「助けて」を言えない社会の方に問題はないか? 他人に助けを求める「援助希求行動」

今年9月に書籍『なぜアーティストは壊れやすいのか?』を出版した、音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦。同書では、自身でもアーティスト活動・マネージメント経験のある彼が、ミュージシャンたちのエピソードをもとに、カウンセリングやメンタルヘルスに関しての基本を語り、アーティストや周りのスタッフが活動しやすい環境を作るためのヒントを記している。そんな手島が、日本に限らず世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている 〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」をスタート。第2回は、他人へ助けを求める「援助希求行動」について、社会自体を「助けてと言える社会」にしていくべきなのだという視点から語る。

 今最も注目されているアーティストの1人、ビリー・アイリッシュは、メンタルヘルスで悩む人々をサポートする団体の公共広告で、自らのうつ病体験や経験を語り、「助けが必要だからといって、あなたは弱いわけじゃない」と、助けを求めること、助けることの大切さを主張しました。また、彼女のデビュー・アルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go』に収録された楽曲の多くでは、自らのうつや自己嫌悪について歌われています。特に「listen before i go」という曲では、そのYouTube動画のコメント欄には自殺予防ホットラインの番号の書き込みがあり、1万を超える高評価が寄せられています。





ザ・プロディジーは、フロントマンのキース・フリントの自殺を受け、「もしも君がうつや依存症、自殺願望に苦しんでいるのだとしたら、どうか1人で苦しまないでほしい」と、メンタルヘルスによりオープンになり、積極的に助けを求めていくように促すメッセージを発表しています。

また、元デスティニーズ・チャイルドのミシェル・ウィリアムズも、自身がうつ病に悩まされていることを告白し、ツイッターで「助けが必要なときには、あなたを愛し、あなたの健康にケアしてくれる人たちからの支援や助言を受け容れるよう、何年にもわたって奨励してきました」と、やはり「助けを求めること」の重要性を説いています。

周囲にサポートを積極的に求めることを「援助希求行動」と言いますが、これはメンタルヘルスに関してだけでなく、人が生活していく上でとても大切な能力でもあります。例えば、何らかの仕事で困っていることを1人で抱え込んでしまうのではなく、「困っていること」を周囲に伝え、援助や助言を受ける方が良い結果に繋がるでしょう。

自殺リスクの高い人には、この援助希求能力の乏しさがあります。誰かに相談したり助けを求めたりする代わりに、カッターでの自傷など痛みによって意識を逸らして生き延びている場合もあるのです。



ただ、ここで気をつけたいことは、誰かの援助希求能力が低いのだとすると、それにはそうなる理由がある、ということです。誰かに助けを求めるという行為は、ある意味無防備で危険なことでもありますし、時には恥辱的でもあります。助けを求めることによってコミュニティから偏見に晒されて排除されることを怖れる人もいるでしょう。自身の成育歴によって、社会や他人に対する不信感が強かったり、自分自身に価値を見出せなかったりする人もいるでしょう。あるいは、依存したい対象に嫌われたくないからこそ本音を言えなくなるという場合もあります。こういった様々な事情から「助けて」が言えないことがあるのです。



『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』(松本俊彦編・日本評論社)では、「助けて」と言わせることへの違和感についても指摘されています。この中で熊谷晋一郎氏は、「弱さをオープンにして『助けて』と言う義務が個人の側にあるといった新しい自己責任論になってしまいます」と言い、また、岩室紳也氏は「実は『助けて』と言えないうちに助けてもらっている関係ができあがっていることが重要なのではないかということです。つまり、気がついたらつながっている関係性、依存先の存在が大事だと思うのです。残念ながら、今の世の中はそうなっていなくて、歪んだ自立や、独り立ちを強要する社会になっているのではないでしょうか。」と警鐘を鳴らしています。

やはり、生きていく上で誰かに何かの不具合が生じたとき、それは必ずしもその個人の問題ではなく、社会の問題なのではないかと考えてみることが大切です。弱さを見せられる社会ではないのに、弱さをオープンにしろ、というのはおかしな話です。私たちは援助希求行動を当事者の責任にするのではなく、社会自体を「助けてと言える社会」にしていくべきなのだと思います。そのためにも、様々なアーティストたちから発せられるメッセージや表現を、困っている当事者にだけ向けたものと受け取るのではなく、この社会に対しても向けられているものなのだと考えたいです。

参照

ビリー・アイリッシュ、メンタルヘルスを語る「助けが必要だからって、弱いわけじゃない」Rolling Stone Althea Legaspi 2019.05.24
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/30961

ビリー・アイリッシュに学ぶメンタルヘルスの大切さ i-D 30 July 2019.
https://i-d.vice.com/jp/article/3k3xdv/billie-eilish-tells-us-importance-of-mentalhealth

プロディジー、メンタル・ヘルスに関するメッセージをインスタグラムに寄せる NME 2019.5.8
https://nme-jp.com/news/72503/

Michelle Williams Twitter
https://twitter.com/realmichellew/status/1019351898418176000?s=21

「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』(松本俊彦編・日本評論社)


<書籍情報>



手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/