村上春樹「文章を書いているほうがずっと楽」大学時代“物にならなかった”習い事を明かす
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるラジオ番組「村上RADIO~歌詞を訳してみました~」が、10月13日(日)にTOKYO FMにて放送されました。
第9回の放送となる今回は、村上さんが選曲した楽曲にオリジナルの訳詞をつけ、パーソナリティの坂本美雨とともに朗読。短編小説作品のヒントとなった楽曲や長編小説「1Q84」執筆当時、頭の中でよく流れていたという楽曲も登場。本記事では、そのなかから後半2曲とエンディング曲についてお話しされた概要を紹介します。


◆「Mr. Sheep」Randy Newman
次は「羊くん」ですね。ランディ・ニューマンの曲です。ニューヨークの地下鉄で、どこかのおっさんが寝転んで、通勤客を馬鹿にして“お前ら羊じゃねぇか”と、からかう歌。“じゃあ、お前はなんなんだ”と言いたくなるところもあるけどね。このなかで、羊くんの鳴き声をやるところがあるんだけど、英語だと「バー」と言うけど、日本語だと「メェ~」。というわけで、毒のあるランディ・ニューマンらしい歌です。僕も大好きな曲です。

「羊くん(Mr. Sheep)」
よう、ミスター、どこ行くの?
仕事に遅れそうなんだね
気をつけなよ
ブリーフケースを落っことしちゃうよ
ほらほら、案の定だ、とろいなあ
急ぎ足で歩いて行く
地下鉄の階段を降りていく
電車に乗り遅れないように
でも傘を忘れたのは
ちっとまずかったね

気の毒な羊くん
濡れちゃってるじゃないか、羊くん
さあ、歩き続けて、羊くん
歩き続けなくちゃ

おれだってきついことは言いたくない
意地悪いことも言いたくない
あんたの言うとおり
この世界はただでさえ厳しい場所だ
ほんとにおっしゃるとおりだよ
でもあんたを見て何を感じるか
そのありのままを
わかってもらいたい
だから今ここで、思っていることを
ひとつぶちまけちゃおう
俺の言いたいことは
俺の言いたいことはね
さあ、言うぞ

めえええええええ

めえめえ羊くん
しっかり歩き続けなくちゃな


ランディ・ニューマンは、堅気の勤め人をからかったり、背の低い人をからかったり、非常に皮肉というか毒があるというか、問題のある歌を歌うことが多いんです。でも、すごくきれいなメロディを書く人でもあって、その辺のバランスというかアンバランスが、なかなか素敵なんですよね。

◆「Opportunities (Let's Make Lots Of Money)」Pet Shop Boys
さて、次はペット・ショップ・ボーイズの「ひと儲け」。原題は「Opportunities(Let’s Make a Lot of Money)。たくさんのお金を儲けよう。僕は、この曲の最初のフレーズ「おれには頭がある。きみにはルックスがある。一緒に金儲けをしようじゃないか」というのがけっこう好きで、昔から聴いてます。「1Q84」という小説を書いたとき、この曲がちょっと頭に浮かんでいて。

というのは、あれは売れない作家志望の青年と10代のきれいな女の子を組み合わせて、ベストセラ―をつくっちゃおうという編集者の話なんですよ。この雰囲気に近いんですよね、一種の詐欺というか。1人の悪いやつが、もう1人を悪事に誘っている。でも、誘っている奴が胡散臭い。ソルボンヌ大学を出ているとか、数学の博士号を持ってるとか、けっこう吹くんだけど、ほとんど嘘。こんな悪事の計画はうまくいかないと僕は思っているんだけど、とにかく一生懸命誘ってます。

「ひと儲け」(「Opportunities (Let's Make Lots Of Money)」)
おれには頭がある
きみにはルックスがある
一緒に金儲けをしようじゃないか
きみには腕力がある
おれには脳みそがある
組んでがっぽり儲けようじゃないか

雑魚たち相手に計画を練ったり
そんなあれこれは、もうあきあき
表に車を待たせている
こんな話、うまくいきっこない
おれが求めているのは、できるパートナーだ
しっかり仕事がやれるやつだ
なあ、どうなんだ
きみは金持ちになりたくないのか?

そう、世の中にはたくさんのチャンスがある
大事なのはそれをつかむタイミングだ
なあ、世の中にはいっぱいチャンスがある
なけりゃ、自分で作るまでさ

おれには頭がある
きみにはルックスがある
一緒に金儲けをしようじゃないか
きみには腕力がある
おれには脳みそがある
組んでがっぽり儲けようじゃないか


きっとうまくいかないですよね(笑)。

*  *  *

<エンディング曲>
◆「Polka Dots And Moonbeams」Bud Shank Quartet

今日のエンディングは、バド・シャンクがフルートで演奏する「月光と水玉模様」。僕は高校時代、バド・シャンクの『Flute Album』という日本編集のLPを買って、ずいぶん聴きこみました。なかでもこの「月光と水玉模様」は最高に美しい。そういう影響もあって、僕は大学生のとき、先生についてフルートを習ったこともあるんだけど、結局ものになりませんでした。フルートって難しいです。文章を書いているほうがずっと楽ですね。

今日の最後の言葉。ヴァン・ヘイレンのリード・シンガー、デイヴィッド・リー・ロスの1981年のお言葉です。彼が、ジャーニーというバンドについて語ります。

「おれとしてはあまり人を嫌な気持ちにさせたくないんだけど、正直に言わせてもらえば、ジャーニーってほんとカスだよね」
(I don’t want these people to take it personally. But, I mean, Journey stinks.)


こういう率直きわまりない発言って、いいですよね。“なにが「あまり人を嫌な気持ちにさせたくない」だ”とか言いたくなるけど、こんなこと堂々と口にして人生を送っていられたら楽しそうです。ダイヤモンド・デイヴ(デイヴィッド・リー・ロスの異名)、最高です。最近どうしているんでしょうね。

今日はここまで。またお会いしましょう。

この記事で紹介できなかった選曲やほかの内容は、以下の記事よりチェックできます。
▶▷村上春樹「僕はプライドに邪魔されたことはなかった」その深意とは?
▶▷ 村上春樹「歌詞を理解すると音楽の世界がぐっと広がる」ラジオ番組「村上RADIO」で語る
▶▷村上春樹“ワンハリ”を語る「2回観ました。面白い映画です」

<番組概要>
番組名:村上RADIO~歌詞を訳してみました~
放送日時:2019年10月13日(日)19:00~19:55
放送局:TOKYO FMをはじめとするJFN系列全国38局ネット
パーソナリティ:村上春樹、坂本美雨
番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/murakamiradio/