最後のセッションはIIJの木野氏から「スマートフォンはなぜつながらない?」と題して、LTEのアクセス処理についての説明が行われた。

  • IIJmio meetingではeSIMの技術解説など、ディープなパートを担当されることの多い木野氏

人が非常に多い場所などで、アンテナは5本立っているのに接続できない、接続が切れてしまう、といった経験はないだろうか。こうした現象はイベント会場などはもちろん、都内では日常的に発生する場所もある。これを見て「スマートフォンはつながらない」や「(キャリア名)はつながりにくい」「すぐ切れる」といった感想を持つ人もいる。なぜこのような状況になるのか。木野氏によれば、これはLTEの接続手順が影響しているという。

LTEでは基地局にアクセスしてデータの通信が開始するまでの間に、一瞬(10ミリ秒程度)の間に、端末と基地局の間で通信の同期をとるためにメッセージを4〜5回やりとりする「ランダムアクセス手順」(RAP)と呼ぶ手続きが行われる。RAPはゼロから通信を始める場合(Idle to Active)、通信は開始しているが送信タイミングを調整するための情報が失われた「上り同期はずれ(UL out of sync)、そして基地局を移動するハンドオーバー、そして何らかの原因で通信が途絶して再接続、の4パターンで必要となる。そして基地局が混んでいるなどすると、RAPを繰り返すことになる。

  • 図はIdle to Activeのケースだが、ランダムアクセス手順では5つのメッセージがやりとりされるのは変わらない

RAPはキャリアによって試行回数が異なるが、一定回数を超えると最初からやり直しになる。ここで、アクセスするのが一人であれば再接続も一瞬だが、たとえば渋谷のセンター街前交差点なら、数千人の人が居合わせている。一度再接続組に回されると、数千人との順番待ちバトルに再度加わらなくてはならない。

さらに、基地局を移動する際の「ハンドオーバー」の場合、たとえば満員電車が駅に入っていくところを考えてみよう。満員電車では1,500〜3,000人近くが乗っているが、それがさらに数百人が待ち受けているホームに近づいていくと、すでに大量の通信が行われている基地局に、さらに数百〜千以上ものアクセス要求を投げつけられることになる。

  • 満員電車がホームに入っていく状況を木野氏は「地獄のハンドオーバー」と表現したが、言い得て妙、である

そしてこの手続きについては、あくまでキャリア側の設備で発生している問題であり、MVNOには改善しようがないエリアだ。ひたすら、キャリア側の設備強化を祈るしかない。そしてキャリアでも発生する問題なので、MVNOの業者を変えたところでどうにもならない。

  • ネットワークを水道管に例えた場合、今回の問題は取水段階でトラブルが起きているような状況で、流れている水を分岐するだけのMVNOにはどうすることもできない

ちなみに5Gになった場合、4Gと5G間の切り替えなども発生するため、基本的には現在よりも状況が改善することはないという。5Gでは基地局のアンテナ数を増やして同時アクセス数も増やせるため、接続手続きに入れるユーザー数自体は改善があるかもしれないが、その先が複雑化するのではトントン、ということなのだろう。

この問題にユーザーが何かできる余地は残念ながらないようだが、スマホ自体に問題があるのではなく、ユーザーの急造にインフラや規格が追いついていない、というのが現状のようだ。ただ、事情が理解できれば、つながらない時に「どうしてつながらないんだ!」と腹を立てるよりも、「あー、今輻輳してるんだなあ。大変だなあ」と手続きの複雑さに思いを馳せることで、多少はストレス解消になる……かもしれない。

次回は1月開催予定

今回は端末メーカーも参加していつもと若干テイストが違ったものの、いつも通り濃い内容でもりだくさんの4時間となった。次回#26は翌2020年の1月7日(大阪)、1月17日(東京)の開催予定。5Gの導入やeSIMの本格スタートなど、いよいよ通信に関わるインフラ部分の大きなアップデートが行われる年だけに、次回も興味深い話が聞けるだろう。IIJmioユーザー以外も参加可能なので、余裕のある方はぜひ現地での参加をおすすめしたい。

また、11月21日(木)には、インターネット関連技術のセミナーである「IIJ Tech Day 2019」も開催される(参加無料、事前登録制、先着300名)。こちらはモバイルとは関係なく、セキュリティやサーバインフラ、仮想通貨といった内容となるが、最先端の情報に触れるいい機会だ。業務等でネットワークと関わっている人には、こちらもあわせておすすめしたい。