米NetAppは10月28~30日(現地時間)の3日間、米ネバダ州ラスベガスで年次イベント「NetApp INSIGHT 2019」を開催している。今回のスケジュールはやや変則的と言うことだが、イベントの中核コンテンツとなる基調講演は初日の28日ではなく、2日目の29日の午前に開催された。

スピーカーとして登壇したCEOのGeoge Kurian(ジョージ・クリアン)氏は、この5年間推進してきた同社の“Data Fabric”の実現に向けた取り組みが実を結んだことを高らかに宣言すると同時に、同社とともにさまざまな「デジタル変革」に取り組んだユーザー企業からのゲストスピーカーを壇上に招き、それぞれの取り組みについての紹介を行なった。

クリアン氏はまず、従来のITシステムが現在のデジタル化に向かうユーザーの期待に応えられなくなっている現状を指摘し、必要なスピード/俊敏性を実現するためにはクラウドの活用が不可欠となりつつあるとした上で、同社がそのための最適解を提示できる立場にあるとした。

  • 米NetApp CEOのジョージ・クリアン氏

    米NetApp CEOのGeoge Kurian(ジョージ・クリアン)氏

その上で同氏は「5年前に私は“Data Fabricビジョン”を発表し、ハイブリッドクラウドの世界が到来するとした上で皆さまに『Data Fabricの構築を支援し、シンプル化し、統合し、あなた方のハイブリッドクラウド環境を機能的なものとすることであなた方のITを変革し、さらに重要な“あなた方のビジネス”を変革する』と約束した。そして今、その約束は果たされた」と宣言した。

クラウド型の消費モデル「NetApp Keystone」

その上で、大きなステップとして発表されたのが「NetApp Keystone」(以下Keystone)だ。Keystoneは同社製品を購入する際の新しいクラウド型の消費モデルで、ごく簡単なステップによるWebからの購入申し込みで製品を購入でき、使用量に応じた支払いを行なうことができる。

同社のクラウドサービスとしてオンライストレージの容量を購入するようなモデルから、自社データセンターなど、プライベートクラウド環境やオンプレミス環境に製品を導入する際にも対応する。

この場合、クラウドタイプの従量課金モデルでストレージの運用管理もNetAppに任せ、設置場所はユーザーが指定したデータセンターに、ということも可能だという。クリアン氏は詳細説明までは行なわなかったが「リースとは異なり、NetAppとユーザーがリスクをシェアする」とその特徴を端的に紹介した。

  • NetApp Keysotne(ネットアップ キーストーン)の概要。買いやすく、消費しやすく、操作しやすい、オンプレミス、クラウド、ユーティリティモデル、サブスクリプションでも資産として購入することも、という具合で、いろいろな形を選択できる柔軟なプログラム。日本でも同時発表という形にはなっているが、具体的な提供方法などの詳細はまだ明らかになっていない

    NetApp Keysotne(ネットアップ キーストーン)の概要。買いやすく、消費しやすく、操作しやすい、オンプレミス、クラウド、ユーティリティモデル、サブスクリプションでも資産として購入することも、という具合で、いろいろな形を選択できる柔軟なプログラム。日本でも同時発表という形にはなっているが、具体的な提供方法などの詳細はまだ明らかになっていない

続いて同氏は、NetAppとともにITトランスフォーメーションを実現したユーザーの事例として「ITをモダナイズ/シンプル化し、ビジネスクリティカルアプリケーションの高速化を実現」「プライベートクラウドを構築してスピードと俊敏性を確保」「任意のクラウドを活用しつつデータ・ドリブン・イノベーションを加速」という3つの例を紹介した。

  • 基調講演の中で紹介されたユーザー事例のそれぞれのテーマ。「ITのモダナイズ/シンプル化」はシラキュース大学のエリック・セドール氏、「プライベートクラウドの構築」は多数の病院を運営する医療法人 センチュラ・ヘルスのスコット・レイモンド氏、「データドリブン・イノベーション」については独SAP SEのChief Technology Officer, Enterprise Cloud Servicesのレリット・パティル氏がそれぞれ講演を行なった。

    基調講演の中で紹介されたユーザー事例のそれぞれのテーマ。「ITのモダナイズ/シンプル化」はシラキュース大学のエリック・セドール氏、「プライベートクラウドの構築」は多数の病院を運営する医療法人 センチュラ・ヘルスのスコット・レイモンド氏、「データドリブン・イノベーション」については独SAP SEのChief Technology Officer, Enterprise Cloud Servicesのレリット・パティル氏がそれぞれ講演を行なった

最初のモダナイズ/シンプル化の例として紹介されたSyracuse University(シラキューソ大学)のAssociate Chief Information OfficerのEric Sedore氏は、学術研究分野でITが果たす役割について語り、2017年のノーベル物理学賞を受賞した重力波検出を行なったLIGO/VIRGO Collaborationに同大学の研究チームが参加していたことを紹介した。

結果的にITがノーベル賞の対象となった研究をサポートした形であり、同氏はこの成果について「ITの革新は、世界を変革する上で大きな役割を果たすことができる(IT Innovation can play a key role in changing the world.)」と締めくくり、会場を沸かせた。

NetAppとのパートナシップが20年となるDremWorks

基調講演の最後のゲストとして登壇したのは「シュレック」などのアニメーション映画の制作で有名なDreamWorks AnimationのSenior Vice President, Technology Communications and Strategic AllianceのKate Swanborg(ケイト・スワンバーグ)氏だ。同氏はまず、DreamWorksが創業25周年を迎えたことを紹介すると同時に、NetAppとのパートナーシップが20年に及ぶものであることを明かした。

  • DreamWorks Animation Senior Vice President, Technology Communications and Strategic AllianceのKate Swanborg氏

    DreamWorks Animation Senior Vice President, Technology Communications and Strategic AllianceのKate Swanborg(ケイト・スワンバーグ)氏

同氏はアニメーション制作においてデジタル技術が極めて重要であることと、NetAppの製品/テクノロジーを活用してインフラを構築していることを紹介した。同氏が示したアニメーション制作の規模を表す数字は以下だ。

  • 最新作でのキャラクターは5000のアニメーション・コントロール・ポイントを持つ。これは、5000本の糸で制御される“デジタル・マリオネット”のようなもの

  • キャラクターが動き回る風景、環境も膨大なデータで構成される。例えば1つのシークエンスに30億の植物、葉や茎、花が書き込まれており、3Dモデルやテクスチャデータなどが関連している

  • 1本の映画が90分ほどの長さで、1秒間は24フレームで構成されるので、総計で約13万フレームになり、フレームを作成するためには12のアーティストチームが作業を行ない、素材として用意されるデジタルファイルは約5億個に達する

  • DreamWorksでは毎年2本の映画を公開する一方、1本の映画の制作に約4年かかるため、ある時点で見ると同時に10本の映画が並行して制作されている形になる

  • 10本の映画がそれぞれ5億のデジタルファイルを使用した場合、全体としてのデータ量はどれほどの規模になるか

こんな具合だ。また、同氏は「制作しているアニメーションの実体はデジタルデータであり、観客が見ているものも、映画館のデジタルプロジェクターで上映されるデジタルデータなのだ」と語り、同社がまさにデジタルビジネスを手がけており、そのためにデジタルデータのマネジメントにフォーカスするNetAppとの協力関係が重要であり、同社のビジョンを信じて協業を続けていくのだとした。

ユーザーにデジタル変革の成果を提供できる準備は整った

今回の基調講演では、新製品やテクノロジーの詳細にはあまり触れず、主にビジネスの側面から「デジタル技術」「データ」「ハイブリッドマルチクラウド」の重要性が強調される形になった。

同社が5年前から提唱する“Data Fabric”というコンセプトは、同社をストレージ・ベンダーだと考えてしまうとその意味が逆にわかりにくくなる面もあるようだ。現在の同社はデータマネジメントを軸に、まずは自社のビジネスをクラウド対応にし、デジタル時代に対応した新しい形に変革したのだと考えるべきだろう。

その意味で今回の基調講演は、NetApp自身のデジタル変革が一段落し、その成果をユーザー企業に提供できる準備が整ったことを宣言したのだと考えるべきだと思われる。