民生用および産業用ドローンで圧倒的な性能と信頼性の高さで人気を博している中国DJI。なかでも、ドローンに懸架したカメラを安定させる「ジンバル」の技術は高く、他社の追随を許していません。

ジンバルの技術を応用したスマートフォン用のハンディスタビライザーの最新モデルとして登場したのが、今回紹介する「Osmo Mobile 3」です。製品名から分かるように、本機はシリーズの3世代目となるモデルです。従来モデルからどれほどの機能強化が図られたのか、レビューしていきましょう。

  • より使いやすく、さらに値ごろ感あるプライスとなった「Osmo Mobile 3」。DJI直販サイトでの価格は税込み1万3500円、専用ケースやグリップ三脚などが付属するコンボは同じく1万5660円となります。写真は、ミニ三脚を装着して自立させたところです

本体が折りたためるようになり、価格も安く

シリーズの初代モデル「Osmo Mobile」の発売は2016年秋。販売開始時の価格は3万4992円(税込)と、衝動買いするにはちょっと勇気のいるお値段でした。2世代目となる「Osmo Mobile 2」は昨年2月に登場し、販売開始時の価格はグッと下がって1万6800円(税込)になりました。これで一気に人気に火がつくとともに、スマートフォン用ハンディスタビライザーの地位を確固たるものとしました。

今回登場したOsmo Mobile 3の価格は1万3500円(税込)、専用ケースやミニ三脚などが付属するコンボキットは1万5660円(同)とさらに安くなりましたが、さまざまな部分が進化していることが実感できました。

  • 装着できるスマートフォンの大きさは幅62mmから88mmまで、厚さは9.5mm未満、重量は170gから230gまでとしています。スマートフォンでは大型の部類に入るアップルの「iPhone 11 Pro Max」(幅77.8mm、厚さ8.1mm、重量226g)も使用できます

これまでのOsmo Mobile シリーズから改良されたのが使い勝手です。特に、ジンバル部が折りたためる構造になったことが大きいといえるでしょう。従来のOsmo Mobileシリーズは思いのほか大きく、外出先で使わないときは収納する場所にも困るほどでした。その形状から物に引っかけたり、邪魔になることも少なくありませんでした。

Osmo Mobile 3は、巧みにジンバル部を折りたためるようになり、不用意に動かないよう固定できます。折りたたんだ際はコンパクトになるため、ちょっと大きなカメラバッグなど忍ばせておくことも容易になりました。メーカー純正の専用ケースも用意され、収納場所に困ることはありません。これだけでも、従来モデルを愛用してきたユーザーは買い替えを検討する意義はあるように思えます。

  • ジンバルを折りたたむと半分ほどの大きさに。折りたたみにはちょっとコツが必要ですが、ジンバルがしっかりと固定されブラブラすることがなく、収納に便利です。こちらもグリップ三脚を装着しています

  • 先代モデルのOsmo Mobile 2(右)と並べたところ。Osmo Mobile 3(左)は、ジンバルを折りたたむと相当コンパクトになることが分かります。Osmo Mobile 2はジンバルの固定ができませんでしたが、Osmo Mobile 3ではホルダー部を除いてしっかりと固定できます

重量も、先代のOsmo Mobile 2が485gだったのに対し、Osmo Mobile 3は405gと軽量に仕上がっています。撮影時の腕や肩への負担が軽減することは言うまでもありません。

  • グリップの形状は手によくなじみます。質量も405gと、先代Osmo Mobile 2より80gも軽く仕上がっており、腕や手の負担が減ります。写真は撮影のために左手で持っていますが、本来は右手で持つように操作部材はレイアウトされています

  • グリップ三脚はコンボセットに付属するほか、単品として購入することも可能。テーブルなどの上に置いて撮影したり、脚を折り畳めばハンドグリップとして使うこともできます。DJI直販サイトでは税込み2,160円です

  • キャリーケースもコンボセットに付属するほか、単品での購入も可能。持ち運びの際だけでなく、保管する際も便利です。DJI直販サイトでは税込み3,510円です

操作性や使い勝手も向上

操作性も進化しています。親指で操作する4つの操作部材(Mボタン、シャッター/レコードボタン、ジョイスティック、ズームスライダー)に加え、人差し指で操作するトリガーが復活。Osmo Mobile 2では、カメラをセンタリングする場合にMボタンの2度押しで対応していましたが、Osmo Mobile 3ではトリガーで可能となり、より速やかに操作できると感じました。さらに、トリガーを1度押してから長押しするとジンバルの動きが速くなり、動くものを捉えやすいスポーツモードに入れるようになりました。被写体が素早く動くシーンで重宝しそうです。

  • 左はOsmo Mobile 3、右はOsmo Mobile 2となります。操作部材のレイアウトに変更はありませんが、Osmo Mobile 3のほうがより上向きになり、操作しやすくなっていることが分かります

  • こちらは右がOsmo Mobile 3、左がOsmo Mobile 2となります。Osmo Mobile 3のグリップ前面部にはトリガーが復活しました。トリガーの2度押しでスマートフォンを正位置に戻せ、1度押したあとに長押しするとスポーツモードに入れます

スマートフォンの横位置と縦位置の切り替えが簡単になったのも評価できます。これまで、横位置と縦位置を切り替えた場合、その都度ジンバルのバランスを調整する必要がありましたが、Osmo Mobile 3ではバランス調整が不要になりました。しかも、横位置と縦位置の切り替えはMボタンを1回押すだけで、電動で瞬時に切り替わるようになりました。写真撮影の場合、とても重宝しそうです。

  • これまでは横位置と縦位置のそれぞれでジンバルのバランスを調整する必要がありましたが、Osmo Mobile3では1度のバランス調整だけで済むようになりました

  • 横位置と縦位置も、ボタン操作だけで電動で切り替わるようになりました

さらに、撮影しながらOsmo Mobile 3からスマートフォンへの充電も可能になりました。以前のモデルも充電自体は可能だったのですが、iPhoneのように充電用端子が本体の下部に付いている場合、充電用のケーブルを差し込んだ状態ではジンバルのバランスを取るのが難しく、撮影しながらの充電はほぼ不可能でした。動画撮影時など、スマートフォンのバッテリーはあっという間に減っていくので、今回の対応はありがたく思えます。

  • 本体にUSB端子を備え、スマートフォンへの給電ができるのはこれまでと同じ。しかしながら、Osmo Mobile 3は構造的にほぼすべてのスマートフォンで充電しながら撮影できるようになったため、この端子を使う機会が増えそうです

  • 底部には三脚ネジ穴を備えています。純正のグリップ三脚のほか、一般的なカメラ用三脚に装着してタイムラプス撮影など楽しめます。四角い穴はストラップ用のホールで、Osmo Mobile 3で初めて採用されました

スマートフォンをジンバルに装着した際のバランス調整が簡単になったこともトピックといえます。これまでは、ジンバルのアームの長さと、ホルダーのスマートフォンの位置を調整する必要があったのですが、Osmo Mobile 3ではホルダー部分のみの位置調整で済むようになりました。しかも、今回使った印象では、それほどシビアにバランスを調整する必要がないように思えます(あまりにもバランスが悪いと、駆動部のモーターに負荷がかかる可能性はあります)。ハンディスタビライザーを使うにあたり、バランス調整はとても面倒に感じていた部分でしたし、この手間が面倒でハンディスタビライザーでの撮影をやめた知り合いもいるので、個人的には大きな進化だと捉えています。

キックボードで走る息子と並走して撮影。スマートフォン単独ならばガクガクと見づらい動画になったと思われますが、とても安定した動画に仕上がっており、ハンディスタビライザーの本領が発揮されました

新アプリで高度な撮影が手軽に

スマートフォンとの連携は、これまでの「DJI GO」ではなく、新アプリ「DJI Mimo」(マイ モーメント)を使用します。このアプリは、ハンドヘルドカメラ「Osmo Pocket」やアクションカム「Osmo Action」でも使われているもので、Osmo Mobileシリーズも今後このアプリに集約されるものと思われます。

  • 動画モードの基本画面。露出モードはAUTOとM(マニュアル)から選ぶことができます。AUTOモードの場合、ISO感度、シャッター速度、露出補正が可能。静止画モードの場合も同じです

  • 動画および静止画モードでは「美肌効果」を付加できます。瞳の大きさや唇の色合いが調整できるなど、設定はカメラ以上に細かいと感じました。人物を撮ることが多い人は使いこなしたい機能といえます

  • 3840×2160ドットの4K撮影時の最大フレームレートは60pと、なめらかな動画撮影が可能。ハイパーラプスモードでは、最大解像度は1920×1080ドットのフルHDまでとなります

  • ジンバルの設定機能では、ズームの速度やコントロールスティックの反応の速度なども設定可能。上手にカスタマイズすれば、自分の使い勝手に合ったハンディスタビライザーになるでしょう

  • 被写体となった人がピースをしたり手を広げた場合にカウントダウンを始め、約3秒後に撮影を開始する「ジェスチャー操作」も備えます。動画および静止画モードで有効な機能です

このアプリでは、カメラワークや音楽などの効果を付加した短編動画が作れるストリートモードや、補足した被写体を捉え続けるアクティブトラックとタイムラプス撮影機能を組み合わせたハイパーラプスなど、多彩な動画撮影が可能。写真撮影では、3×3カットを撮影して合成するパノラマ撮影も備えています。

  • 手持ちでパノラマ撮影を行いました。パッと見はうまくつながっているように見えますが、拡大するとスティッチングがうまくいっていないところが散見されます。より好ましい結果を得たいならば、パノラマ撮影は三脚にセットして行ったほうがよいようです

航空機のコックピットをターゲットに撮影したハイパーラプス動画。Osmo Mobile 3やスマートフォンの向きなど気にせず進行方向を見て歩き続けましたが、被写体の手前に障害物があってもしっかりと捕捉し続けています

純正のアクセアリー「グリップ三脚」でカメラを固定して撮影したタイムラプス動画。スマートフォンの向きを最大4カ所設定でき、それをジンバルでたどってタイムラプス動画に仕上げます

スマートフォンを縦位置にセットし、歩きながら撮影したタイムラプス動画。縦位置なので、どこかユニークな映像になりました

アプリで注目したいのが、動画編集機能を備えていること。DJI GOにも搭載されていましたが、面倒な動画編集が直感的にしかもカンタンに楽しめます。DJI Mimoに搭載されているテンプレートを使用すれば、よりドラマティックな映像に仕上げることも可能。撮影した映像をSNSにアップすれば、「いいね!」がたくさんもらえることでしょう。

  • カメラワークや音楽などの効果を付加した短編動画撮影の楽しめるストーリーモードには、13のモードが搭載されています。被写体や撮影シーンに合わせて最適なモードで撮影を楽しみましょう

ストーリーモードの「ダイナミック」で撮影。ジンバルとズームを活用したカメラアングルと、それに付加した音楽が映像にダイナミックな変化を与えています

こちらは同じくストーリーモードの「ライブラリー」で撮影しています。「ダイナミック」や「リズム」がジンバルでスマートフォンを回転させていたのに対し、こちらは横方向に切り替わるのが特徴となります

こちらは「ダイナミック」からズームを省略し、ジンバルの回転のみとしたストーリーモードです。ストーリーモードは、最大4つのショートムービーをつなげて1本の動画にしてくれます

Osmo ActionやGoProをはじめとするアクションカムは、画像処理を利用した強力な電子式ブレ補正機能が続々と搭載されており、いずれ各社のスマートフォンにも搭載されるようになるでしょう。そうなれば、Osmo Mobile 3のようなジンバル機構による機械式のブレ補正は不要になると思われるかもしれません。しかし、アクティブトラックを応用したタイムラプス撮影機能やハイパーラプス撮影機能、ストリートモードによるカメラワークなどは、ジンバル機構がなければ得られません。画質の劣化や画角の制約という面を考えても、ジンバルによる補正のほうが有利になります。

これまでのシリーズの欠点であったスマートフォン装着時のバランス調整の手間や、使わないときに邪魔になるサイズの大きさが、本機で一気に解決されたと感じます。格段に使いやすくなったOsmo Mobile 3、高性能なスマートフォンのカメラ機能を強力に支える魅力的な相棒として、年末年始に向けて用意しておくのも悪くないでしょう。