2019年のノーベル化学賞受賞が決まった旭化成の吉野彰名誉フェローが15日、都内で行われた科学イベントで「リチウムイオン電池の開発経緯とこれから」と題し講演した。ノーベル賞受賞決定後初めての講演で、産業・学術界から次世代を担う学生、一般市民らおよそ700人の来場者を前に、吉野氏は自身の研究が日本人初のノーベル化学賞受賞者の故福井謙一氏の研究からの流れを汲み、将来は環境問題の解決の研究につながっていって欲しいと展望を語った。

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    日本化学会のイベント「CSJ化学フェスタ2019」で、ノーベル化学賞受賞決定後初の講演をする吉野彰氏

この講演は15日午前、東京都江戸川区内で日本化学会(河合眞紀会長)が主催したイベント「CSJ化学フェスタ2019」の開会に際して行われた。イベントではその年のノーベル賞について関連分野の研究者が解説するのが恒例となっているが、今年は受賞者本人が自ら解説する講演となった。

リチウムイオン電池は充放電可能な電池で、ノートパソコンやスマートフォン、電気自動車などで幅広く利用され、現在のIT社会の礎となっただけでなく未来の環境問題に対する貢献も期待されている。吉野氏はリチウムイオン電池の実用化に貢献し、リチウムイオンが出入りする仕組みを用いた電池を提案したスタンリー・ウィッティンガム氏、リチウムイオン電池の正極材料を発見したジョン・グッドイナフ氏と共に2019年のノーベル化学賞受賞が決まっていた。

吉野氏はリチウムイオン電池の研究開発の経緯を話す中で、2人の日本人ノーベル化学賞受賞者との関連について触れた。自身を、1981年に日本人で初めてノーベル化学賞を受賞した福井氏の孫弟子にあたると紹介。福井氏の研究が、2000年に同じくノーベル化学賞を受賞した白川英樹氏や自身の研究に大きな影響を与えていると述べた。

福井氏がノーベル化学賞受賞理由となったのは「フロンティア電子理論」。化学反応についての量子化学の理論で、実験ではなく、計算によって理論的に新しい化合物の性質などについて予測することを可能にした。後にノーベル化学賞を受賞する白川氏が発見した導電性高分子「ポリアセチレン」についても、福井氏の理論によって予測されていた。吉野氏の電池開発はポリアセチレンの研究からはじまっており、3人の研究は深いつながりがある。

吉野氏は「研究の歴史というのがあります。まず福井先生の非常にベーシックな業績があって、それに基づくかなり実用的な材料が白川先生によって発見されました。さらにそれを起点としていろいろな研究開発がされた中でリチウムイオン電池ができて、世の中に広まりました」と語った。

また、3人の受賞が19年置きであることについて「ある法則があるんですね。これが分かっていたら、この10年間やきもきする必要もなかったのですが」と話すと、会場は笑いに包まれた。

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    リチウムイオン電池の仕組みについて解説する吉野氏(左)。右は化学フェスタ実行委員長を務める東京大学大学院工学系研究科教授の加藤隆史氏

吉野氏はこのほか、IT革命の次にやって来る「ET革命」への期待についても触れた。ETの「E」はエネルギーや環境(Environment)、「T」はテクノロジーを指すという。吉野氏は、現在人類の課題となっている環境問題に対して、電池のほかAI(人工知能)やIoT技術などが中心となって大きな変革をもたらすだろうとし、「今後は、環境問題解決に対して切り札となるような技術が出てくるでしょう。(私に続く)19年後には、環境問題への最大の貢献ということでノーベル賞を受賞する人が出てくるかと思います。できれば、日本からそういう人が生まれてほしいです」と展望を明快に語り、約1時間にわたる講演を締めくくった。

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