オートデスクは10月9日、都内で年次イベントとなる「Autodesk University Japan 2019」を開催。Autodeskのクラウド&プロダクションプロダクツ 製造担当 上級副社長を務めるスコット・リース氏が登壇し、「The future of Making - 創造の未来」と題した基調講演を行った。

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    基調講演に登壇したAutodeskのスコット・リース氏

現在、世界はデジタル・トランスフォーメーション(DX)というトレンドのもと、さまざまな産業のデジタル化が進みつつある。その背景には地球に住む人口の増加にともなう必要となるさまざまなモノをどのように供給するのか、その生産性をどのように向上させるのか、といった問題がある。

同氏は、「全世界の人口は現在75億人。これが2050年にはさらに5割増加するといわれており、さまざまなモノを1つの製品などに使用できる量が限られてくることとなる。そういう制約が生じるということを認識する必要がある。また、その一方で、そうした生産などの無駄を省くことを目的としたAIやロボットの活用などはもはや避けられないことであり、いままで通りのやり方が通用しなくなる未来がやってくる」とし、そうした時代にはシミュレーションの活用が重要になると強調した。

こうした取り組みは何も先端製品の開発・製造を行う企業などに限った話ではない。例えば60万人を超すロヒンギャ難民が住むバングラディシュのコックスバザールの難民キャンプは地すべりや洪水のリスクが想定される場所が多いことから、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のはサイトアーキテクトであるフォービー・グッドウィン氏がAutodeskの支援の下、シミュレーションを活用し、浸水地域などを割り出し、造成工事を行ったが、同時にそこは絶滅危惧種であるアジアゾウの生息地に隣接する地域であり、ゾウの移動経路にも位置する場所であり、その移動経路をCADデータとして入力、通行のリスクのある地域の把握も同時に行うことで、シェルターの配置計画などを速やかに実施することができたという。また、セメントや石膏、鉄鋼からアルミプラント向けのマテリアルハンドリング、材料加工システムなどを手がける独Claudius Petersは100年以上の歴史を有する企業だが、ジェネレーティブデザインを活用することで、世界のCO2排出の6~8%を占めるとされるセメント生産におけるプラントを再設計、CO2排出量を削減することに成功したという

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    UNHCRのフォービー・グッドウィン氏が行った難民キャンプのリスクシミュレーション。洪水の多発地帯で、地すべりのリスクも想定され、それらのリスクを避ける場所に建物を建てる必要があった

「シミュレーションの役割は、これまでは設計したものを検証するという意味合いが強かった。しかし、クラウドと組み合わさることで、これが逆の順番で活用できるようになった」としたほか、「例えば建設現場は従来、紙に依存してきた場所だが、BIMの活用により、さまざまな働き方改革を果たすことができるようになり、建設とデザインの融合も可能になった。最初の段階から、どのような機能を盛り込むか、といったことを考えて設計ができるようになった。何かをデザインして、それがうまく機能してくれると良いな、と祈るのではなく、プロセスを融合することで、それが現実のものとして目に見えて、活用することができるようになる」とし、さまざまなテクノロジーや、その使い方に対し、自分たちにとって、よりよいものを実現する、ということはどのようなものをイメージしてもらうことで、それらを有効に活用できるようになると語った。

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    基調講演に続いて行われたインダストリーキーノートに登壇したAutodesk D&Mグローバルマーケット開発&戦略 担当ディレクターのデトレフ・ライヒネーダー氏が提示したスライド。こちらは製造業のワークフローの例だが、さまざまな工程やデータがシームレスに連携していないことが多く、そのデータ変換などの付加価値を生まない作業にエンジニアの作業時間の1/3が当てられており、その改善をDXの推進により実現する必要があるとした

続くインダストリーキーノートでは、ゲストとして1人乗りパーソナルモビリティを手がけるWHILLの車両開発部 部長の平田泰大氏が登壇。「WHILL Model C」の後輪部分をジェネレーティブデザインで設計しなおした結果、従来はモーターユニットと後輪で18~19kgほどの重さが、40%ほどの軽量化を果たしつつ、115kgの耐荷重性能の両立を果たしたという。

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    WHILLの平田氏とジェネレーティブデザインが施されたWHILL Model C

しかも、一度、自身がオートデスクが開催したハンズオントレーニングに参加した後、実務での設計経験がないインターンシップの学生に、作りたいイメージと具体的な操作方法を教え、実行。4回ほどパラメータ変更などを繰り返すことで、1ヶ月半で最終的な形状にたどり着くことに成功したという。

「パッと見て、壊れるような印象を受けるが、荷重をかけた試験などを行っても計算どおりの115kgまで問題ないことが確認できた。解析結果と実測結果が一致した」(平田氏)とするが、一方で「条件設定を間違えると、解析が終息しなかったり、軽量化がなされなかったり、その辺の塩梅を探るために条件数を25としたことが難しさを感じたところ。もっとシンプルな条件にしてやれば、苦労は少なくなったはず。また、最初の材料選定の段階で、アルミや樹脂など、先にあたりをつけてから開始すると早く終わると思えた」と、すべてが簡単に進んだわけでもないことを説明。ただし、「設計者ではなくても、要件定義さえできれば、プロデューサー志向の強い人などが積極的に使ってみても良い結果が出せると思う。こんなことをしたいというビジョンがあって、どうやったらたどり着けるか、ということを考える人などは使いこなせるのではないか」ともし、創造の枠を取り払ってものづくりができる可能性が示されたとした。オートデスクとしても、今後とも、そうした技術を幅広い分野に提供していくことで、これからの未来を常に感じてもらえることを目指すとしており、それがオートデスクとして掲げる「創造の未来」であるとしていた。