WASHINGTON, DC - JULY 16: Major League Baseball Commissioner Rob Manfred speaks at the National Press Club July 16, 2018 in Washington, DC. The MLB All-Star game will be held tomorrow at Nationals Park. (Photo by Win McNamee/Getty Images)

全体の26%を削減…「計画はマイナーリーグを破壊する」

 メジャーリーグ機構(MLB)が先月マイナーリーグに提案したとされる縮小案の具体的な内容が徐々に明らかになってきた。米国大手紙『ニューヨーク・タイムズ』では、16日(日本時間17日)付の記事で削減対象とされる42チーム名を発表し、同日にニューヨーク地域紙『デイリーニューズ』では「ロブ・マンフレッド(MLBコミッショナー)の計画はマイナーリーグを破壊する」という刺激的な見出しで詳細に論じている。
 
 報道によれば、MLBの提案骨子は以下の通り。
 
1.現在160チームの全マイナーリーグの26%減にあたる42チームを削減する。
2.削減対象は主にショートリーグやルーキーリーグに所属するチーム。
3.新人ドラフト会議を6月から8月に移し、指名ラウンドも現在の40巡から20巡に減らす。
4.1球団組織が傘下にもつマイナーリーグの現在の7~9階層から5階層に限定する(3A、2A、 1A+、1A、混合)。1球団組織が保有する選手数も現在の200人超から150人に減らす。
 
 提案が実現すれば、1000人以上の野球選手が仕事を失うだけではない。それぞれのチームが抱える球団スタッフ、施設従業員、リーグ審判など多くの人の職もまた失われることになる。さらに多くの地方都市から野球の文化と経済的な恩恵を奪うことにもつながる。
 
 MLBは、この提案の目的はマイナーリーグ選手たちの待遇を改善し、またすべてのマイナーリーグ施設をMLB傘下に相応しいレベルにするためだと説明している。
 
 昨今MLBは米議会へのロビー活動を行い、マイナーリーグ選手を最低賃金や時間外労働賃金を保障する労働基準法の適用対象外とすることに成功した。そのことがかえって、マイナーリーグ選手たちが置かれている過酷な経済的状況が数多く報道される結果となり、MLBはいくつかの集団訴訟をも抱えている。
 
 この提案の背景にはそうした批判をかわず狙いがあることは間違いないだろう。同時に、したたかなビジネス論理も見え隠れする。仮にマイナーリーグの給与水準を一律に引き上げたとしても、全体の選手数を減らせば、球団組織が負担する人件費は総体として大きな影響を受けないだろうことは容易に想像がつく。
 
 削減されるチームの1つとして名前が挙がっているミネソタ・ツインズ傘下エリザベストン・ツインズ(ルーキーリーグ)の三好貴士コーチは、この提案についてメジャーリーグ全体の選手育成にも大きな影響が生じると警鐘する。




「待遇を良くしても良い方向に働くとは限らない」。厳しい環境での競争が“強い選手”を生む

 三好氏はNPB(日本プロ野球)やMLB傘下での選手経験がなく、独立リーグで指導者として研鑽を積み、2018年シーズンからツインズにコーチとして迎えられた希少な日本人だ。マイナーリーグの現況について、現場を肌で知る三好氏に尋ねてみた。
 
――マイナーリーグを縮小する計画についてどう思いますか?
 
三好氏「(エリザベストン・ツインズが所属する)アパラチアン・リーグは残すべきだと思いますね。全チームが地理的に近い場所に固まっているので、遠征に時間がかからない。一番遠くて3時間ぐらいで、近いところだと15分ぐらいで行けます。スケジュールに余裕があるからシーズン中の試合がある日もチーム練習ができます。このレベルの選手たちはまだファンダメンタル(基礎)が不足しているので、試合経験は勿論ですが、それ以外にも練習が必要なのです」
 
――しかし、実際にマイナーリーグ選手たちは経済的には非常に苦しい生活をしていると聞きますが?
 
三好氏「給料が安いのは間違いありません。ルーキーリーグでもドラフト上位で入団した選手は契約金を取り崩して生活していますが、それ以外の選手は(給料の出ない)シーズンオフに別の仕事をしなくてはいけない。でもシーズン中は散財をしない限りは普通に食べて野球をすることはできますよ。地元ファンの家にホームステイをすることもありますし、その家が食事まで提供してくれることだってありますしね」
 
――ですが現実的にメジャーに昇格できる選手はごく僅かですよね?
 
三好氏「その通りです。僕らがいるのは90%以上の人間がいつかは首を切られる世界なのです。その厳しい環境での競争を生き残ってくるからこそ、強いメジャーリーガーが生まれる。今より待遇を良くしたからって、それが選手たちにとって良い方向に働くとは限らないと思いますね。むしろ今でもツインズのトレーニング施設などは何から何までも揃っていて、僕の目からすると恵まれすぎているとさえ思います」
 
――マイナーリーグは食事なども粗末だと聞きます。「ハンバーガー・リーグ」なんて呼ばれていますね
 
三好氏「ツインズはもうそうではありません。ルーキーリーグでも試合の前と後に、栄養士が管理したきちんとした食事が出ます。これはロサンゼルス・ドジャーズのマイナーリーグ・ディレクターだったゲーブ・キャプラーさん(現サンフランシスコ・ジャイアンツ監督)が始めたことです。ツインズのマイナーリーグ・ディレクターだったジェレミー・ゾルさん(現アシスタントGM)は元々キャプラーさんの右腕として働いていた人で、ツインズに来てからも大きな改革を次々に実行しています。他にもキャプラーさんの部下だった人たちがあちこちのチームに散らばって、MLB全体に新たな流れを作りつつあります」




セイバーメトリクス導入で指導のクオリティーも向上。「革新」と「古いタイプ」が共存した組織

――食事やトレーニング施設以外にも改革が行われているということですか?
 
三好氏「様々な背景を持つ人材を指導者として雇うこともその一つです。僕自身もそうですが、大学野球や独立リーグからメジャーリーグでの経験がない指導者を引っ張ってくる。彼らは若いのでフットワークが軽いし、セイバーメトリクスなどの新たな戦略にも柔軟に対応できる。マイナーリーグ全体を統括する方針もよく理解しますし、それにコストが安い」
 
――ルーキーリーグでもセイバーメトリクスを使うのですか?
 
三好氏「元々僕は独立リーグで初めてセイバーメトリクスを導入したチームで監督を務めた経験を買われて、ツインズ傘下のコーチになったのです。昨シーズンはデータから基づいた守備シフトを決める役割を担いました。プロ1年目の新人選手でもアマチュア時代まで遡る膨大なデータベースがあって、僕らコーチ陣はそれを使って作戦を練ります。そして、新しいテクノロジーは技術指導にも使われています。例えば投げ方のメカニックスを変えるとボールの回転率はこう変わる、という風に具体的に選手に示すことができる。目視と経験だけでやっていた時代とは指導のクオリティが全く違います」
 
――他のマイナー球団でもそのように新たな試みをしているのでしょうか?
 
三好氏「ツインズはどちらかと言えばイノベーター(革新的)の部類に入るでしょうね。古いタイプのオールド・スクール的な野球をしているチームもたくさんあります。それにツインズも新しい戦略一辺倒なわけではありません。僕がいるエリザベストン・ツインズのレイ・スミス監督は通算1000勝以上を挙げた名監督ですし、打撃コーチのジェフ・リードはメジャーリーグで通算17年間のキャリアを持っています。ツインズの面白いところは、彼らのような経験豊富な指導者をリスペクトしながらも、僕のような新しいタイプの人材と組み合わせるところでしょうね。もっとも僕自身は自分のことをオールド・スクール側の人間だと思っていますけど」

チームが密着した地域からは反発も

 エリザベストン・ツインズは1974年のチーム創設以来45年間、テネシー州にある同名の小さな町(人口約1万4000人)を本拠地にし続けてきた。テネシー州にはメジャー球団はなく、もっとも近いアトランタ・ブレーブスからも400キロ以上離れている。マイナーリーグにはこのように地域に密着したチームが多く、地元チームが消滅するかもしれない案に対して、各地の熱心な野球ファンからの反発は大きい。
 
 MLBのマイナーリーグ縮小案はこれから交渉が始まる段階だ。MLBとマイナーリーグ間で結ばれた現行の契約は2020年シーズン終了まで有効なため、仮に実施されるとしても2021年シーズンからということになる。現場では様々な改革が進むマイナーリーグの将来がどうなるのか、今後の経緯に注目したい。