早期退職には、経営再建などを目的とした「希望・早期退職者制度」と、業績に関係なく導入されている「選択定年制」があります。

早期退職には、経営再建などを目的とした「希望・早期退職者制度」と、業績に関係なく導入されている「選択定年制」があります。

2つの制度の相違点と、早期退職に応じる前に検討しておくべきポイントをご紹介します。

◆2018年に早期退職者募集の実施を公表した上場企業数は12社
東京商工リサーチによると、2018年に希望・早期退職者募集の実施を公表した主な上場企業数は、2000年の調査開始以来最少の12社。前年より13社減少しましたが、総募集人数は4126人で前年より1046人増加しています。

2019年は、年頭から希望・早期退職者を募集する企業が続出し、4月には再建中のパイオニアが国内グループ会社の社員対象に希望退職者を募集しました。4月時点での募集状況は次の通りです。

・鳥居薬品……400人程度を減らす方針
・アルペン……300人程度を募集(355人が応募)
・光村印刷……30人程度(子会社の新村印刷で実施)
・カシオ計算機……人数は特に定めていない(3月22日現在、156人が応募)
・協和発酵キリン……1600人程度(4月10日現在296人が応募)
・ルネサスエレクトロニクス……900人程度(推定)
・コカ・コーラボトラーズジャパンHD……700人程度募集
・メガチップス……40人程度
・パイオニア……2018年12月に発表した全世界で約3000人削減計画の第1弾

<カシオ計算機の早期退職優遇職制度の内容>
・募集人数:定めていない(3月22日現在156人が応募)
・募集期間:2019年2月12日~3月15日
・退職日:2019年6月20日
・対象者:国内営業部門やスタッフ部門の勤続10年以上で45歳以上の一般社員と50歳以上の管理職社員
・優遇措置:退職時に所定の退職金に加えて特別加算金を支給(総費用は26億円の予定)。希望者には再就職支援を行う。

◆早期退職は2種類ある
早期退職制度には2種類あります。

1つは、経営再建や事業の再構築・構造改革のために、期間と人数を限定して退職者を募集し、早期退職してもらう早期退職優遇制度です。

一般に「早期希望退職制度」あるいは「希望退職制度」といわれるもので、整理解雇を回避するために行われます。多くの場合、退職金の割り増し加算や再就職の斡旋などが行われます。

もう1つの早期退職は、企業が人事制度として設けているもので、定年年齢に達する前に退職を選択できることから「選択定年制」とも呼ばれています。

まず、選択定年制とはどのようなものかを解説します。

◆選択定年制は自己都合退職や定年退職扱い

業績に関係なく、従業員の世代間の人員バランスの均衡や定年前に転職や独立を考える従業員の支援などを目的として、人数を限定することなく随時募集する選択定年制は、退職制度の1つとして常設されています。

中央労働委員会の「平成29年退職金、年金及び定年制事情調査」によると、早期退職優遇制度を導入している企業は206社中102社(約50%)です。企業独自が適用要件(例えば勤続年数や適用開始年齢など)を定めています。

優遇措置には、 退職一時金の優遇(支給率を加算して定年退職扱いにする、実勤務年数に定年までの年数を加算する、など)や退職年金の優遇などがあります。

「平成29年退職金、年金及び定年制事情調査」から選択定年制を導入している102社の適用状況等をご紹介します。

◇選択定年制の適用状況
・勤続年数の要件:あり……81社(約79%)、所要年数の平均は14.0年
・適用開始年齢:「50歳」から適用が最も多く42社(約41%)

◇早期退職者に対する優遇措置(複数回答)
・退職一時金の優遇措置あり:99社(支給率を加算し定年退職と同等に扱う:43社、勤続年数の加算:12社、退職時の年齢に応じて支給額を加算:43社、その他:25社)
・退職年金の優遇あり:7社
・その他の優遇あり:8社

選択定年制による退職は「自己都合退職」扱いですが、会社によっては「定年退職」扱いとすることもあります。

自己都合退職扱いの場合、雇用保険の基本手当は3カ月の給付制限がありますが、定年退職扱いの場合には給付制限はありません。給付日数は自己都合退職も定年退職も同じで、雇用保険の被保険者期間と年齢等によって決まります。

2018年1月の三越伊勢丹ホールディングスに続き同年10月には日本ハムが「選択定年制度を時限的に拡充して2019年5月~6月に上限200人の早期退職者を募る」と発表しました。

これらは選択定年制を活用した早期希望退職募集といえるでしょう。今後このような新しいタイプの人員調整が増える可能性があります。

◆早期希望退職は会社都合退職
前出のカシオ計算機のように、使用者側が割り増し退職金のような優遇措置を提示して退職してもらう早期希望退職は「解雇等の理由による退職」にあたるので、会社都合退職(=特定受給資格者)となります。雇用保険の基本手当の給付制限はありません。

早期希望退職に応募し、退職金は割り増し加算されたが、退職後にもらった離職票の退職理由が「自己(本人)都合」になっていた、というトラブルも発生しています。

「自己都合退職」と「会社都合退職」では雇用保険の基本手当の給付に大きな差がありますので、退職前に退職理由が「会社都合」か「自己都合」なのか念のために確認することをおすすめします。

◆割り増し退職金は1~2年
選択定年制は人事制度の1つなので、優遇措置などの規定内容は就業規則に明記されています。

一方、早期希望退職は、募集ごとに優遇内容が異なります。1回の募集で目標人数に達しない場合は募集を複数回行うこともあり、回を重ねるごとに優遇内容は悪くなる傾向があります。

2018年11月に早期希望退職募集に対し2170人の応募があったNECは実施費用として約200億円を準備しました。1人当たりの割増退職金を単純計算すると約921万円になります。

割増退職金は企業業績や経営状況、募集理由、対象者の年齢など諸条件で異なるので一概にはいえませんが、12~24カ月分程度が多いようです。退職金は退職所得として所得税と住民税が課税されます。

◆早期希望退職の決断ポイントは4つ
会社が「早期希望退職を実施する」と公表した場合、あなたはどうしますか? 独立開業する予定の人や転職を考えている人、50歳後半の人の中には「ラッキー!」とばかりに応募する人がいるかも知れません。

しかし、多くは「会社の将来性は……」「再就職は……」など将来の不安が大きく、決断できない日々を過ごすのではないでしょうか。では、早期希望退職に応じるかどうかの決断ポイントを考えてみましょう。

◇1. 割り増し加算の退職金で退職後の収入ダウンを賄えるか
退職後は雇用保険の基本手当、例えば45歳以上60歳未満で勤続20年以上の人には「給付日数330日×8260円(上限額)=約273万円」(離職の日が平成34年3月31日までの間にある場合)が給付されます。基本手当の給付期間中に再就職を決めたいところです。

再就職後から年金支給開始年齢の65歳までの収入を、現在の会社に残った場合と再就職した場合で予測します。その差額の総額が退職金の割り増し加算分に近ければ、早期希望退職に応募してもいい、ということになります。

収入減のカバーに充足するのは割り増し加算部分だけです。本来の退職金は65歳になったときの退職金として別に管理しましょう。

◇2. 現在の会社の将来性は?
会社に残った場合でも現在の収入が保証されるわけではありません。計画通りに再建できない場合は、更なる早期希望退職の募集や整理解雇、果ては倒産ということもありえます。

◇3. 転職市場での「売り」は?
自分の「売り」や人的ネットワークを持っている人は、再就職が有利に進みます。年齢が高くなればなるほど人的ネットワークが力を発揮するようです。

再就職への道が険しくなければ、早期希望退職に応募するハードルが低くなります。

◇4. 退職後の夢に着手する
定年退職後に挑戦しようと夢見ていた仕事に、気力も体力もある年齢で着手するチャンスかもしれません。

資金には退職金の割り増し加算分を充当。不足する技術は、雇用保険の基本手当を受給しながら職業訓練校に通い、併せて教育訓練給付の通信教育を活用して身につけることもできます。

◇教育訓練給付とは?
雇用保険の被保険者や離職者が、自ら費用を負担して、厚生労働大臣が指定する教育訓練講座を受講し修了した場合、本人がその教育訓練施設に支払った経費の一部を支給する制度で、次の3つがあります。

給付を受けるには被保険者期間や受講する間隔など一定の要件を満たす必要があります。

1. 一般教育訓練給付
教育訓練施設に自分で支払った教育訓練経費の20%に相当する額(上限10万円)が支給される。4000円を超えない場合は支給されない。

平成29年1月1日以降で受講開始日前1年以内にキャリアコンサルタントからキャリアコンサルティングを受けた場合の費用(上限2万円)も教育訓練経費に加えることができる。

◇2. 専門実践教育訓練給付
教育訓練施設に自分で支払った教育訓練経費の50%に相当する額が支給される。ただし、1年間で40万円を超える場合の支給額は40万円(訓練期間は最大で3年間となるため、最大で120万円が上限)とし、4000円を超えない場合は支給されない。

専門実践教育訓練の受講を修了し、資格等を取得し、受講修了日の翌日から1年以内に就職に結びついた場合は、教育訓練経費の20%に相当する額が追加支給されるが、その合計額(70%=50%+20%)は、訓練期間が3年の場合は168万円、2年の場合は112万円、1年の場合は56万円を上限とする。4000円を超えない場合は支給されない。

なお、10年間に複数回専門実践教育訓練を受給する場合の支給合計額は、初回から10年間で168万円を上限とする。

◇3. 教育訓練支援給付金
初めて専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)を受講する受講開始時に45歳未満など一定の要件を満たす人が、訓練期間中に基本手当の支給を受けられないときは「基本手当日額の80%相当額×2カ月毎に失業認定を受けた日数」が支給される。2022年3月31日までの時限措置。

文=大沼 恵美子(マネーガイド)