運用担当者と開発者にメリットをもたらす「Project Pacific」

VMwareはここ数年、さまざまな形でKubernetesに取り組んできたが、今年はKubernetesに関するフレームワーク「VMware Tanzu」を発表し、企業がKubernetesを活用するための道を具体的に示した。

「VMware Tanzu」とは、Kubernetes上でモダンなアプリケーション開発、実行、運用管理を支援するためのフレームワークで、Kubernetes上でのアプリケーションの開発、実行、管理に関する製品とサービスのポートフォリオとなっている。

  • 「VMware Tanzu」の概要

開発、実行、管理の3つのフェーズのうち、アプリケーションの実行を担う技術が、プロジェクト「Project Pacific」だ。同プロジェクトでは、同社のサーバ仮想化ソフト「VMware vSphere」のアーキテクチャを再構築して、Kubernetesを埋め込む。同社にとって、大きな意義を持つプロジェクトだ。

  • 「Project Pacific」の概要

米VMware Sr. Director of Product Management, vSphereのPaul Turner氏は、「Project Pacific」について、「VMカーネル、Kubernetesクラスタ、ネイティブのPodsを一元管理することを可能にする。APIドリブンがキーワードとなる」と語った。

  • 米VMware Sr. Director of Product Management, vSphereのPaul turner氏

運用担当者はvSphereのAPIからKubernetesのAPIを払い出すことが可能であり、開発者はKubernetesのAPIからインフラを利用することができる。以下の画面の左に、Kubernetesのネームスペースを示すアイコンが表示されているが、Turner氏は「Kubernetesを触ることなく、ネームスペースの設定が行える」と説明した。

  • 「Project Pacific」のデモ画面

「Project Pacificは、開発者に対してはコンテナ・アプリケーションのデプロイを容易にし、運用担当者に対してはコンテナのセットアップを容易にする」と、Turner氏。

VMwareがここまでコンテナに注力するのは、コンテナに精通したエンジニアが不足しており、企業が雇うのが困難だという事情がある。コンテナ・アプリケーションの開発や運用を簡素化するソリューションを提供することで、企業にコンテナのメリットを享受してもらおうというわけだ。

そこで、企業のITシステムを支えるSIベンダーに対しても、コンテナ関連のサポートを強化する。「彼らがどこまでついてこれるかどうかが、コンテナ普及のカギとなる」とTurner氏は話す。同氏は「自動化を進めれば、生産性が上がる。もっとコンテナを活用してもらいたい」とも語る。

GPU仮想化でAI/機械学習ワークロードを高速化

また、VMwareは今年7月、GPU、FPGA、およびASICを仮想化する技術を有するBitfusionの買収を発表した(買収は8月に完了)。Bitfusionの技術は、サーバごとに分離されたリソースではなく、ネットワークアクセス可能なリソースのプールとして、仮想化インフラストラクチャ内のGPUを共有することを可能にする。プラットフォームを拡張することで、FPGAとASICもサポートする。

VMwareはBitfusionの買収について、「Bitfusionの技術で、ハードウェアアクセラレータを仮想化することで、AIおよび機械学習ベースのワークロードをサポートするVMwareの戦略が強化される」と説明している。

Turner氏は「AIベースのワークロード向けのインフラの稼働率は、平均して20%~25%と利用効率がよくない」と指摘し、「われわれは、どうすればもっと処理速度を向上し、インフラの利用率を上げることができるかを考えていた」と語った。

そこで登場するのがBitfusionの技術というわけだ。「Bitfusionを使えば、企業はGPUを用意しなくても、遠隔でGPUのリソースを使えるようになる。Bitfusionの技術はvSphereに取り込もうと思っている」とTurner氏はいう。

Turner氏はGPUに関する別な取り組みとして、NVIDIAとの提携を紹介した。今年のVMworldで、NVIDIAは仮想GPU(vGPU)技術「NVIDIA vComputeServer」をVMware vSphereとVMware Cloud on AWSで提供すると発表した。

vComputeServerを用いることで、vSphere上の仮想マシンおよびその上のコンテナは物理サーバに搭載したNVIDIA GPUのリソースを利用できるようになる。

また、Turner氏はSphereのライブマイグレーション機能「VMware vMotion」にもvComputeServerが対応していることを紹介した。これにより、仮想マシンを停止することなく、物理サーバを移動してそこでGPUを利用することができる。

これまで、サーバ、ストレージ、ネットワークの仮想化を推進してきたがVMwareだが、さらにGPUにも仮想化のフレームワークを広げつつある。「Project Pacific」とBitfusionの技術が取り込まれたvSphereがリリースされる日を楽しみにしたい。