社会人になってからも実家暮らしで親との同居を続ける場合、親の言動でストレスを溜めてしまうケースは珍しくありません。

◆「社会人の実家暮らし」はストレスとの闘い? 親との同居から生まれる悩み
社会人になってからも、実家暮らしで親と同居を続けるケースは珍しくありません。気兼ねもなく、メリットも多そうな実家暮らしですが、実際には親との生活にストレスを感じている人は少なくないようです。たとえば、次のような声をよく聞きます。

「社会人として自分の考えで人生を決め、自分のペースで生活を送りたい。でも、実家暮らしだと何かと意見をされて判断に迷い、自分のペースも分からなくなる」

「私自身がやるべきことを、つい親任せにしてしまったり。親は子どもの時間に配慮せず、愚痴や世間話を際限なくしてきたり……。知らず知らず、お互いに遠慮がなくなっている」

「健康な親と同居するだけでもストレスなのに、この先、親の老化が進んでいくと、ますますストレスが増えるのではないかという不安がある」

◆「実家暮らしで親と同居」のメリット・デメリット
社会人が実家暮らしをする際には、次のようなメリット、デメリットがあると考えられます。

◇メリット
・金銭面での負担、家事の負担が減る
・お互いの安否を常に確認できる
・ちょっとした話し相手になる
・一緒に生活することで親孝行ができる

◇デメリット
・何かと意見され、口うるさく感じる
・世代間ギャップで話が合わない
・情報弱者であることが多く、サポートが大変
・加齢とともに頼られることが増える

また、親の側としては同居がうれしい反面、自立の妨げになっているのではないかという不安もあります。そうした矛盾した気持ちを向けられ、「いい歳をした子どもと同居するのもね……」「本当は早く結婚してほしいんだけどね……」などと言われると、子どもとしては無性に腹だたしく思ってしまうようです。

◆同居する親ストレスへの対処法……まずは「話し合う」「受け流す」の判断を
親の言葉や態度にストレスを感じてしまう場合、感情的になっても建設的な解決策にはたどり着けません。不快に感じることがあったら、まずは「話し合うべきこと」か「受け流すべきこと」かを判断し、それぞれ適切に対処することがストレスを溜めこまないコツです。

◇「話し合うこと」が有効な場合と、上手な話し合いのポイント
親の言葉や態度にストレスを感じるときは、自分の気持ちを抑えて我慢したり、攻撃的になったりするのではなく、アサーション・トレーニングのDESC法を活用して、話し合いましょう。以下のような流れです。

例)「いい年をして結婚もしないで……」と母親に言われてカチンときてしまったとき

◇D:Describe……事実を伝える
お母さん、今「いい年をして結婚もしないで」って言ったでしょう。

◇E:Express……相手の気持ち、自分の気持ちを表現する
心配かけてごめんね。でも、結婚については私も色々考えているの。だから、とやかく言われたくないの。

◇S:Specify……話し合いたい課題の焦点を特定する
親子が気持ちよく生活するために、言わないでほしい言葉ってあるじゃない? それについて話し合わない?

◇C:Choose……選択肢を提案する
私は、結婚や仕事などの人生の選択については、安易に意見をしないでほしい。お母さんも言ってほしくない言葉ってあるでしょう? それを教えてくれる? お互いにその領域については言わないように気をつけていこうよ。

このように、DESCの手順で話し合いを進めると、親も納得して話し合いに応じやすくなります。

◇「受け流すべきこと」が有効な場合と、受け流し方のポイント
人それぞれ、受け流すべきことの範囲は異なります。次のようなことは話し合うより、受け流した方がよいことが多いでしょう。

◇何度お願いしても変わらないこと
たとえば、何度禁煙をお願いしても相手がたばこをやめられない場合、外や換気扇の下など喫煙場所を限定するなど、自分の不快感ができるだけ少なくなる妥協点を見い出しましょう。

◇世代性によって大切にしている価値観
たとえば、特に昭和世代の女性には「妻は夫を立てる」という価値観が強い場合もあります。男女平等を前提とする平成・令和世代の価値観とは合わないものですが、こうした考え方で人を傷つけていなければ、受け流しましょう。

ただし、どちらもあまりにモラルを逸脱しているような場合は別です。そうした場合、上記のDESC法で話し合いましょう。たとえば、一緒に決めたルールを守らない場合や人の悪口が多い場合には、ぜひDESC法で話し合ってみてください。

◆「責任の境界線」を意識することはストレスを増やさないポイント
家族が一緒に暮らすには、「境界線」(バウンダリー)を意識していくことが重要です。バウンダリーは「バリア」(壁)ではありません。お互いが守るべき「個としての自分」の領域です。なかでも、親との同居生活の場合には「責任の境界線」を意識しましょう。

相手が自分自身で考えるべきこと、決めるべきことを、肩代わりしないのが「責任の境界線」です。提案はしても、選択するかどうかは本人の判断です。手続きなども、できる限り自分で行うように促しましょう。

たとえば「友達がほしいけど、人付き合いが苦手」という気持ちから、娘に友達代わりになってほしいと願う母に対して、母の希望をまるごと叶えてあげるのは「責任の境界線」を逸脱した行為です。

この母親には「自分の力で友達作りをする」という個人の責任があります。それを娘が安易に引き受けてしまうと、母親に「私の課題は、いずれ娘がなんとかしてくれる」と考える癖がついてしまいます。これを続けていると、「人生100年時代」の親子関係はしんどくなる一方です。

こうした場合、娘側ができるサポートの例として、ITリテラシーを活かして母親が友達を作れそうな場所を検索し、提案してあげることなどが挙げられます。ただし、見学や手続きはできる限り、親自身で行ってもらうようにします。

つまり、相手の要求をきっぱり突き放すのではなく、本人の努力では難しいところはサポートしつつ、決断・実行すべきことは自分の責任で行ってもらうようにすること。このようにして、親子間の「責任の境界線」を守っていきましょう。

◆実家暮らしでも「生活スキル」「人間関係のスキル」の向上を忘れずに
家庭は「学び合い」の場です。親との同居で直面する課題、感じる思いをふりかえりながら、お互いがどのように工夫しながら、心地よく生活できるかをトライしていきましょう。

その繰り返しで、生活スキルや人間関係のスキルは向上していきます。ぜひ、上記のポイントを参考にしながら、できることから工夫を試みてください。

文=大美賀 直子(公認心理師・産業カウンセラー)