道重さゆみ「黄金期はこれからまた私達が作るんだ」新生モーニング娘。誕生の瞬間

アイドルは時代の鏡、その時代にもっとも愛されたものが頂点に立ち、頂点に立った者もまた、時代の大きなうねりに翻弄されながら物語を紡いでいく。モーニング娘。の歴史を日本の歴史と重ね合わせながら振り返る。『月刊エンタメ』の人気連載を出張公開。17回目は2012年のお話。
曽有の大災害から1年が過ぎた、2012年。悲しみの記憶を受け入れ、それぞれが続く明日へともう一度歩き始めた日本では、再出発の勇気を奮い立たせるような心の繋がり、つまり「応援」を軸とするコンテンツが非常に高い注目を集めていた。例えば同年のテレビ年間視聴率、その上位を独占していたのはロンドンオリンピックやサッカーワールドカップのアジア地区最終予選であり、音楽の話題に目を向ければ、AKB48のブレイクに続く女性アイドルの大ブームである。

「AKB48初の東京ドーム公演決定」「ももいろクローバーZが第4回CDショップ大賞受賞」「乃木坂46や私立恵比寿中学がメジャーデビュー」。試しに2012年1~3月に報じられていた出来事を並べてみるだけでも、この2012年の女性アイドルシーンがいかに盛り上がっていたのかを、後世へ簡単に伝えることができる。

しかしその一方で、同じ2012年1~3月に当時のモーニング娘。が発表していたシングルを聞かれたとき、すぐにタイトルを答えられる人はきっと少ないはずだ。この悲しきクイズの正解は48枚目のシングル『ピョコピョコ ウルトラ』(1月25日リリース)。不名誉ながら長いモーニング娘。の歴史の中で、過去最低のシングル売上を記録してしまったのが同作でもある。

2012年が始まったときのモーニング娘。というのは、例え世がアイドルブームの中にあっても、時代遅れという評価のまま相変わらずもがき続けている状態だった。さらにファンから不安視されていたのは、知名度の高かった前リーダー・高橋愛に続き、中心メンバーとして長年グループを支え続けた新垣里沙、光井愛佳も、同年春での卒業がすでに確定していたことだ。



知名度、歌唱力、パフォーマンススキルと、長年積み上げてきたはずの自信が次々にリセットされていくモーニング娘。たち。しかしそんな流れを、プロデューサーのつんく♂は「逆にガラッと変えられる」(※1)機会として前向きにとらえていたという。なぜならここ1年でグループに加入していた新人の9・10期メンバーに、つんく♂は今までと違う“新たな時代の手応え”を感じていたからだ。

「(ダンスが得意な)鞘師里保、石田亜佑美の加入が大きいのかな。あの子たちがかなり踊れることをどう生かすかを考えた」(つんく♂)(※2)

国民の中で高まっていたアイドルへの渇望と、グループに芽吹き始めた新しい可能性。その2つを接続するために、この2012年につんく♂が仕掛け始めたのが、グループの根幹である音楽面でのチャレンジだった。

2012年4月、モーニング娘。49枚目のシングルとしてリリースされた『恋愛ハンター』は、新たな王道として君臨しつつあったAKB48の直球アイドルソングと聴き比べると、かなり攻めた楽曲になっていた。なぜなら歌メロにサビというJ-POPの黄金パターンは守りつつ、つんく♂はそのアレンジに、海外で主流となっていたEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)を、かなり大胆に採用したのである。

「音楽的にちょっと進化させてみて、世間の評判、見え方、表現の仕方を探った」(つんく♂)(※2)

ただこの『恋愛ハンター』での試みはファンの間でこそ大好評だったものの、結果として世間の関心を呼び戻すまでには至らず、反響は収束する。しかしこの“失敗”が、つんく♂に次曲への大事なヒントをもたらしていた。

「いくら新しい音楽であるEDMを試してみても、これまでとまったく変わらなかったんですね。で、もっと刺激を! と曲の作りから変えようと思った」(つんく♂)(※3)

そして『恋愛ハンター』の発表から約1カ月半、頼れる先輩だった新垣・光井の卒業ライブからはわずか8日後。道重さゆみ、田中れいな、譜久村聖、生田衣梨奈、鞘師里保、鈴木香音、飯窪春菜、石田亜佑美、佐藤優樹、工藤遥の計10人体制となったモーニング娘。は、満を持して新曲『One・Two・Three』をステージで初披露する。



ステージの模様がYouTubeにアップされると、まず既存のモーニング娘。ファンたちが一斉に反応し、驚きの声を挙げた。なぜならそこには、ファンの想像をも越えた「新たなモーニング娘。の姿」が見事な形で存在していたからだ。

前作でのトライ&エラーで得た知見を元に、つんく♂は記念すべき50枚目のシングル作として予定されていた『One・Two・Three』で、なんとモーニング娘。の楽曲構造そのものを変えるという大勝負に出た。歌メロをほぼ動かさず、サビもギリギリのところで歌い上げさせないという、J-POPの黄金パターンをあえて自ら封じる手法である。

「デモテープだけ聴いたら“なんじゃこの曲”って思うと思います」(つんく♂)(※3)

しかしこの“我慢の美学”こそが続けて採用したEDMの目新しさと合わせ、結果的に新生モーニング娘。の魅力を引き立てた。そしてインターネットが着火点となったその反響は、次第に既存ファンを越え、ブームの中でアイドルへのアンテナを立てていた人々の元にも「今のモー娘。ってこうなってるんだ」という驚きとともに広がっていったのである。

最高の追い風を受けた2012年7月のリリースシングル『One・Two・Three』は、モーニング娘。にとって、なんと丸10年ぶりに売上が10万枚を越えるヒット作となった。

そして再び注目を集め始めたグループはというと、相変わらずメディア露出には恵まれなかったものの、YouTubeでの再生回数や、握手会へ通うファンの数が目に見えて増えていくことになる。

「『LOVEマシーン』や『ザ☆ピ~ス』の頃が黄金期と言われていたけど、黄金期はこれからまた私達が作るんだ」(道重さゆみ)(※1)

長いトンネルの先でモーニング娘。がついに掴んだ、復活の兆し。

それはどんな苦難の中でも決して未来を諦めなかったグループにとって、新たな時代を生き始めたニッポンの今に、もう一度自分たちが重なる。そんな結成14年目の必然の奇跡も意味していた。


※1 ワニブックス『モーニング娘。 20周年記念オフィシャルブック』
※2 9~11期メンバー&つんく♂が語る2013年の『モーニング娘。』(音楽ナタリー)
※3 NHK BSプレミアム『モーニング娘。まるっと 20年スペシャル!』(2018年3月31日放送)