまだまだ足りなかったということもあり、自社WEBサイトでのブログの内容向上やSNSでの発信による拡散を図りWEB上での成果アップにも努めました。デリバリーブログなどを発信し続けていると3カ月目くらいから口コミが広がり始め、ファッションユーチューバーのRyo Takashimaさんに紹介していただけたことからさらに一気に認知度が上がりました。一時期はヒヤヒヤすることもありましたが、コンスタントに発信し続けることで届けたい人のところに情報が行き届くようになったんです。

――その後は順調に推移してきているのですね。



そうですね。現在、オープンしてから3シーズンが終わろうとしていますが、ほとんどのブランドの消化率が8割超え。完売してしまっているブランドも多数です。これはアパレル業界の中でも高い水準だと思っています。売上分は次シーズンの買い付けや新ブランド開拓に注ぎ込んでいるので、正直な話、僕らの手元には全く返ってきていないんですよね(笑)。ですが、日頃来てくださるお客様に非現実的な体験と洋服のワクワクを感じていただけることが一番と考えているので本望です。

顧客の平均滞在時間は2時間。大手とは真逆の戦略で信頼関係を築く

――先ほど「ゆっくり接客をしたい」とおっしゃっていましたが、来客の滞在時間はどのくらいですか?



平均すると2時間くらいですね。常連さんは4~5時間滞在される方も少なくないですし、オープンからクローズまで試着や洋服のお話をされる方もいますよ。

お買い上げいただいた服のコーディネートを考えたり、着ていくシーンを一緒に考えたりしているとあっという間に時間が経ってしまうんです。アマノジャクではお客様のパーソナルな情報を伺い、洋服と結び付けることが多いです。滞在時間は長いほど良いというわけではないのですが、一緒にいる時間が長くなるほど本心のキャッチボールができ信頼関係は強くなります。購買意欲も会話を通じで上がるんです。来客数や回転数を増やすことで売上の最大化を図る大手とは逆の戦略ですね。時間をかけてゆっくり接客することにより、再来店にも繋がりますし、次回の接客の深さが全然違います。

お客様の中には接客されることが苦手な方もいるとは思うのですが、僕たちはブランドの魅力やアイテムの機能性やデザイン、手入れの方法までもきちんと伝えたい。だからこそ、じっくり接客をするスタイルに拘っています。

――伝えているアイテムの魅力とは例えばどんなことですか?



ブランドの生産背景や製造工場の話、パターンやデザイン、機能性といったあらゆる事についてです。マニアックな内容にはなってしまいますが、プロとして理解しておくことは当然ですし、正しい情報をお客様に伝えることが販売員としての最低条件だと思っています。特に秋冬ものは生地の種類やデザインも豊富なので説明すべきことはたくさんあります。デザインさえ気に入ればすぐに購買に結びつく人もいれば、物の背景に魅入られる人もいる。オススメする服がなぜいいのかを正確に説明して、魅力を引き出し販売する姿勢は、高級車を売っているディーラーに似ているのかもしれませんね。

あと、買い付けに行ったときのエピソードも服好きの心には響きますね。僕たちはパリコレのシーズンにインポートブランドの展示会をまわり、買い付けを行います。そこでは日本の直営店でも扱っていないアイテムもラインナップされており、日本でアマノジャクしか取り扱っていないということも多々あります。

――顧客ごとに誰が担当をするのかは決まっているのですか?



そうですね。3人ともちょっとずつ好みのジャンルが異なるので、お客様の様子を見て雰囲気が合いそうなメンバーが対応に当たります。とはいえ、完全な担当制というわけではないので、入れ替わったり何人かで一緒に接客したりすることもありますよ。過去の購入品やお話しいただいたことなど、お客様の情報はカルテにして保管しています。カルテを見ることで担当していなかったメンバーもサポートしやすくなりますし、一覧にすることで趣味の系統が浮かび上がり新たな提案につながるからです。

常連のお客様とはインスタグラムのDMやLINEで連絡を頻繁にとります。アマノジャクは予約制ではないのですが、ゆっくり滞在を楽しみたい方は時間を調整してピークタイムをずらして来てくださる方もいます。お客様との距離はとても近いでしょうね。中には一緒に飲みにいくようになった方もいるんですよ。

――そのような接客術はどのように学んだのですか?



日々情報を集め、仕入れたアイテムと真摯に向き合うだけですね。僕らも純粋に洋服が好きなので、頻繁に都心のセレクトショップやブティックに通っていましたが、その際に一番お客様と近い販売員の対応の乏しさや知識の低さを感じ、不満や後悔を感じることがありました。それもあり、"情報収集(インプット)"と"深い接客(アウトプット)"を当たり前にやることだと思います。なので接客術みたいなハウツーはないです。参考にならなくてすいません(笑)。しいて言うのであれば、僕たちが実際に展示会へ買い付けに行ったときに、どんな説明をされると買いたくなるのかを考え、それを自分なりに咀嚼し、再現していますね。

商品知識については、リサーチや買い付けまで全部自分たちでやっているからこそ自然と入ってきます。それを直に伝えているので言葉に厚みが出るのではないでしょうか。

――3人がそれぞれのスキルを生かし、好きなジャンルに関する知識などを持ち寄って経営をされていることはよくわかりました。対して、共同経営だからこそ大変だったことはありますか?



その点において僕はあまり苦労を感じていないですね。もちろん、異なる意見が出ることはありますが、わりとすぐにまとまります。開業前に一緒に働いていた経験があるため、お互いがどんな働き方をするかを理解しているという点が大きいのかもしれません。

――アマノジャクの今後の目標はなんでしょうか。



一番はアマノジャクというお店を継続させること。あと、トレンドの移り変わりが早くなってきており、その流れにお客様がのまれてしまって別のセレクトショップに移り変わってしまわぬように、密な関係を継続させ、卒業されないセレクトショップであることも目標です。そのためにも、世界各国のブランドを自分たちでセレクションし、お客様の元へ洋服だけでなく、僕らの体験も含め、届け続けたいです。近々、2店舗目の計画も進めているのでその店舗を軌道に乗せることも目標ですね。

――今後、独立・開業を考えている方にメッセージをお願いします。



独立・開業自体は面倒な手続きさえすれば誰にでもできます。ただ、それを継続し、成功するためには必ず信念が必要。ざっくりと自分のお店を持ちたいという方が多いと思いますが、独立をして何がしたいのかをじっくり考え、闇雲に動くのではなく行動に明確性を持つことが大切だと思います。また、これはアパレル業界に限った話かもしれませんが、独立するのであればできるだけ若いうちにされた方がいいと思います。若さも武器の一つなので、臆せずやってほしいですね。