「いだてん~東京オリムピック噺~」第36回の一場面 前畑(上白石萌歌さん)のレースを実況する河西三省(トータス松本さん)と田畑政治(阿部サダヲさん) (C)NHK

 宮藤官九郎さんが脚本を手掛けるNHKの大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」の第36回「前畑がんばれ」が9月22日に放送される。前週第35回「民族の祭典」で1936年のベルリンオリンピックが開幕。4年前のロサンゼルスオリンピックの雪辱を期す前畑秀子(上白石萌歌さん)が、悲願の金メダルを懸けて女子200メートル平泳ぎ決勝に挑むが、その一方で、ヒトラー率いるナチス・ドイツの存在もクローズアップされている。同回で演出を担当した大根仁監督に話を聞いた。

 ◇ベルリン五輪は“ナチスの大会” ドイツのヒトラー役俳優をオーディションで

 第二次世界大戦前夜、ドイツが威信を懸けて開催した1936年のベルリンオリンピック。その様子は記録映画「オリンピア」(邦題は「民族の祭典」ほか)として残され、ドラマ本編にも使用されている。

 大根監督は「ベルリンオリンピックというのは“ナチスの大会”と言われるくらいプロパガンダ色が強い大会。映像が鮮明に残っているのもこの大会からで、『民族の祭典』という映画にはヒトラーの姿がばっちり映っている。ただ、ナチスが牙をむく前なので、ヒトラーの演出をどうするかは悩みましたね」と話している。

 第36回にも登場する“独裁者”ヒトラーの印象は「ヒトラーの顔を知らない人はいないのではないかというくらい、強烈な存在」で、今回、演じる役者はドイツで活躍する「ヒトラー俳優」の中からビデオオーディションで選出した。

 ◇狙ったのは「人間・ヒトラー」 “まーちゃん”との共演シーンでは…

 「ヒトラー役をよくやっている役者さんが何人かいて。その方たちをビデオオーディションしまして、その中から選びました」と話す大根さん。

 その上で、「今の僕らの感覚で、“ザ・恐怖”の対象としてヒトラーを撮ればいいのかどうなのかっていうのが悩んだところ。この頃のヒトラーは国民から圧倒的な支持を得て、首相になった。だから悪魔のように描くのは違うんじゃないかって。当時の文献を読んだり、資料で調べたり、あとはナチスの監修者と話した上で、わりと血の通った、人間味が出るようにヒトラーを演出してみました」と振り返っている。

 また、“まーちゃん”こと田畑政治(阿部サダヲさん)が、ヒトラーと対面するシーンもあるが、「完全なフィクションで、ある種、荒唐無稽(むけい)に見えるシーンではあるのですが、今回のヒトラーに関していえば、あそこをどれだけ説得力を持って見せられるか気を使いましたし、阿部さんとも話し合ったところ」と話す。さらに、田畑が図らずも、ヒトラーを前にし「ナチス式敬礼」の手の形になってしまうシーンについては、「台本には元々なかったんですけど、リハーサルでヒトラーと長く握手をした後に偶然、手が残ってしまうというのがあって。体がこわばって動けなくなる様子が伝わると思い、採用しました」と裏話を語った。

 ◇前畑役の上白石萌歌は「すごく頑張ってくれました」

 アナウンサーの河西三省(トータス松本さん)の名実況「前畑がんばれ」でもおなじみ、前畑秀子役の上白石さんの印象も聞いた。

 「上白石さんについて言うと、彼女自身、自分の線の細さはとてもメダリストに見えないと感じていて、まずは肉体改造を。体重を自ら7キロ増やして、泳ぎも特訓し、日焼けサロンに通ったりして、水泳選手のフォルムを作るところからやっていった。現場で僕はとにかく頑張れとしか言えなくて。『頑張れ! 頑張れ!』って」と笑う。

 第36回では、そんな上白石さん演じる前畑が、大一番の前夜に自身に寄せられる「頑張れ」という声援を受け入れるシーンがある。

 同シーンについて、大根監督は「感激した」と告白。「上白石さんすごく頑張ってくれました。泳ぎのシーンも平場のシーンもそうだったんですけど、一番、感激したのは亡き両親との対面シーン。この超展開とせりふを説得力を持って演じられるというか、あそこで感動に持っていけるというのはすごいなって思いましたし、自分でもホロッとしました」としみじみ。演出らしい演出はなかったといい、「いつも僕は立ち位置を確認するくらいで、大したことは言っていないんですよ」と語った。

 ◇自分を追い込んだトータス松本 “ラスト50メートル”はミュージシャンに?

 さらに“翌日”の決勝レースで「前畑がんばれ」を連呼することになる河西役のトータスさんについては「今回、誰よりも自分を追い込んだのはトータスさん」と断言する。

 「実際にプールでみんなに泳いでもらい、それを見ながら実況してもらったんですけど……。うまくいかなかった部分は、スタジオに実況ブースだけ作って撮り直したり、そのあとの音の仕上げ作業でも、録音ブースで同じテンションでやってもらった。シーン丸々3回分くらい、計1000回くらい『頑張れ!』を言っていると思います(笑い)。ラスト50メートル、前畑が最後のターンをしてから、実況ブースから体ごと前に乗り出して『頑張れ!』というのはトータスさんのアドリブなんですが、さすがミュージシャンを感じせるシーンになった」とトータスさんの“頑張り”に感謝していた。