「バビロン」の編集を担当する講談社タイガ編集長の河北壮平さん(左)とアニメ「バビロン」を企画したツインエンジンの山本幸治プロデューサー

 野崎まどさんの小説が原作のテレビアニメ「バビロン」。東京地検特捜部検事・正崎善(せいざき・ぜん)が製薬会社の不正事件を追う中で大きな陰謀に巻き込まれる姿を描く。人間の生死、正義や悪とは何か? という壮大なテーマに挑んだ。「読む劇薬」とも言われ、過激かつ衝撃的な描写も多いため、映像化は難しいのでは? との声もあった中、見事にアニメに仕上げた。「読む劇薬」は、どのように生まれたのか? アニメ化に踏み切った経緯は? 原作の編集を担当する講談社タイガ編集長の河北壮平さん、アニメを企画したツインエンジンの山本幸治プロデューサーに聞いた。

 ◇常人ではない発想で悪を描く

 野崎さんは「[映]アムリタ」「know」などの話題作を発表してきただけでなく、劇場版アニメ「HELLO WORLD」やテレビアニメ「正解するカド」の脚本を担当した人気小説家だ。

 --「バビロン」が生まれた経緯は?

 河北さん 「バビロン」は「know」を出版された頃に執筆を依頼しました。まどさんは、常人にはない発想で作品を書かれています。文芸界に衝撃を与えた才能で、デビュー当時から既に業界内で注目されていました。「アムリタ」「2」などの作品でも天才を描いてきたけど、ダークなものはそこまで書いていなかった。次に扱っていただくテーマをいろいろ考え、「まだ本当の悪を書いていない。悪を書きませんか?」と提案しました。

 --常人ではない発想で悪を描いてもらおうとしたんですね。

 河北さん そこに化学反応があると思ったんです。でも、その時の僕は、こんな作品になるとは全く想像していませんでしたけどね(笑い)。

 --キャッチコピーは「読む劇薬」です。過激な作品なので、テレビアニメとして放送できるのか? という不安も?

 河北さん 初めての打ち合わせで「正気ですか? 今なら引き返せます」と言ったら、山本さんが「覚悟があるからここにいる」とおっしゃったのが印象的でした。

 山本プロデューサー そうでしたっけ(笑い)。

 河北さん やっぱり無理だった、となっても仕方がないという気持ちもありました。でも、山本さんをはじめスタッフの方々は全くブレずに、信念を持ってアニメ化に挑んでくれました。

 山本プロデューサー もちろん考査の厳しさはあります。そこは単純で「フィクションである」というテロップを入れました。惨殺シーンはそんなに多くない。思想的な話なんですよ。そこを削ったわけではありません。内容が制限されたわけでもありません。

 河北さん 今の時代に生きること、死ぬこと、善悪とは何かを真剣に描いています。こういうことができるのは小説だけで、テレビアニメで放送するのは難しいだろうな、と思っていました。だからこそ、お話があった時、よくぞ! となったんです。まどさんと一緒に、アニメ化をすごく喜んでいます。

 ◇「バビロン」は続く… ラストは?

 --アニメ化の企画を進めた経緯は?

 山本プロデューサー 実は、鈴木清崇監督の作品を探していたのが、僕らのスタートだったんです。原作のアニメ化の権利をとって、スタジオやスタッフを後で決めることはよくありますが、今回は鈴木監督にハマる作品を探していた。

 --鈴木監督は「C」「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」などに参加していて、「PSYCHO-PASS サイコパス2」のシリーズディレクター、「Infini-T Force」の監督も務めています。クリエーターとしての魅力は?

 山本プロデューサー クレバーな人です。「サイコパス2」という高カロリーな作品を預けた時、江波(和樹)プロデューサーと鈴木監督が作品を支えた。REVOROOT(山本プロデューサーが代表を務めるツインエンジングループのアニメ制作会社で「バビロン」を制作している)を作り、スタジオの色を出している。鈴木監督に合う作品を探していたんです。

 河北さん 監督も天才だと思います。ここまでの絵や演出になると思っていませんでした。特に第2話の演出はしびれました。ただの取り調べシーンが、あそこまで魅力的になるとは。

 山本プロデューサー 鈴木監督は技術者なんですね。技術と言うと、絵がうまいと考えるかもしれませんが、演出の技術が高い。「バビロン」の原作はジェットコースター的なところがある。鈴木監督は、緊張感のある演出で、派手なアクションがなくてもそれを見せることができる。本来、原作の魅力と鈴木監督の技術は別のベクトルで、いいところを打ち消し合うかもしれません。でも、うまく補完関係になっている。手探りで始めたところもあったのですが。

 河北さん 絵作りが大変なシーンがたくさんありますからね。原作の第3巻「バビロン III -終-」にはひたすら老人たちが会議をしているだけのシーンもあります。アニメの絵コンテを見ると、そんな難しいシーンですら格好良く作っていただいている。映像になった時にどうなるのかが楽しみです。

 --原作は「バビロンIII-終-」まで発売されています。「終」となっていますが、物語は続くのでしょうか? これで終わったとは思えないラストですが……。

 河北さん もちろん、続きはあります。続くことは大切です。まどさんに何とか続編を書いてもらえるように頑張っています。

 山本プロデューサー お待ちしております。エンディングを聞いて、これは大変な作品だなと。絶望が深まっていく。

 --では、アニメはどう終わらせるのでしょうか?

 山本プロデューサー そこは苦労したところです。

 河北さん こういう終わり方があるんだ……と意地悪いほほ笑みで最終回の放送を待っています。

 山本プロデューサー まどさんの“角”を取らずにまとめます。プロットの派手さがあって、アニメとしてまとめるのが大変。まとめようとすると波が無くなるのですが。

 ◇想像を超える野崎まどの魅力

 --野崎さんの作品の魅力をどのように感じている?

 山本プロデューサー 実際にお会いして、この人は常人ではない!という印象です。常人とズレているわけではなく、理屈がしっかりしている。全てに理由があるんです。

  河北さん 作品はとがっていると言われますが、常識がないわけではない。

 --ギリギリのバランス感覚で書いている。少しズレると破綻しそうな繊細さがある?

 河北さん 全くその通りですね。SF設定などもしっかり取材や調べものをして、知識に裏打ちされたものもあるし、よくこのバランス感覚を保って書けますよね。少し間違えると……。

 --野崎さんは「HELLO WORLD」「正解するカド」の脚本も担当していますが、映像化に向いている作家なのでしょうか?

 山本プロデューサー 向いていないんじゃないですか?(苦笑)

 --そうなんですね!?

 山本プロデューサー 第二の伊藤計劃を探すというポジションと考えているような人も多いようです。よく言われていることですが、伊藤さんはカメラを置いて精密に描写する……と映画監督のような目線で書いている。まどさんはもっとぶっ飛んだコンセプトで、幅が広過ぎて収めるのが難しい。そこが、強みでもあるのですが。これだけぶっ飛んでいる作品を映像にできるのは、ハリウッド大作か日本の深夜アニメくらいかもしれません。

 河北さん いずれ実写もあるかもしれません。業界内の注目度はめちゃくちゃ高い。噴火寸前、ブレーク前夜で、ここから更に広がっていくはずです。

 山本プロデューサー 「バビロン」もアニメ故の気持ち悪さがあります。(関わった人間に影響を与える)曲世愛(まがせ・あい)を女優が演じたら、キレキレの演技になるかもしれないけど、届かないものもあるかもしれません。

 --「HELLO WORLD」で野崎さんを知った人が「バビロン」を見ると驚くかもしれません。

 山本プロデューサー 「バビロン」を見るとダメージを受けますからね。

 河北さん 白と黒の両面があるのもまどさんの魅力です。白いまどさんが「HELLO WORLD」だとしたら、「バビロン」は黒いまどさんなのかもしれません。

 山本プロデューサー アニメのオリジナル作品の時は役割を意識しているのかもしれません。仕掛け人的な発想もある方と想像しています。角を取っていくと、らしさがなくなるかもしれない。ただ、角が取れる心配の無い作家さんなのかな?

 河北さん 小説に限らない才能。どんどん新しいことをやっていく。器が決まらないんです。僕らが勝手に器を決めても、あふれていく。とんでもない作品を書く。現在執筆中なのは「タイタン」という作品なのですがこれもまた、とんでもない傑作です。想定通りの原稿が上がってこない。それは編集者としてすごく楽しい。

 --今後も想像を超える映像作品を手掛けていきそうです。

 河北さん 近い将来、野崎まど原作、脚本、監督の作品があってもおかしくないですね。

 山本プロデューサー そんな機会があれば手を上げたいです。

 ※注:野崎まどさんの「崎」は立つ崎(たつさき)