転職や結婚で囁かれる「35歳限界説」。しかし、ミドルエイジだからこそ発揮できる知能の使い道を知っている人は、いたずらに年齢を怖れません。

◆「35歳限界説」に不安になっていませんか?
31、32歳ごろまではバリバリ働き遊び、自分の限界など感じないで突っ走ってきたのに、33歳の声を聞く途端に自分がもう若くない気がして焦る……こんな気持ちに心当たりのある人は多いと思います。

「もう若くない」と感じると、容姿や体力だけでなく、知性や魅力まで衰えていくような気がしてしまうものです。巷には「35歳限界説」という伝説があり、「35歳を過ぎると転職が厳しくなるよ」「35歳を過ぎると結婚話もなくなるんだって」という噂がまことしやかに囁かれています。こうした話を聞くと、ますます焦りに拍車がかかってしまうでしょう。

しかし、人間の可能性は、年齢に比例して下降するほど単純なものではありません。ことに知性に関しては、ミドルエイジだからこそ生かせるものがあります。それが「結晶性知能」です。

◆「流動性」と「結晶性」の2つの知能
1960年代、アメリカの心理学者ホーンとキャッテルは、人間には2種類の知能、すなわち「流動性知能」と「結晶性知能」があると説きました。流動性知能とは、新しいことを覚えたり、問題を推理したり解決したりする知能であり、生まれつきの能力に強く関係します。

たとえば、若い人ほど新しい技術やテクニックをすぐに覚え、あっという間に上達したりします。私も、小学生の息子にデジタル機器のリモコンやコントローラーを渡すと、見る見るうちに目新しい機能を次々に掘り出していくので、舌を巻いています。

この流動性知識は、20歳くらいまではぐんぐん伸びていきますが、その後は年齢とともに下降していくとされています。

一方、結晶性知能は、過去に蓄積した知識や判断力や技能を使って、日常生活に応用していく能力です。たとえば、新しい場面や困難な場面に直面したときに、過去の経験を生かして対処したり、蓄えてきた知恵を使って切り抜けたりするときに使えます。

流動性知能が20歳ごろから下降していくのに対し、この能力はその後も60歳くらいまで上昇し続けていきます。

◆若手が活躍する業界に多い問題とは?
このように、人間の知能には2つの力があり、たとえ年齢とともに新しいことを覚え、問題を解くスピードが落ちていると感じても、がっかりする必要はないのです。流動性知能では若者に負けても、結晶性知能を使う場面で若者には真似できないパワーを発揮できるからです。

たとえば、最先端の情報や技術を扱うITやコンテンツ、デザイン制作などの業界では、新しいことを覚えてすぐに実践する流動性知能を生かす仕事が多いため、20代、30代の若手が中心となって活躍しています(そのため、これらの業界では「35歳限界説」が頻繁に囁かれています)。

ところが、若手は新しい技術を理解、体得して新しい物やアイデアを生み出す力には長けていても、過去の経験を生かしてトラブルを回避、対処したり、人間関係をまとめて調整する状況では、うまく対処できずに問題がこじれてしまうことがよくあります。

そのため、若手中心の会社ではトラブル対処に手を焼き、意外にも人間関係がギスギスし、ストレスフルな環境がよく見られます。

◆結晶性知能はたくさんの場で求められる能力
こうした若者の多い業界では、ミドルエイジが結晶性知能を駆使してマネジメントすることで円滑に回っていく場面がよく見られます。

過去の経験や知恵を生かし、物事を俯瞰的に見ながら合理的な対処を判断したり、人間関係のように複雑で難しい問題に冷静に対処する。こうした仕事は、結晶性知能が蓄えられてこそ可能になるものだからです。

このように、ミドルエイジは培ってきた経験や知恵を生かし、この年齢だからこそできる行動がたくさんある年齢です。新しい物事との出会いを恐れずに求めていけば、結晶性知識を生かせる場面は確実に広がっていきます。

とはいえ、流動性知能を諦めていいというわけではありません。新しい知識との出会いは今後も常に訪れていくのですから、新しい情報に触れ、繰り返し学習していくことで、流動性知識も伸ばしていくことができます。

◆「停滞性」に陥る前に考えるべきこと
アメリカの心理学者エリクソンは、ミドルエイジ(主に40代、50代)の発達課題は「生殖性」であると説きました。つまり、ミドルエイジは何かを「育てる」ことに関心を持つ年代だということです。

生殖性は子育てのみを意味するのではありません。築いてきた知恵や経験を生かして部下を育てたり、新しい事業を興したり、自分が生み出した作品や仕事を高めていく。このように広く「育てること」を意味するのです。

この生殖性に目覚められないミドルエイジは、「停滞性」に陥る危機をはらんでいます。停滞性とは、自分のことにしか興味を持てず自己に没頭し、人格が停滞していくことです。「35歳限界説」に振り回されて年齢とともに低下していく能力を振り返り、自分自身の殻に閉じこもってしまうのは、停滞性の危機に向かう一例でしょう。

ミドルエイジを生きる意味を受け止め、この年代だからこそできる自分自身の生かし方、自分自身の魅力に気づけば、停滞性から脱していけます。

そのためにも、ミドルエイジは今を生きる自分に自信を持ち、積極的に外の世界と関わっていきましょう。そうすればきっと、これからをどう生きるべきかという自分なりの「人生の設計図」が少しずつ見えてくるのではないかと思います。

文=大美賀 直子(公認心理師・産業カウンセラー)