心の健康状態は個人差が大きいもの。同じ職場や生活環境であっても、元気に充実した毎日を送れる人もいれば、落ち込んで心の病になってしまう人もいます。

◆“ストレス耐性”は人によって違う? 心の健康を保つコツはあるのか
心の調子が悪い時は辛いものです。朝から気分が冴えず、ちょっとしたことにイライラしてしまう日は誰にでもあります。そんな日に思いがけないトラブルや急ぎの仕事などが降りかかってくると、さらに気持ちが滅入ってしまうのも無理はありません。

「みんな、よくこんな環境で頑張っていられるな……」と周りを見渡せば、そつなく仕事をこなしている人が目に入ったりします。

普段は何とも思っていなかった同僚のタフさに気付く瞬間でもありますが、その同僚の方も、もともとそつなくできていたわけではなく、普段から心の健康を意識して実践してきた結果かもしれません。

ここでは、毎日のタスクも将来の不安も多い現代社会で心の健康を保っていくヒントを、精神医学的観点から詳しく解説します。

◆心の不調の原因は「脳内環境の悪化」……ストレスは大きな一要因
「イライラがおさまらない」「気持ちが乗らない」「なぜか不安で仕方がない」など、心の不調の感じ方は様々ですが、結局のところ、これらのいずれも「脳内環境の悪化」を反映した感情です。脳内環境の悪化がひどくなり、治療を受けねば改善が難しくなってしまった状態が「心の病気」ということもできます。

脳内環境は遺伝的要因で定まる部分もありますが、悪化の大きな要因になるものはストレスです。

とはいえ、ストレスを完全に排除することは無理なもの。なるべくストレスを感じないようにスケジュールを立てて日々の仕事を上手くこなそうと頑張っていても、合わない人と仕事をしなくてはならなくなることや、自分の劣等感を刺激するような嫌な言葉を耳にしてしまうことはあるでしょう。

「○○さん、頑張ってるけどちょっとイタいよね」などと、聞きたくなかった陰口を耳にしてしまったら、誰でも動揺します。この時に大切なのは適切に自分の心をケアすることです。対処法を間違えてしまうと、冷静さが保てなくなり、イライラや不快な気持ちが収まらなくなってしまうことがあります。

◆ストレスや精神的ダメージから心の不調が悪化していく「ネガティブ・スパイラル」
嫌なことが起きてしまった時、精神的ダメージの大きさによっては、普段の自分の状態を保てなくなることがあります。

例えば、心の病というほどひどい状態でなくても、やけ食いなどでストレスを発散してしまった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

気分が冴えず嫌なことが続いた一日を終え、帰宅しても食事を作る気になれない……。とりあえず少し休憩しようと冷凍庫のアイスを食べているうちに、気づけば箱ごと空けてしまっていた、といった経験がある人もいるかもしれません。

こうした一時的な暴飲暴食であればまだよい方ともいえますが、嫌なことにストレスを感じるたびに、深酒をあおってしまい、翌日は二日酔いで仕事が手に付かないような場合は注意が必要です。

本人の遺伝的、心理的、社会環境的要因がネガティブに相互作用し始めることで、心の不調はますます悪化し、「ネガティブ・スパイラル」に入ってしまう危険があります。心の不調時には、まずはその不調をそれ以上悪化させないよう、しっかり意識することが大切です。

◆心の防衛機制を鍛えることはできるのか? 客観的に捉える訓練は効果的
前述の例のように陰口を耳にしてしまったような場合、私たちは意識的あるいは無意識的に、心理学用語でいうところの「心の防衛機制」を働かせ、心を守ろうとします。

例えば、「何だ、自分だって××のくせに!」と、条件反射的に相手の悪口が頭に浮かぶのは、心の防衛機制の一つです。

誰かに八つ当たりしたり、自分のことを「○○ちゃん、かわいそう……」と幼児退行的な気持ちで心の中で慰めたりする場合もあります。

また、「これこれ、こういう訳だから、あの人たちの言葉には問題があり、自分には落ち度がないんだ」と、理詰めに状況を解釈して、自分を落ち着かせようとするのも、同じく心の防衛機制です。

意識したことがある人は少ないと思いますが、これまで自分がストレスを感じる場面で、どんな心の防衛機制を働かせてきたのか、ちょっと振り返ってみてください。

もしもその方法が現実対処能力を低下させるような方法(例えば、先ほど挙げたような自分を子ども扱いするような、幼児退行的な反応など)を取っていた場合、今度からは別の手段として「状況を理詰めに解釈してみる」といった方法なども、ぜひ試してみてください。

そして、もし心が傷ついた原因に、自分自身の劣等感などの心理的問題がある場合は、できればそれを他人に言えるレベルまで、客観的に捉えることができるようになることが理想です。劣等感として押し込めるのではなく、客観的に正面から向き合っていくことは、心の痛みを和らげる基本的対策になるものです。

◆ストレスは持ち越さずに発散・解消を! 習慣化しやすいため健康的な方法を
ではストレス発散の有効な方法として、どんな対処が望ましいのでしょうか? これは人それぞれ、意見が分かれるところでしょう。

「仕事帰りにジムへ寄って、有酸素運動で気持ち良く汗を流します」という人もいれば、「私はパートナーに思いっきりグチを聞いてもらいます」という人もいるでしょう。

そのやり方が、その人に合っていれば、もちろん何の問題もありません。一点だけ注意していただきたいのは、「ストレス発散法は良くも悪くも習慣化しやすい」ということです。

深酒ややけ食い、衝動買いなど、それが習慣化してのめりこんでしまった場合に、日常生活や社会的に深刻な問題が生じやすいものは選ばないようにすべきという点には、ぜひご留意ください。

それでは最後に、人生には戦いという面が少なからずあるもの。相手から傷つく言葉を浴びるようなことは、いつでも起こり得ます。

その際は、心の防衛機制でダメージを食い止め、そのストレスは、その日のうちに発散させることで、ぜひ、冒頭の○○さんのように、何かの折、そのクールな姿で周りから一目置かれるような存在になっていただきたいです。

文=中嶋 泰憲(医師)