貯蓄がないことで老後が不安だという36歳の男性会社員。転職後、最初の2年で散財したのがその理由だというが、その後、生活を貯蓄モードにシフトし、今は愚直に生きているとのこと。ファイナンシャル・プランナーの平野泰嗣さんがアドバイスします。

◆今から老後が安心できるくらい貯蓄できるでしょうか?
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。

今回の相談者は、貯蓄がないことで老後が不安だという36歳の男性会社員。転職後、最初の2年で散財したのがその理由だというが、その後、生活を貯蓄モードにシフトし、今は愚直に生きているとのこと。ファイナンシャル・プランナーの平野泰嗣さんがアドバイスします。

◇相談者
みちさん(仮名)
男性/会社員/36歳
中部地方/賃貸住宅

◇家族構成
一人暮らし

◇相談内容 
36歳という年齢になり貯金が少なく、老後を考えるとだいぶ心配です。結婚は良い縁があれば考えますが、生涯独身でいこうと思います。

31歳で転職をし、現在は安定していますが、転職するまで貯金がなく自転車操業状態でした。転職後2年は車、バイクのローンや散財などがあり、貯金を始めたのは2年前からです。

現在バイクは乗っておらず、今後も乗る予定はありません。ローンなどは全くない状態です。

老後は地元に帰り、実家に住むことを考えています。両親は離婚しており、母は妹達が、父は自分が面倒を見る予定です。

退職年齢は65歳までですが、60歳辺りでリタイアして地元に帰ろうと思います。その後はパートなどで小遣いを稼いでいこうと思います。

ボーナスは基本全額貯金です。年3回の長期連休は毎年実家に帰っています。帰省費で15万円ほどです。

今まで遊んでいた分、これからは愚直に生きていこうと思っています。老後が安心だと思えるぐらいの貯蓄(3000万円程)を貯めておきたく、ご教示をお願いします。

◇家計収支データ
相談者「みち」さんの家計収支データ

◇家計収支データ補足
(1)収支の差額について
相談者コメント「差額分は貯金に手を付けないために普段の余裕代として残しています。ここから帰省費・帰省時に甥姪への小遣いや不意な出費(車の修理など)があれば使用しています。差額が残れば半年に1度ボーナスのタイミングでまとめて20~50万円ほど(残業により上下します)預金口座に入れています」

(2)住宅費について
実家は8年前に建て替え。住宅ローンはない。相談者が戻った際に30年は過ぎているため、ある程度のリフォームは必要だと考えている。固定資産税は9万円ほど。

(3)車両費について
2~4年後に買い替えを検討。予算は多くて150万円。軽で探す予定で10年は乗るつもり。

(4)加入保険の保障内容
・共済(病気死亡1200万円、入院1万円、通院特約付き)=毎月の保険料5400円
・個人年金保険(10年確定、年金額45万円)=毎月の保険料1万1600円

(5)小遣いについて
飲み会・外食はここから捻出。余ったら貯蓄に回す。

(6)退職金について
30年勤続で800万円の予定。

(7)両親について
両親は60代後半。ともにパート勤務。妹は30代の2人。ともに既婚で両親の近くに住む。

◇FP平野泰嗣の3つのアドバイス
アドバイス1:60歳からフルリタイアでも老後資金は準備できる
アドバイス2:iDeCo利用で積極的に運用をしてもいい
アドバイス3:今の貯蓄ペースを維持すれば、結婚に対応可能

◆アドバイス1:60歳からフルリタイアでも老後資金は準備できる
31歳で転職されて収入は安定したが、最初の2年間は散財。しかし、その後はそれまでとは全く異なり、貯蓄に励む生活に変わっています。

ご本人いわく「愚直に生きる」生活にマインドチェンジができたということ。よく切り替えができたと思います。

現在、貯蓄残高は330万円。もちろん、老後資金と呼ぶにはまだ額は小さいですが、2年でここまで増やした実績があります。これは自信にしていいですし、このペースを維持できれば、資金的にみちさんが心配されているような老後にはならないでしょう。

さて、シミュレーションですが、年齢がまだ36歳。「生涯独身で」と言われているものの、結婚される可能性もあるわけです。ただし、ここでは生涯独身を前提として試算を行いました。

条件として、まず収入については、50歳までは上昇率1%とし、61歳以降のパート収入は見込んでいません(理由は後述)。また、退職金は800万円。他に、65歳以降に個人年金保険からの年金として450万円(毎年45万円を10年間)を受け取ります。公的年金は年間164万円としました。

支出については、基本的な生活費は今と変わらず推移。ただし、2年おきに賃貸住宅の更新料として毎回6万円を、自動車維持コスト(車検、税金、保険等)として年間10万円をそれぞれ計上しています。

不定期の大きな支出としては、実家に戻られたとき、予定どおり61歳であれば自宅は築23年。自宅の大規模修繕が発生するとして、その予算に500万円。また、引っ越し費用として50万円を計上しています。

次回の自動車の買い替えは39歳のとき。その後10年毎に買い替えを行い、費用はすべて150万円としました。
みちさんの貯蓄残高の推移

シミュレーションの結果ですが、現在同様、貯蓄商品だけで老後資金づくりを行って、60歳の時点で4800万円に達します。

このとき実家に戻られて、パートで働くと言われていますが、みちさんがご両親の介護に追われて時間的に働く余裕がないという事態も想定されます。

したがって、実家に移られてからはフルリタイア=働いて収入を得ることはない、として試算しました。そのため、公的年金受給開始の65歳となるまで年間200万円を取り崩しますが、それでも資金的には余裕があります。

公的年金(受給額164万円)と生活費の差額は年間45万円程度。その不足分を老後資金でカバーするわけですが、100歳を超えても3000万円がまだ手元に残る計算になります。

◆アドバイス2:iDeCo利用で積極的に運用をしてもいい
今のペースを維持すれば、貯蓄商品だけでも老後資金は十分用意できますので、あえて運用リスクを取る必要性はありません。

それでも、一部を積み立て投資に回してもいいと考えます。長期投資が可能なことと、iDeCo(個人型確定拠出年金)が利用できる(※)なら、それも活用して長く節税効果の恩恵を受けることで、積極的にリスクを取ることができるからです。

金額として月4万円ほどでしょうか。決まった貯蓄が月6万5000円ですから、割合としては多く感じるでしょうが、実際は年間180万円程度、貯めることができる家計(2年間で330万円を貯めた実績から)ですから、そこから年間48万円を投資に回すことは、投資比率としては高くないと考えます。

仮に、月4万円を投資に回し、年平均利回りが2.5%だとすると、60歳まで24年間で元本1152万円が1576万円に増えます。

ちなみに、iDeCoに掛けた資金は原則60歳以降でなくては引き出せません。しかし、積み立て自体を中断することも積立額も変更することも可能です。

(※)会社員は、勤務先に企業型確定拠出年金制度がある場合、原則、iDeCo加入は不可(会社が認める場合のみ加入可能)。それ以外は利用可能。掛金の上限は勤務先の企業年金制等によって、月2万3000円か1万2000円のいずれか。

◆アドバイス3:今の貯蓄ペースを維持すれば、結婚に対応可能
実家のお父さんですが、年3回帰省するなど気に掛けている様子が窺えます。

ただし、定年を迎え実家に戻れるその前に、介護や身の回りの世話が必要になることも十分考えられます。そのときどうしてほしいのか、早めにお父さんと話し合っておくといいでしょう。

地域包括支援センターなども利用して、地域の関連情報を収集したり、直接相談してもいいでしょう。ともあれ、いざというときに慌てないためにも早めの準備が望ましいと思います。

また、加入されている保険ですが、病気死亡1200万円は保障として過大です。おそらく、万が一のとき、お父さんへの支援金として考えられてのことでしょうが、みちさんの貯蓄が5年後には保障額と同額まで積み上がります。

そのタイミングで、死亡保障から医療保障のタイプに保険を切り替えてはどうでしょう。今後さらに貯蓄は増えますので、医療保障も終身にこだわる必要はありません(掛かる医療費は貯蓄から捻出)。共済などで確保すればいいかと思います。

保険関連で付け加えるなら、将来の資金づくりとして貯蓄性のある保険に新たに加入するという選択肢もあるかと思います。

確かに、予定利率は銀行の預金商品よりは有利です。しかし、少なくとも今はお勧めできません。

今後、結婚の可能性もあり、そうなるとその保険自体がライフプランに合ったものにならない、あるいは、他の家計支出が増える中、保険の見直しをする際に中途解約すると元本割れするといったケースが考えられるからです。

今回は独身ベースでのシミュレーションでしたが、結婚され、家族が増えても、資金的に今のみちさんであれば対応は十分できるはすです。貯蓄や家計管理のペースをこのまま継続していくよう、今後も心掛けてください。

◆相談者「みち」さんから寄せられた感想
平野先生アドバイスありがとうございます。収入が安定し散財していたのは反省すべき点ではありますが、せっかく安定を得て多少なり希望が出た芽を潰してはダメだと思い、生活を切り替えることができました。

独身で何歳まで生きられるか分からないですが、何があっても対応できるよう貯蓄しておこうと思った次第です。

保険の金額の大きさやiDeCoは気にはなっていたので、今後先生のアドバイスをもとに見直しや検討をしていきたいと思います。幸い健保の保障が厚いため保険の見直しは積極的に行ってもよさそうです。

まずは生活のペースを崩さぬよう心掛けて、ちょっとした旅行などでガス抜きもしつつ過ごしていきたいと思います。そのうえで良い縁があれば拾っていけるよう心の余裕を持っていきたいと思います。

アドバイスをもとにうまく貯蓄を進めていけるよう頑張ります。ありがとうございました。

教えてくれたのは……平野 泰嗣(ひらの やすし)さん

ファイナンシャル・プランナー、キャリアコンサルタントとして活躍。FPの妻と2人でFPオフィス Life & Financial Clinicを創立し、「自分らしく生きること」をモットーにライフ・ファイナンス・キャリアの3つの視点でのアドバイスをする。

取材・文:清水京武

文=あるじゃん 編集部