映画『イエスタデイ』監督と脚本家が語る、今の時代に改めて伝えたいビートルズの音楽

遂に日本公開を開始した映画『イエスタデイ』。ビートルズの名曲たちを若い世代に届けるという課題から、エド・シーラン起用の背景まで、監督のダニー・ボイルと脚本家のリチャード・カーティスがローリングストーン誌に語ってくれた。

【注:文中にネタバレを想起させる箇所が登場します】

ビートルズというバンド、そして彼らが残した名曲たちの存在しない世界を想像してみて欲しい(「イマジン」にちなんだダジャレではない)。ダニー・ボイル(『トレインスポッティング』『スラムドッグ$ミリオネア』)が監督を、リチャード・カーティス(『フォー・ウェディング』『ラブ・アクチュアリー』『ブリジット・ジョーンズの日記』『ノッティングヒルの恋人』)が脚本を手がけた映画『イエスタデイ』(10月11日全国ロードショー)では、まさにそういう世界が舞台となっている。ヒメーシュ・パテルが演じる売れないシンガーソングライターのジャックは、世界中が謎の大停電に見舞われた12秒間の間に、バスにはねられるという交通事故に遭ってしまう。彼が目覚めると、人々の記憶からファブ・フォーの存在が消滅してしまっていた。ジャックは彼らの音楽を自分の曲として発表し、瞬く間にスターダムを駆け上っていく。

その過程でジャックは、本人役で登場するエド・シーラン(自虐的な演技は賞賛に値する)との共演を果たす。また彼は、幼馴染で現在は彼のマネージャーを務めるエリー(『ダウントン・アビー』『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』等で知られるリリー・ジェームズが演じる)に恋をする。ジャックのキャリアと恋が交互に描かれる展開について、カーティスは「ジャグリングみたいなもの」としながらも、両テーマは互いに支え合っていると主張する。「僕らがみんなペテン師だっていう考え方は主なテーマのひとつだ」彼はそう話す。「でも同時に、僕はラブストーリーを書きたかった。どんなことがあろうとも、結局愛に勝るものはないんだよ」。

本作の原案を考案したのは作家のジャック・バースだが、その内容を耳にしたカーティスは、そのアイディアを元に脚本を書かせて欲しいと申し出た。「その素晴らしいアイディアを僕なりに解釈したものを作りたい、そう伝えたんだ」カーティスはそう話す。「ビートルズは僕の人生において不可欠な存在だったし、ずっと彼らの音楽がもたらす喜びを描いた映画を作りたいと思っていたからね。自分のキャリアが終わりに近づきつつあるからこそ、そういう思いを形にしたかったんだよ」本作ではカーティスが脚本家として、バースは原案の考案者としてクレジットされている。

ボイルとカーティスは、ロンドンオリンピックの開会式でもタッグを組んでいる(カーティスは『Mr.ビーン』が登場する場面の脚本を担当)。ボイルから他に取り組んでいる作品について尋ねられたカーティスは、彼に『イエスタデイ』(当時は『All You Need』というタイトルだった)の脚本を見せた。「いいアイディアを耳にすると、まず考えるのは同じような作品が既に存在してるだろうってことだ」しかしそれが事実ではないことがわかると、ボイルはすぐ制作に乗り出した。「音楽についての映画を撮る上で、素晴らしいアプローチだと思った」ボイルはそう話す。「この映画はミュージカルじゃない。ビートルズの曲をただカバーするだけじゃなくて、彼らの存在を人々の記憶から蘇らせ、改めて世界にプレゼンしようとしているんだ」

『イエスタデイ』誕生の背景を知るための6つのストレートな質問に、2人は率直に答えてくれた。


1. いかにして彼らはあれだけのビートルズの曲の使用許可を得たのか?

映画業界では金が物を言う。カーティスは早い段階で、ビートルズの曲を劇中で使うことは可能だと聞かされていた。オリジナルの使用には莫大な金と手間がかかるが、カバーはそうでもないからだ。「許可が取れないとわかっていたら、脚本を完成させようとはしなかったかもね」カーティスはそう話している。「抱きしめたい」(原題「I Want to Hold Your Hand」)から「レット・イット・ビー」まで、劇中ではジャックがビートルズの曲15曲を歌っている。

ビートルズのパブリッシャーであるSony/ATVとのいざこざを避けるため、その義務があったわけではないが、カーティスは先方に本作の脚本を送ったという。「送られてくる脚本の大半は伝記映画か、あるいはドキュメンタリーのものです」Sony/ATV Music Publishingの代表兼Chief Marketing Officerとして、映画やテレビ番組におけるビートルズの曲の使用ライセンスを管理しているBrian Monacoはそう話す。「だからこういうユニークな企画は注目されやすいんです」。

Monacoとビートルズの会社であるApple Corpsは、同作のコンセプトと脚本に好意的な反応を示した。「アイディアを気に入ってもらえなかったら、15曲もの使用許可は得られなかっただろうね」カーティスはそう話す。「ビートルズの名声に傷をつけるようなものは認めないはずだからさ」実際Monacoは、劇中で任意の15曲もの使用を許可する(使用料は明らかにされていない)ケースは極めて稀だと話している。「契約書には各曲の使用回数の上限が明記されてた」ボイルはそう話す。「でも必要に応じて、使う曲を変更することも認めてくれてたよ」

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『イエスタデイ』撮影現場でのパテルとボイル 写真:Jonathan Prime/Universal Pictures

2. なぜ「セクシー・セディー」や「レイン」ではなく、「ヘルプ!」や「イエスタデイ」等の代表曲ばかりを選んだのか?

単純に映画のインパクトを強調するためだ。「選択肢はものすごく豊富だったし、誰もが知ってるはずの曲が認知されてないっていうシナリオだからね」カーティスはそう話す。「僕自身は『ジス・ボーイ』みたいなマイナーな曲も好きだけど、『イエスタデイ』や『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』みたいな超有名曲を誰も知らないっていう設定だからね。僕らは最初から青と赤の(コンピレーション)アルバムに入ってる曲、つまり人気ランキングの上位25曲に目をつけてた」ボイルはそう話す。「個人的には『夢の人』(原題「Ive Just Seen a Face」)を使いたかったけど、知らない人も多いだろうからね」

3. 脚本の内容について、ビートルズのメンバーによる許可は必要だったのか?

答えはノーだが、作品のエンディングで流れる彼らのオリジナル音源の使用については、メンバーたちの同意を得ている。ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、ジョン・レノン、ジョージ・ハリスンの代理人たちが使用に同意したことは幸運だった。マッカートニーは同作の試写会に足を運ぶことはできなかったが、スターは視聴後に製作陣を讃えるコメントを寄せている。
(※註:本稿公開現在では、先日ポールは「良い作品だった」とコメントを寄せている。


4. ボイルはパンク愛好家として知られており、現在はクリエイション・レコード(オアシスをはじめ、80年代〜90年代の英国産バンドを多数輩出したレーベル)の伝記映画を制作している。彼は本当にビートルズのファンなのか?

イングランドで生まれ育ったボイルは、両親からビートルズのことを教わった。「僕には双子の姉がいて、2人とも家でビートルズの曲がいつも流れてたことを覚えてるんだ」ボイルはそう話す。「姉はポールのファンで、僕はジョンの真似をしてた。2人で彼らの曲を歌いながら、一緒にゲームしたり映画を観たりしてたよ。(シングルの)7インチは今でも持ってるんだ」

当初ボイルはレッド・ツェッペリンやデヴィッド・ボウイに夢中だったが、後にレコードで購入した『アビイ・ロード』のB面のメドレーには今でも驚嘆させられるという。「曲同士がスムーズかつ美しく結びついていて、ソウルフルかつ遊び心もある」彼はそう話す。「あれがリミックスやミックスっていう概念が生まれる遥か昔に作られたっていうんだから、本当に信じられないよ」。

5. なぜエド・シーランが出演しているのか?

それはクリス・マーティンの数多い功罪のひとつだ。2015年にイギリスで開催された慈善イベント、Red Nose Dayのオーガナイザーの1人だったカーティスは、コールドプレイが公開した『ゲーム・オブ・スローンズ』のミュージカル風パロディ映像を観て、マーティンの存在感とユーモアのセンスに感心させられたという。カーティスは当初彼にジャック役を打診したが、マーティンは自分は俳優ではないとして辞退している。

次にカーティスが声をかけたのが、第2候補のシーランだった。ロンドン郊外に住む2人の自宅は10マイルと離れておらず、シーランは「軽く飲んだり、サッカーの試合を観にやってくる」とカーティスは話している。本作の脚本を書くにあたり、カーティスが部分的にシーランをイメージしていたことを考えれば、彼に声がかかったのは自然なことだった。数年間にわたってツアーで世界中を巡った後、彼は昨年12月に幼馴染の女性と結婚しており、『イエスタデイ』のストーリーと合致する部分もある。「物事をシンプルに保つエドは、何かと思慮深いんだ。友人たちと休暇に出かけたりね」カーティスはそう話す。「第1希望はクリス・マーティンだったけど、エドは映画のインスピレーション源なんだ」。

本作が本格的な俳優デビューとなるシーラン(『ゲーム・オブ・スローンズ』のシーズン7に端役で出演している)は、何度かリハーサルを行った後に、本作のエンディングテーマを書き上げた。また彼はジャックが登場するシーンを、自身のスタジアムコンサートの場で撮影することを許可した。シーラン自身はクリス・マーティンの次に声がかかったのはハリー・スタイルズだと発言しているが、カーティスはこれを否定している。「第2候補はエドだったし、ナンバー2であることには何の問題もないんだよ」
 
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パテルとシーランが共演した『イエスタデイ』のワンシーン 写真:Jonathan Prime/Universal Pictures


6. 『イエスタデイ』はいかにしてビートルズの魅力を広めようとしているのか?

ビートルズの曲は昨年だけで何十億回も再生されており、その存在感は健在だ。しかしバンドの関係者、特に作品の普及を使命とするSony/ATVにとって、ミレニアル世代に彼らの魅力を伝えることは大きな課題となっている。「脚本を初めて読んだ時は、そのインパクトについて懐疑的でした」Monacoはそう話す。「しかし私たちは、この作品が若い世代にビートルズのことを知ってもらうきっかけになるかもしれないと考え直しました。彼らの世代は誰もがビートルズの音楽に馴染んでいるわけではありませんが、エドのファンにアピールできることは大きなメリットです。この映画をきっかけに、バンドの曲の再生回数が急増することを期待しています」それだけでなく、『イエスタデイ』をブロードウェイのミュージカル化する計画もすでに進行中だ。

ボイルはこう付け加える。「試写会をいくつかやったけど、中には曲を知らないという人もいた。でもそれは事実じゃないと僕は思ってる。映画に登場するビートルズの曲の大半は、無意識のうちに人々の記憶に宿っているはずなんだよ。本人が気づいていなかったとしてもね」。

ビートルズの人気は今後も衰えない、カーティスはそう考えている。「今は物事がものすごいスピードで変化してる。でも僕は、彼らの音楽は思いもよらない形で残り続けると思う。ビートルズの曲は信じられないくらいに多彩で多様だ。ヒメーシュはポールやジョンほどのシンガーではないけど、曲の素晴らしさは普遍だからね。この映画を撮りながら、僕はこう思ってた。彼らが今も存在していたら、きっと大いに売れてるだろうってね」


『イエスタデイ』 
全国ロードショー中

監督:ダニー・ボイル
脚本:リチャード・カーティス
製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、マット・ウィルキンソン、バーニー・ベルロー、リチャード・カーティス、ダニー・ボイル
製作総指揮:ニック・エンジェル、リー・ブレイザー
出演:ヒメーシュ・パテル(「イーストエンダーズ」)、リリー・ジェームズ(『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』)、ケイト・マッキノン(『ゴーストバスターズ』)、エド・シーラン(本人役)
配給宣伝:東宝東和 ©Universal Pictures
公式サイト:https://yesterdaymovie.jp/