10月の終わりとともに、2019年を締めくくる秋ドラマが出そろい、メディア記事や個人SNSでは賛否両論が飛び交っている。

いわゆる1話の世帯視聴率では、『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)が20.3%を記録したほか、『相棒 season18』(テレ朝系)が16.7%、『シャーロック』(フジテレビ系)が12.8%、『グランメゾン東京』(TBS系)が12.4%、『まだ結婚できない男』(カンテレ、フジ系)が11.5%、『4分間のマリーゴールド』(TBS系)が10.3%と、2桁は6作と過半数以下に留まった(すべてビデオリサーチ調べ・関東地区)。

ただ、1桁視聴率の『俺の話は長い』(日本テレビ系)8.4%、『同期のサクラ』(日テレ系)8.1%、『G線上のあなたと私』(TBS系)7.8%あたりは、若年層の試聴比率が高く、ネット上の動きも活発であるなど、広告収入の観点で見れば、それなりの結果が出ている。

秋ドラマで本当に質が高くて、今後期待できるのはどの作品なのか? 今期もドラマ解説者の木村隆志が俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2019年秋ドラマ18作の傾向とおすすめ作品を挙げていく。

2019年秋ドラマの主な傾向は、[1]「あのドラマに再会」の秋 [2]わが道をゆく日テレの勝算は? の2つ。

  • 中川大志、波瑠、松下由樹

    『G線上のあなたと私』(左から中川大志、波瑠、松下由樹)

傾向[1] 「あのドラマに再会」の秋

前期の夏ドラマは、プライム帯(19~23時)で放送される連ドラがすべて「原作アリ」という異例の状況だったが、今秋は15作中10作がオリジナル。意欲的なのは間違いないが、「フレッシュな新作か」と言えばそうでもない。過去作の続編や、制作チームが再集結した作品が多いのだ。視聴者としては、物語の続きや似た世界観の作品を楽しむことができる。

続編は、もはや定番の『相棒』『ドクターX』『孤独のグルメ』(テレビ東京系)のほか、『まだ結婚できない男』が13年ぶり、『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)が12年ぶりに復活した。

また、月9ではコナン・ドイルの名作『シャーロック・ホームズ』を現代日本版として復活。同作では『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』に続いて、「太田大プロデューサー×ディーン・フジオカのコンビが海外の古典文学に挑む」という共通点もあり、その世界観は近い。

一方、NHKでは映画『男はつらいよ』の前日譚となる『少年寅次郎』を放送。原作は山田洋次監督が車寅次郎の少年期をつづった小説であり、おなじみのキャラクターも総出演するなど、“再会”という印象がある。

その他では、『過保護のカホコ』(日テレ系)に続いて、主演・高畑充希×脚本・遊川和彦×プロデュース・大平太が、同じ水曜22時に再集結した『同期のサクラ』。

『あなたのことはそれほど』(TBS系)に続いて、原作・いくえみ綾×主演・波瑠×演出・金子文紀が、同じ火曜22時に再集結した『G線上のあなたと私』。

『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日テレ系)に続いて脚本・武藤将吾×プロデュース×福井雄太×一部俳優(役名そのまま)が、同じ日曜22時30分に再集結した『ニッポンノアール ―刑事Yの反乱―』。

11月スタートの『おっさんずラブ―in the sky―』(テレビ朝日系)も含め、オリジナルではあるが、各局ともに「手堅い選択」という印象が強い。そのため日本中で話題になるようなヒット作が生まれる可能性は低いが、一定以上のクオリティは期待できそうだ。

  • 原田美枝子、小池栄子、安田顕、清原果耶

    『俺の話は長い』(左から原田美枝子、小池栄子、安田顕、清原果耶)

傾向[2] わが道をゆく日テレの勝算は?

前述したように「手堅い選択」という印象が強い秋ドラマの中で、明らかに異質のムードを醸し出しているのが日テレの3作。

『同期のサクラ』は、「1話1年のペースで10年間を描く」という構成。『ニッポンノワール』は、「『3年A組』の半年後」という設定で、同じ役名のキャラクターも登場。『俺の話は長い』は、「30分×2話」という異例の2本立て。いずれも他局にはない思い切った仕掛けであり、全3作で行われていることから、日テレが独自の道を歩んでいることがわかる。

これらの思い切った仕掛けが実現した背景は主に2つ。

1つ目は、日テレが若年層をターゲットにしたドラマ作りを進めているから。一般的に報じられる視聴率は、中高年の影響が高い世帯視聴率と呼ばれるものであり、昨年あたりから広告収入に直結しづらくなっている。その点、日テレは目先の世帯視聴率を追うのではなく、スポンサーに好まれる若年層に向けたドラマ作りを進めていて、だからこそ今秋も「思わずつぶやきたくなる設定」「人気作とのリンク」「短くて見やすい構成」という仕掛けを採用した。

2つ目は、3作すべて原作のないオリジナルだから。原作のドラマ化は、原作者や原作のファンへの配慮が求められるため、思い切った仕掛けがしづらい。さらに結末がわかっている物語は、最後まで見てもらいにくい上に、ネット上でつぶやかれにくいこともあり、「回を追うごとに盛り上がる」という連ドラの長所を生かすためにもオリジナルにこだわっている。

  • 塚本高史、吉田羊、阿部寛、稲森いずみ、深川麻衣

    『まだ結婚できない男』(左から塚本高史、吉田羊、阿部寛、稲森いずみ、深川麻衣)

  • 岩田剛典、ディーン・フジオカ、佐々木蔵之介

    『シャーロック』(左から岩田剛典、ディーン・フジオカ、佐々木蔵之介)


これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『G線上のあなたと私』。世代や性別を超えた恋と友情、悩みや悲しみを乗り越える人生の楽しさなどが、あせらずあおらずバランスよく描かれている。原作や俳優の良さもあるが、それをまとめるプロデュース・磯山晶×脚本・安達奈緒子×演出・金子文紀の上手さが際立つ。

「クオリティ」と「遊び心」という観点では、『俺の話は長い』と『まだ結婚できない男』が双璧。どちらも大小さまざまな笑いを織り交ぜながら、チクッと社会風刺を入れるなど、気軽に見られるのに深さを感じさせてくれる。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。

【おすすめ5作】
No.1 G線上のあなたと私(TBS系 火曜22時)
No.2 俺の話は長い(日テレ系 土曜22時)
No.3 まだ結婚できない男(カンテレ、フジ系 火曜21時)
No.4 少年寅次郎(NHK 土曜21時)
No.5 シャーロック(フジ系 月曜21時)

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。