映画「エンジェルサイン」の場面写真(C)「エンジェルサイン」製作委員会

 人気マンガ「シティーハンター」などで知られるマンガ家の北条司さんが初の実写映画総監督を務める「エンジェルサイン」が、11月15日からユナイテッド・シネマ豊洲(東京都江東区)ほかで公開された。全編せりふが無く、映像と音楽だけでストーリーが展開していく長編オムニバス映画。各作品をつなぐ「プロローグ&エピローグ」は北条さんの世界観が表れたオリジナルストーリーだ。ディーン・フジオカさんと松下奈緒さんが音楽家カップルを魅力的に演じている。

 せりふを使わない短編「サイレントマンガ」を募集するマンガオーディション「サイレントマンガオーディション」のアジア・ヨーロッパの受賞作品を実写化。北条さんが描き下ろした「プロローグ&エピローグ」の他、愛する妻を失い希望を失った鉄道運転士とその飼い犬を描いた「別れと始まり」(落合賢監督)、病気で飼い犬を失ったことを理解できない少女を描く「空への手紙」(ノンスィー・ニミブット監督)、出産目前に命を失いかけた妊婦と死神を描く「30分30秒」(ハム・トラン監督)、父を亡くし希望を失った少女と人間の感情を宿したロボットを描く「父の贈り物」(旭正嗣監督)、戦地へ赴く父と残された娘を描く「故郷へ」(カミラ・アンディ二監督)の五つの物語で構成。「別れと始まり」には緒方直人さんと菊池桃子さん、「父の贈り物」には佐藤二朗さんらが出演している。

 「プロローグ&エピローグ」は、恋人同士のチェリスト、アイカ(松下さん)とピアニストのタカヤ(ディーン・フジオカさん)は「いつか2人の音楽で、世界中の人々を感動させたい」と夢を追いかけていたが、「エンジェルサイン」というチェロとピアノの二重奏曲を作り上げた直後、タカヤが帰らぬ人となってしまう。アイカがチェロだけで演奏する「エンジェルサイン」は、やがて世界に広まっていき……というストーリー。

 映像と音楽だけでの進行、撮影で使われたのは脚本ではなく北条さんの絵コンテと、斬新な手法が用いられた。せりふは無いが、キャストの表情や身振り手振り、そして絶え間なく流れる音楽が、雄弁に登場人物の感情を物語り、十分に作品世界に没頭することができた。

 六つの物語はそれぞれ環境もキャストも異なる独立した作品だが、最初と最後の物語「プロローグ&エピローグ」が5作品をつなぐ役割を果たし、共通する世界観を持つ一つの作品としても見ることができる。

 3歳からクラシックピアノを学び、ピアニストとしての顔も持つ松下さんがチェロを演奏する姿はさすがのたたずまいで、目を奪われる。フジオカさんの持つ上品で柔らかな雰囲気も、音楽と共に映し出されるせりふの無い演技にハマっている。キャスティングの妙にうならされた。(河鰭悠太郎/フリーライター)