11年で400台以上のポルシェを集めた人物とは?会社を訪ねてみて ③

マンフレッドは8歳のときからポルシェに興味を抱いていた。庭師だった祖父が古い356を持っていた影響だ。しかし、実際にポルシェを所有したのは27年もたってからだった。「私は経済と工学を学びました。ポルシェのデザインは好きですが、最初に購入したのは35歳のときです。今48歳ですから、それほど昔のことではありません」
 
若い頃、マンフレッドはプロのテニス選手で、自転車で世界中を旅していた。元自転車乗りだけに、ポルシェの自転車もコレクションしている。「ポルシェの自転車は全モデルあります。そのレストアを担当するスタッフもいますよ」
 
実は、現在のキャリアのきっかけとなったのは1台のイギリス製クラシックカーだった。「私の最初のオールドタイマーはアストンマーティンDB5です。ドイツで購入し、ドイツのレストアラーに持っていったのですが、仕上がりはよくありませんでした。そこでその後、スレートグレーの1966年911と、パーツ用にもう2台手に入れました」

「私は100%オリジナルで最高の品質のポルシェなら全部好きです。変わった色や希少性のあるクルマ、広報車やレーシングカーといった特別なものに目がありません。カップカーは25台ほど持っていて、アルトフリット・ヘーガーが1993年にスーパーカップを制覇した964もあります。顧客の依頼でスティーブ・マックイーンのル・マンカーもレストアしました。その顧客がカリフォルニアで買ったクルマです。クルマの個性がスティーブのような著名人と見事に組み合わされた唯一の例だと私は思います」


 
当然、レース仕様の911も敷地内には多数あるが、マンフレッドが好きなのは所有することだけで、自らサーキットを走ろうとは思わない。「私はポルシェが好きですし、デザインは大好きですが、ドライビング自体に特別な思い入れはありません。そこがサーキットへ行くのが好きな人たちとの違いなんでしょうね」

「レーシングサービスも行っていません。専門のチームが必要だからです。サーキットでの活動に関わるなら、イベントの前後にも作業が必要です。費用は非常に高額になるし、そこにお金をかけたいという人は多くない。それに、スペースはたっぷりあっても、レース用ワークショップを設けられるほどではありません」

「私たちはプロトタイプのレーシングカーも扱っていません。だから906や910、917、935、962などは見かけないでしょう」
 
バーレーンに旅立つことになっている993 C4が目に付いた。マンフレッドが「走行距離を見てください」と言うので見てみると、なんと65万6000kmである。「しかも、いまだに最初のエンジンなんですよ。時間があったら私が1年間乗って100万kmにするんですけど。いい話のネタになるでしょうね。証拠を出すまでもありませんが、この通り、きちんと面倒を見ていれば、いつまでも持ち主の面倒を見てくれるのが911なんですよ」
 
これほど多くのポルシェが集まっている場所だから、セキュリティーは重大問題だ。「ここは極めて安全です。オイルとガソリンの設備はすべて建物の外ですから。クルマを分解する際は、まずオイルとガソリンをすべて抜いて屋外に出します。だから何か恐ろしい事態が起きても、それほど大きな火災にはならないはずです」


 
次に案内されたのは内装のワークショップだ。見るからに(そして匂いからも)様々なタイプのレザーやカーペットが用意され、ステアリングに至ってはざっと1000本はありそうだ。ほかにもフックスホイールやワイヤーハーネス、ラジオ、内装パーツも
揃っている。 

見学ツアーは、8人の技術者が働くエンジンショップに進んだ。適合はするが異なるシリーズからパーツを流用するレストアラーに対してマンフレッドは手厳しい。「ここには400台ものクルマがありますから、当時、製造ラインで何を変更したかを確認する資料には事欠きません。従って、私たちはそれぞれのモデルイヤーにどのパーツが属するかを正確に把握しています」

「ボロボロのクルマにもすべてプロジェクトリストを作ってあるので、レストアする際に何を購入し、何を製作する必要があるか、すぐに分かります」 

ここでもキーワードは"オリジナリティ"だった。「エンジンを分解したら、オリジナルかどうか全パーツをチェックします。たとえば、この1965年のクルマを見てください。数年前に受けたエンジンのレストアで67年と68年のパーツが使われていました。しかし、私たちはマッチする65年のパーツを使用して、あるべき姿にレストアしました。エンジンがマッチングナンバーなら、すべてのエンジンパーツがマッチすべきなのです」
 


再び組み立てられるまでに、すべてのコンポーネントが何らかのレストアを施される。「あらゆるパーツ、ネジの1本に至るまで、新品同様にする必要があります。ポンプもそうですし、ピストンも新しいものしか使いません」マンフレッドの会社は探偵社にも似ている。そのクルマの正規のパーツを探し出すのだ。探す場所はツッフェンハウゼンとは限らない。頼りになるスペシャリストの世界的なネットワークがある。

「リビルドの過程で新しくしなければならないパーツは200にも上るかもしれませんが、クルマがFシリーズの2.4Sなのに、Gシリーズのパーツを組み込んでは意味がない。それではGシリーズに改造しているだけです。新しいピストンを調達する際、私はマーレ社から購入します。1セット3000ユーロですから、ツッフェンハウゼンの半額ですよ。自分たちで製作するものも多数あります。例えば私たちはすべてのクルマに新品のワイヤーハーネスを造っています」大変な徹底ぶりだ。
 
特にお気に入りのポルシェはないというマンフレッドだが、初代930ターボは好きだと認める。「私は3.0ターボが一番好きですね。なんといっても45年前のクルマですし、レストアすれば古いクルマなのに270km/hで飛ばすことができる。70年代の究極のポルシェであり、当時これほどのクルマを造り上げた技術の高さを実感できます。そのあと現代のGT2 RSをドライブしてみると、品質とパフォーマンスが同じように重視されている。私は1年で約8万km 走行するので、そういう面でも今のポルシェ・マカンは重宝しています」
 
今後に向けたお楽しみもある。特別なクルマを100 台展示するミュージアムをオープンしようと計画しているのだ。「ショーのようなこともやるつもりです。ただ、一般に公開する大規模な博物館というより、コレクターを対象に品質の高さを伝えるようなものにしたい。ポルシェにとっても悪くないはずです」
 
マンフレッドが羨ましいかといえば、とんでもない。ポルシェを400台以上も収集するなんて、格が違いすぎる。まるで別世界の住人だ。そう、ヴッパータールには特別な宇宙が広がっているのである。