アナログやミクスドシグナルデバイスに特化したファウンドリであるTowerJazzが、都内でプライベートカンファレンス「Tower Jazz Technical Global Symposium(TGS)2019 Japan」を開催した。

海外で行っている同社主催の顧客向けイベントの日本版にあたる。同社は、イスラエルに2工場(6インチおよび8インチウェハ)、米国に2工場(カリフォルニア州ニューポートビーチおよびテキサス州サンアントニオ、ともに8インチ)を所有しているほか、日本では、パナソニックとの合弁で新井(新潟県、8インチ)、砺波(富山県、8インチ)、魚津(富山県、12インチ)の3工場(旧パナソニックセミコンダクター社の北陸3工場)を運営し、1μm(イスラエル工場)から45nm(魚津工場)に至る多様なプロセスを用いてアナログ、ミクスドシグナル、 パワーマネージメント、RF、CMOSイメージセンサ、センサ、MEMSなどの受託生産を行っている。

  • TGS2019 Japanの

    図1 TGS2019 Japanの会場風景 (提供:TowerJazz)

デジタル時代になぜアナログICが成長を続けるのか

シンポジウムではセミコンポータル編集長の津田健二氏が「デジタルフォーメーションを実現するのはアナログ半導体」と題した招待講演を行った。同氏は長年、「『デジタル化』という言葉に違和感を覚えていたが、IoTとデジタルトランスフォーメーションの登場で、ようやくその意味が解けた」とし、その違和感とは、「デジタル化の時代にアナログデバイスが成長を続けていることだ」と述べた。デジタルと言われるこの時代になぜ、アナログICは欠かせぬデバイスとして売れ続けるのだろうか。

この疑問に対して、津田氏は言葉の使い方の違いに気がついたという。経済産業省(経産省)のWebサイトに掲載されているデジタルトランスフォーメーションの定義によると、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とある。これはもっと平易にいうと、「半導体とエレクトロニクス技術を用いて社会を変革し競争力を持つこと」になる。

「すなわち、デジタル化やデジタルトランスフォーメーションに必要なテクノロジーが半導体・エレクトロニクス技術であり、半導体・エレクトロニクス技術をデジタル化と言い換えているだけにすぎないのである」と指摘。「いわゆるデジタル化やデジタルトランスフォーメーションとは、デジタルICやアナログICなどの多様な半導体チップを駆使して、社会の問題を解決することである」と津田氏は解釈していると説明した。

デジタルトランスフォーメーションの中核となるIoTシステムは末端にIoTセンサを散りばめており、そのデータをクラウドに送り、クラウド上で分析し、ユーザーへ役立つ情報として届けるという仕組みである。ハードウェアとして、データを収集して送るIoTセンサ、クラウドに上げるためのネットワークに飛ばすトランシーバ、クラウドを実現するデータセンタの巨大なコンピュータシステム、分析した情報をユーザーに届けるためのトランシーバなど多様な半導体チップが使われている。

IoTセンサ端末は、アナログ半導体のかたまりである。センサ、そのインタフェース、センサハブ、アンプ、デジタルモデム、送受信回路、パワーマネージメントICはすべてアナログで、デジタル部分はMCU(マイコン)やSoCだけ、と言っても差し支えない(図2)。

  • IoTシステム

    図2 IoTセンサ端末の基本回路ブロック図。アナログ半導体が圧倒的に多く使われている (提供:津田健二氏)

IoTセンサからのデータを無線通信で基地局へ送信し、さらにクラウドへ送る。コンピュータやストレージのかたまりともいえるクラウドではCPUやメモリ、ストレージのデジタル半導体だけではなく、やはりアナログ半導体が活躍している。特に電源となるアナログのパワーマネージメントICがなくてはコンピュータもIoT端末も動かない。津田氏は「デジタルICが活躍するように見えるIoTやデジタルトランスフォーメーションにとって、アナログICは欠かせないデバイスである」とアナログIC の有用性を強調して話を結んだ。

アナログパワーICの新たな潮流は何か

パナソニックタワージャズセミコンダクタ―社ミックスドシグナル&パワーマネジメント技術統括参与の武市彰氏「車載・産業機器用に最適な高耐圧BCD (バイポーラ・CMOS・DMOS)プロセス」と題して講演し、自社のパワーデバイスとプロセスを紹介した。

まず同氏は、「アナログ・パワーデバイスは、自動車や産業に必要不可欠だが、MPUやシステムLSIなどのデジタルデバイスに比べれば地味に扱われていて悔しい思いをしている」と感想を述べた。この地味な世界にも最近、以下の3つの大きな変化が起きているという。

  1. パワーデバイスの低電圧化:パワーデバイスは高電圧駆動を連想させる。以前はそうだったが、最近は低電圧化が進んでいる。例えば、DC/DCの半分は5V駆動で、9割が24V以下で駆動するようになってきている。
  2. ON抵抗の低下:24V駆動に対しては10mΩ・mm2以下、5V駆動では1mΩ・mm2以下と低ON抵抗化が進んでいる。
  3. デバイス構造の変化:パワーデバイスと言えば、エピタキシーを用いた高濃度埋め込み層やSOI構造が主流だったが、システムの低電圧化に対応してバルクウェハを使用する方向になってきている。このため、CMOSプロセスとの親和性が良くなって、パワーデバイスになじみのなかったICデザインハウスやファウンドリが参入しやすくなってきている。TowerJazzにとってライバルが増えることは脅威となっている。

武市氏は,「TowerJazzはいままで、汎用BCDプラットフォームですべての顧客に対応しようとしてきたが、今後は各電圧帯に向けたプロセスへ分化させる方向に舵を切っていく」として、パワーマネジメントデバイスを駆動電圧で、

  1. 低電圧帯(コンシューマ、コンピュータ向け)に対しては、65nmのBCD
  2. 中電圧帯(コンシューマ、産業、車載バッテリ向けなど)に対しては、180nm BCD 第6世代 . 高電圧帯(車載はじめ高耐圧用途)に対しては、180nm BCD (一部はSOIも採用)

の3つに分類してそれぞれのプロセスの紹介を行った(図3)。65nmプロセスに関しては魚津工場で300mmウェハを使って製造するが、180nmに関しては日本と海外の200mm工場で製造するという(図4)。

  • TowerJazz

    図3 パワーマネージメントIC電圧の駆動電圧別のプロセス (提供:TowerJazz)

IoTやモバイル分野では、低電圧化の要求がますます強くなる一方、車載分野からは、高電圧化の加速やオプションの追加の要求があり、個別対応していくという。

  • TowerJazz

    図4 TowerJazzのプロセスポートフォリオにおける180nm BCDプロセスと65nm BCDプロセスの位置付け。濃い青色はタワージャズパナソニックセミコンダクター(TPSCo)が採用しているプロセス、薄い青色はTowerJazz海外工場のプロセス。65nmは魚津工場300mm製造ラインで対応、180nmは日本および海外のいずれかの200mmラインで対応可能 (提供:TowerJazz)