異種交配された3台│イタリアンデザインとアメリカンV8エンジンの競演②

イギリスでインターセプターを見かけて「いい車だ」と声を掛けてくる人は、その姿に見覚えはなくとも車名は聞いたことがあるはずだ。対して、イソ・グリフォを見かけて注目する人がいたら、イタリアン・エキゾチカに関して相当な知識の持ち主に違いない。あるいは子どもの頃に"マッチボックス"のミニカーで遊んだ人だ。当時、ほとんどのイギリス人にとってグリフォを目にする機会はミニカーくらいだった。
 
マッチボックスで遊んだ記憶こそ、このグリフォの前オーナーが購入を思い立った理由だ。ハンガリーで広告代理店を経営するその人物は、持っていたミニカーと同じライトブルーで、自分と同じ1968年生まれのグリフォを探していた。ドイツのディーラーで見つけたこの車は、赤で1969年製だったが、手頃な価格だったので購入した。ところが納車後に、オリジナルはライトブルーで、実は1968年製だったことが判明した。YouTubeにこの車を紹介した素晴らしい動画がある(「Iso Grifo, a personal favorite」で検索)。ビッザリーニとイソのスペシャリストであるロベルト・ネリが1968年仕様にレストアし、コンクールレベルで甦らせた。
 
ビッザリーニとイソの2社は、グリフォに関して切っても切れない関係にある。グリフォは最初からレース仕様と公道仕様の2バージョンが存在したからだ。デビューの場である1963年トリノ・モーターショーでは、公道仕様がベルトーネのブースに展示され、イソのブースにはレース仕様がワインのコルクでエンジンターン加工を施したベアメタルの状態で展示された(一説によれば塗装する時間がなかったため)。



どちらもジョット・ビッザリーニがシャシーを設計し、レース仕様のA3/C(レースを意味するCorsaから)は製造も担った。当初はイソのレンツォ・リヴォルタも合意していたが、1965年に二人は袂を分かつ。その後もビッザリーニは自社のモデルとしてA3/Cの開発を続け、これがビッザリーニ5300となった。
 
イソの歴史は、冷蔵庫や暖房器具を製造していたイソサーモス("一定温度"の意)を、レンツォ・リヴォルタが第二次世界大戦前に買収したことに始まる。戦後はシンプルなバイクやスクーターの製造に舵を切り、バブルカーのイセッタを経て、1962年に最初のグランドツアラー、イソ・リヴォルタGTを完成させた。こちらは端正だが少々お堅い印象だったのに対し、翌年発表されたグリフォはまったくの別種だった。車幅が広く官能的で、はるかにセクシーだ。映画に例えれば、『ローマの休日』のオードリー・ヘプバーンではなく、『アラベスク』のソフィア・ローレンといえよう。
 
しかし、シボレー・コルベットのエンジンを使う点は共通している。試乗したグリフォは、元々エントリーレベルの出力300bhp、327cu-in(5.5リッター)のV8エンジンを搭載していたが、ある時点でオプションの中で最高グレードの365bhpにアップグレードされた。グリフォには様々なバージョンの327エンジンが用意され、怪物級の427(7リッター)バージョンもあった。こちらはボンネットにフラットなエアスクープが追加され、まるで石膏ボードを貼りつけたように見えるので、すぐ分かる。



1970年に登場したシリーズIIから、ヘッドライトの上半分をポップアップカバーで覆うデザインに変更を受けた。70年代に入り、より空力を意識した最先端のスタイルに乗り遅れまいとしたのだろう。生産は1974年に終了するが、最後期には351cu-in(5.7リッター)のフォードV8を搭載した。シボレーの経営陣が替わり、エンジン供給の交渉が難しくなったためだ。
 
よくいわれる通り、グリフォも最初期のモデルが最も純粋だ。試乗したのは、その中でも抜群の1台である。現オーナーのドミニク・レスターは2018年9月に購入した。イタリア育ちのドミニクは、ローマにあるチネチッタ撮影所の映画プロデューサーだった父親が、グリフォに憧れながらフィアット・ディーノで我慢していたことを覚えていた。
 
グリフォは大きな堂々たる車で、思い切って大胆に操縦するほど、よさを引き出せる。私は、『Octane』に寄稿するリチャード・ヘッセルタインと共同所有していたランボルギーニ・エスパーダを思い出した。ハードに攻めて初めて本領を発揮する車なのだ。たしかに街中をゆっくり走ることもできるが、重いマニュアルシフトや車幅の広さ(車内で特に感じた)、硬めの乗り心地など、どの要素を取っても、郊外の開けた道を走るのが一番だと教えている。
 
コルベットのV8エンジンも素晴らしく洗練されており、スムーズによく回る。チープなV8ビートを想像する人がいたら、それとはまったくの別物だ。踏み込んでいくとエグゾーストノートが硬質になり、ゾクゾクするような唸りに変わる(前述の動画を見ればよく分かる)。とはいえ回転が上がってパワーが高まっても、サウンドの優雅さはそのままだ。

また、広いトレッドと車高の低さが功を奏し、揺るぎのない安定感があり、路面をしっかり捉えて離さない。これには、当時にしては広い205mm幅のピレリ・チントゥラートもひと役買っている。パワーアシストの付いたステアリングの重さも心地よい。