韓国出身のNight Tempoが和製シティ・ポップを広める意味「自分や他者を規定してしまうのはもったいない」

韓国出身のDJ兼プロデューサー、Night Tempo。80年代に日本で流行ったブランドに身を包み、シティ・ポップやアイドルソングなど「昭和歌謡」を熱心にディグり続ける彼は、竹内まりや「Plastic Love」をフューチャー・ファンク調にリエディットした音源をネット配信し、昨今の世界的なシティ・ポップ再評価に先鞭をつけた存在としても知られている。

カセットテープからサンプリングした独特の質感と、サイドチェインを駆使した過剰なエフェクト処理、80年代のシンセが持つきらびやかな音色を組み合わせ、あの豊かだった時代のグッドミュージックを現代に蘇らせる手法は、リアルタイム世代よりはむしろ現代の若者たちに「懐かしさ」と「新しさ」が入り混じった不思議なリスニング体験をもたらしているようだ。

「昭和歌謡」への多大なるリスペクトは遂に本家にまで届き、Winkや杏里のオフィシャル・リエディットも手がけたNight Tempo。「自分の活動拠点はインターネット」と話す彼に、80年代ジャパニーズ・カルチャーに目覚めたきっかけや、サウンドメイキングのプロセス、ディグリ続けることの大切さやその哲学・美学についてなど、たっぷりと話してもらった。





─Night Tempoさんの音楽に、最初に反応したのはアメリカ人だったそうですね。

Night Tempo:はい。カリフォルニアでは、今イベントをやると1500人は集まりますね。ニューヨークでも600人くらい。最近は中国でも盛り上がってきて、先日開催された上海でのイベントでは800人の動員がありました。

─すごい。もはや「韓国が拠点」とは言えないくらい、活動がワールドワイドになってきている。

Night Tempo:そうですね。僕の音源はNeoncity Recordsという、香港の友人と3年前に立ち上げたレーベルからリリースしているんですけど、彼と物理的に集まる場所が韓国や日本、アメリカというだけで、自分たちの活動の拠点はどこか?と尋ねられたら「インターネット」だと答えます。ネットを使っている人って大体オタクが多くて、そういう人たちってみんな、日本の文化が好きなんですよ。特にファッション系のオタク……フランスのハウス・アーティストとかに多いんです。一般人には今から知られていって、これからどんどん盛り上がっていくんじゃないかなと。

─韓国出身のNight Tempoさんによる、日本の昭和歌謡をフィーチャーした音楽が、日本や韓国よりも先に欧米で先に火がついた現象についてはどんなふうに感じていますか?

Night Tempo:ここ数年くらい、世界的に「レトロ」はキーワードになっているんですよね。どんどん浸透してきて、例えばNetflixで『ストレンジャー・シングス』が流行ったり、昔の映画がリヴァイヴァルされたりするのも、アナログ・レコードやカセットが再評価されているのも、全てつながっているような気がします。

さっき言ったファッションに関しても、例えば僕自身が好きなのは、PUMAやellesseのような80年代に流行っていたブランド。ellesseとか今は「オバさんブランド」ですけど(笑)、そこをあえて着ているんです。

─今、着ているのもellesseですね。

Night Tempo:はい。これ古着なんですけど、きっと現代のファッションデザイナーが見ても「かっこいい」って言うと思うんですよね。おそらく80年代にヨーロッパのデザイナーが手がけたものですけど、今見るとちょっと古く感じる90年代末から00年代頃のデザインとは一味違う。ただの服ではなくて、絵を集めるような感覚で買っています。あとは、80年代当時のファッション雑誌やレコードのジャケットなどを参考にしていますね。


Night Tempoが昭和歌謡と出会ったきっかけとは?

─そもそもNight Tempoさんは、どんなきっかけで日本のシティ・ポップや昭和歌謡と出会ったんですか?

Night Tempo:僕が小学校3年か4年の頃に、韓国でカセットウォークマンが流行っていて。僕は1986年生まれで、小学校に上がった頃は1995年くらいなんですが、韓国では当時まだまだカセットとCDが混在していたんですよね。普通にカセットウォークマンが普及していた。ただ、韓国で買うとカセットウォークマンもCDウォークマンもすごく高くて。どっちも欲しかったので、日本で買い付けの仕事をしていて父親に買ってきてもらったんです。

その時一緒に、歌謡曲が色々入った寄せ集めのCDも貰ったんです。その中に中山美穂さんの「CATCH ME」という曲が入っていて、当時は「へえ、こんないい曲があるんだ」みたいに聴いてて。後から日本語を覚えていって、曲は角松敏生という人が作っているんだということが分かり、インターネットが普及してきた20代半ばくらいからは、もっと深く掘っていくようになりました。そこから日本のシティポップや昭和歌謡……80年代の良かった時代の音楽を、今もディグる日々です(笑)。

─中山美穂の「CATCH ME」が日本でリリースされたのは1988年なので、Night Tempoさんにとってはもちろん後追いだったと思うんですけど、どんなところに惹かれたのでしょう。

Night Tempo:理由はよく分からないのだけど、とにかく自分のテイストに合ったんだと思います。韓国では、日本ではやったものが5〜6年遅れて入ってくるから、そこまで「古臭い」とも感じなかったし、言葉はわからなくても「リアルタイムの音楽」と思えたというか。シンセサイザーもたくさん入っていて、リズムマシンもガンガンに鳴っていて「かっこいい!」って。むしろ、ビートルズのような、バンドサウンドの方が「古くさい」と感じていました。

─なるほど。でもNight Tempoさんが10歳の頃ってちょうどブリットポップやデジタルロック全盛だったと思うのですが、その辺の音楽は聴いてなかった?

Night Tempo:うーん、当時の韓国ではオアシスとかよりブリトニー・スピアーズが流行ってましたね。あとは、今言ったビートルズやイーグルスのような60〜70年代のいわゆる「クラシック・ロック」がよく流れていました。

─逆に、韓国には当時シティ・ポップってなかった?

Night Tempo:ありました。でも、当時はまんまパクったような曲ばっかりだったし(笑)、日本に比べてサウンド・プロダクションもチープでカラオケみたいだったので、あまり夢中にはなれませんでしたね。今、タイやベトナムで流行ってるシティポップみたいな感じというか(笑)。ただ最近は、Light & Salt (빛과 소금)の「Fairy of shampoo (샴푸의 요정) (シャンプーの妖精)」や、キム・ヒョンチョルの「왜 그래」、Exhibition(전람회)の「취중진담(醉中眞談) 」といった、韓国で昔リリースされた音楽が「シティ・ポップ」の文脈で再評価され、クラブなどでかかる時もあります。

─昭和歌謡を掘るだけでなく、それらをネタにしたリミックス音源を作るようになった経緯は?

Night Tempo:僕はダフト・パンクもすごく好きで、その周辺のフレンチ・ハウスやフィルター・ハウスをよく聴いていたんです。彼らはイタリアン・ディスコなどをネタにトラックを作っていたけど、それを日本の昭和歌謡にしてみたらどうかなと思いついて。

もちろん、2000年代後半くらい……本格的なシティポップ・ブームがくる前から、山下達郎のファンキーな曲をネタにしていた人はいました。ただ、昭和歌謡を使っている人はほとんどいなかったんですよね。これは先にやったもの勝ちだなと(笑)。


現代と過去をつなぐサウンドメイキングの背景

─Night Tempoさんの音源を聴くと、サンプリングネタに使用しているカセットテープの質感や、コンプレッサー、サイドチェインなどの大胆なエフェクト処理、そしてYAMAHA DX100など80年代を代表するシンセの音色といったテクスチャが重なり合っているところに特徴があると思いました。

Night Tempo:そうですね。ジャスティスの質感が僕はすごく好きで、それをNight Tempoでも導入してみようと思って。昭和歌謡にコンプレッサーをガンガンかけて、サイドチェインを通して、声を加工したり、カットアップしたり。そしたら自分的にハマったんです。「ドロップ」や「ブレイク」のような、EDMのアーティストがよく使うワザとか敢えてやらないのが自分のルールですし、リミックスやリエディットを行う際、最近のシンセは一切使わないようにしています。おっしゃるように、エフェクト加工やエディットが新しいだけで、素材はすべて昔からあったものを使っていて。そこがみんなに楽しんでもらえているポイントなのかなと思いますね。

ただ、それで「食べていこう」なんて最初は思ってもいなくて。単なる趣味の延長で作っていただけなんですよ。僕自身、一昨年の冬までITプログラマーという本業もありましたし。



─デザインも含めてトータルコンセプトを考えるようになったのは、Neoncity Recordsの主宰との出会いも大きい?

Night Tempo:彼も日本の80年代カルチャーのファンだったから、「一緒にやるならちゃんとこだわったものにしよう」と最初に話しました。最初はカセットでのリリースだったのですが、インデックスにも相当こだわりました。おかげでリアクションも上々。ネットで僕ら。一番カセットテープを売っているんじゃないかなと思います。月、多い時で7000本くらい出ているので。結構、僕らって大変なことをやってしまったのかなって(笑)。

ちなみにアートワークは現在、Shiho So (蘇 詩帆)とtree13を主に起用しています。僕ら『セーラームーン』や『きまぐれオレンジロード』『超時空要塞マクロス』のタッチが好きなので、それを参考に「現代っぽさ」をブレンドしていますね。

─よく、日本に来てディグっていたそうですね。

Night Tempo:Neoncity Recordsの主宰と出会った頃は、2カ月に一度は有給取って一緒に日本を旅行しながら、レコードやカセットを掘っていました。その頃は昭和歌謡とか僕ら以外誰も興味を持ってなくて、レコードもすごく安かったんですよ。しかも外国人が、高架下やシャッター街のレコード屋へ行って昭和歌謡を買い物しているだけで、すごく不思議がったり喜んだりしてくれて。本当に楽しかった。いつも僕ら、スーツケース持参で一度に50枚くらい買っていくんです(笑)。それでも30000円もしなかったんですけどね。達郎さんの『For You』も、地方だったら1000円切っていたんじゃないかな。今年になっていきなり値上がりして。竹内まりやさんのファーストプレスとか8000円くらいになっていますよね。

─そういう、友人同士の「趣味の延長」みたいなノリが強みなのかなと聞いていて思いました。

Night Tempo:仰るように、もしビジネスパートナーだったら、「デザインにコストをかけ過ぎだ」とかそういうところで揉めてしまったかもしれない。とにかくコスト度外視して、「やるならとことんやろう」と僕らは決めたんです。自分が好きな文化に対し、リスペクトを持って向き合うにはそれが一番いいと思ったので。僕らが昭和歌謡から受けた恩恵を還元する意味でも、ちゃんと当時のものに引けを取らないものを作るつもりで今はいます。


神戸のレコードショップの店長から言われた「真理」

─好きなものを突き詰める、ディグる楽しさってどこにあると思いますか?

Night Tempo:……これは確か数年前、今はもう無くなってしまった神戸のレコードショップで、そこの店長だったおじさんが言ってたんですけど。「この世の中には二種類の人間しかいない。ディグル人と、ディグらない人」だと(笑)。つまりいつもディグっている人は、必ずとこかに到達する、何かをつかむことができると。それ以外に人……ディグっていない人たちも、それはそれで楽しい人生を送れるかもしれない。ただ、ディグっている人にしか辿り着けない楽しい人生を味わうことは、決して出来ないと。「だからディグッた方がいい」と言われて。

─とてもいい話です。

Night Tempo:だから僕は、今もディグり続けているんですよね。

─ちょっと前にNight Tempoさんは、「シティ・ポップは裕福な時代の幸せがそのまま伝えて来る。世界的に余裕がない今は、技術があってもその時の感情を再現する事は不可能に近い。」と呟いていました。僕は「昭和歌謡」を聴いて育った世代なのですが、Night Tempoさんが手がけたWink、杏里のオフィシャル・リエディットを聴いても、懐かしさとは違う感情が湧いてくるんですよ。昔親しんだ音楽に「新しい命」を吹き込んでもらったような、そんな不思議な感動を覚えるというか。

Night Tempo:そう言ってもらえるととても嬉しいです。別に僕は、オリジナルが作れないからサンプリングをしているわけではなくて(笑)。昨年『Moonrise』というオリジナル・アルバムを作ったのは、「サンプリングネタがなくても曲は作れますよ?」ということを証明したい気持ちもありました。でも、自分のルーツはやっぱり「昭和歌謡」にあるし、サンプリングから離れた音楽はNight Tempoとは言えないんじゃないかなと思うので、これからもサンプリングはやっていきたいですね。



─あと、これは是非聞いてみたかったことなのですが、今は歴史認識や政治的なスタンスをめぐって日韓関係がとても悪化しています。そのことは、Night Tempoさんの活動にも影響はありますか?

Night Tempo:僕はアーティスト、キュレーターとして文化に中立な立場を守りながら活動したいので、そこに歴史的な立場や政治的なスタンスを持ち込むのは良くないと思っています。「韓国を統治した日本が悪い」とか「日本との約束を守らない韓国が悪い」とか、それぞれ言い分はあると思うのですが、文化はそことは切り離して楽しんでほしい。僕自身「昭和歌謡」が好きなのは、80年代のジャパニーズ・カルチャーを愛しているからであって、そこに歴史認識は関係ないんです。

─最初にNight Tempoさんが「活動の拠点はインターネット」と仰っていたのがとても腑に落ちました。

Night Tempo:インターネットさえあればどこへでも一瞬で行ける今の時代に、「韓国人だから」「日本人だから」「アメリカ人だから」と自分や他者を規定してしまうのはもったいなくないですか? 今こそ「We Are The World」の精神を思い出すべきだと思うんですよ(「We Are The World」マイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダーら大物アーティストが結集し、1985年にリリースしたチャリティー・ソング)。だって、ディズニーの映画を観るときに、「アメリカが嫌いだから観ない」なんて誰も言わないし、そもそもアメリカが好きだからディズニーを観ているわけじゃないですよね? 嫌韓とか反日とか右とか左とか本当に関係ないです。

─デリケートな質問に答えてくださってありがとうございます。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。

Night Tempo:「昭和歌謡」の知られざる名曲を、もっともっと紹介していきたいですね。有名な曲以外にも、いい曲がたくさんあって。しかも「フォーク」や「ニューミュージック」と呼ばれる音楽は、DJイベントとかでもよくかかるんですけど、アイドル・ソングはやっぱり「ダサい」っていうイメージがあるみたいで、ほとんどかからないんですよね。他の音楽と比べて、みんなちょっと下に見ているというか……その状況も変えていきたいです。Winkさんや杏里さんのオフィシャル・リミックスをやらせてもらえたのも、そういう活動が認められたからだと思うし、これからもその道を極めていきたいですね。

Night Tempo(ナイト・テンポ)
昭和歌謡を再構築し、シティポップ・ブームの立役者となった韓国人DJ/プロデューサー。フジロックでのパフォーマンスが反響を呼び、11月27日から全国6都市を回る来日ツアーが決定。


『Night Tempo』
Night Tempo
 FUTURE 1980
発売中



Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ・ツアー
2019年11月27日(水)福岡・club evoL
2019年11月28日(木)愛知・Live & Lounge Vio
2019年11月29日(金)京都・CLUB METRO
2019年11月30日(土)大阪・CIRCUS Osaka
2019年12月2日(月)北海道・札幌SOUND LAB MOLE
2019年12月4日(水)東京・Shibuya WOMB
2019年12月7日(土)東京・CIRCUS Tokyo
https://smash-jpn.com/live/?id=3253