宇宙ゴミ(スペースデブリ)の除去を目指すベンチャーで、世界的な注目を集めるアストロスケール(Astroscale)。同社ゼネラルマネージャーの伊藤美樹氏が11月8日、都内で開催された技術カンファレンス「SOLIDWORKS WORLD JAPAN 2019」の基調講演に登壇、デブリ除去の技術やビジネスモデルなどについて説明した。

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    アストロスケールゼネラルマネージャーの伊藤美樹氏

同社は2013年に設立。2017年に最初の超小型衛星「IDEA OSG 1」(25kg)を打ち上げ、微小デブリを計測する予定だったが、残念ながらロケット側に問題が発生し、軌道投入に失敗していた。現在、次のミッションとしてデブリ除去実証衛星「ELSA-d」(200kg)を開発中で、これは2020年に打ち上げる計画となっている。

デブリの問題は現実にある脅威

講演で、伊藤氏はまず、映画「ゼロ・グラビティ」について言及。この映画で描かれたデブリによる事故は全くのフィクションではなく、現実にある脅威であることを指摘、「デブリは世界的な問題になっている。我が社は世界に先駆けて、この問題に取り組んできた」とアピールする。

現在、軌道上には10cm以上のデブリが34,000個以上あると言われている。これらは、役目を終えた人工衛星やロケット上段が由来であるが、厄介なのは、爆発や衝突により、数がどんどん増えてしまうことだ。

世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げた1957年以降、この60年間でデブリは一貫して増加傾向にある。グラフを見ると、2007年と2009年に急増したことが分かるが、これは中国による衛星破壊実験と、米国・ロシアの衛星衝突事故が原因だった。

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    デブリ数の推移。途中で非連続的に増加しているポイントがある

こうした衝突や爆発が起きると、1個の衛星が数百、数千もの新たなデブリになってしまう。それが別の衛星に当たれば、さらに大量のデブリが発生する。このように、連鎖的な衝突により、デブリの数が自己増殖していく、いわゆる「ケスラーシンドローム」が、現実の問題として懸念されている。

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    実際に、衝突や爆発は起きている。すでにこのような事例がある

これを防ぐにはどうすれば良いか。ESA(欧州宇宙機関)の研究によれば、運用終了時に推進剤の排出やバッテリの放電などを行う「Passivation」(無害化)を徹底した上で、高度を下げる「Post Mission Disposal」(PMD)を90%実施した場合に、ようやくデブリ数は横ばいになるという。減少させるには、さらに大型デブリを年間5個除去する必要がある。

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    デブリ数の予測。何も対策しなければ、一番上のラインで上昇する

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    PMD率は上がっているものの、現状で3割強。なかなか進まない

デブリ除去の費用を誰が負担するのか

持続的に宇宙を利用していく上で、デブリが大きな問題になることは分かっているものの、対策の動きは鈍い。2007年、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)にて「スペースデブリ低減ガイドライン」が出されたものの、法的な拘束力を持たない"ソフトロー"に留まっており、各国の自主的な取り組みに依存している。

対策が進まない背景には、2つの考え方の対立があると伊藤氏は指摘する。1つは、デブリをたくさん出した人が費用を負担すべきという汚染者負担の考え方。しかし、彼らのおかげで宇宙開発が進展し、世界中の人が利益を享受しているのも事実。利益を得ているみんなで負担すべきという受益者負担の考え方もあり、「2つの主張が対立していて合意が得られていない」という。

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    宇宙にある物体の割合は、ロシア、米国、中国だけで9割を超える

「民間がビジネスとしてやるからこそ、遅々として進まない現状を打破できる」と考え、設立されたのがアストロスケールという会社だ。しかし、2013年に開催されたスペースデブリに関する欧州会議に出席したものの、市場が無い、技術が無い、法制度が整っていない、民間がやることではないなど、反応は否定的なものばかりだった。

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    欧州会議での冷ややかな反応。しかし同社はポジティブに捉える

だが「市場が無い」というのは、ブルーオーシャンであって、これから市場を作れるというチャンスでもある。同社は、ビジネスモデルとして、2つのサービスを検討している。

「Active Debris Removal」(ADR)サービスは、ロケット上段や大型衛星といった既存のデブリを除去するもので、これは政府相手のBtoGとならざるを得ない。もう1つは「End of Life」(EOL)サービス。これは今後打ち上げる小型衛星に対し、デブリ化を防ぐための手段を提供するもので、こちらは民間相手のBtoBを想定する。

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    同社は、ADRサービスとEOLサービスの2つを事業の柱に据える