映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」について語った小栗旬さん(右)と蜷川実花監督

 俳優の小栗旬さんが、写真家としても活躍する蜷川実花さんの監督作「人間失格 太宰治と3人の女たち」で、作家・太宰治(本名:津島修治)を演じている。これまでも小栗さんは、蜷川監督の作品に出演したことはあったが、がっちり組んだのは今回が初めて。蜷川監督と小栗さんに、互いの印象や蜷川監督が小栗さんを太宰役に起用した理由、蜷川監督が「昭和のスター」とたたえる小栗さんの撮影現場での様子を聞いた。

 ◇最初の出会いは15年前

 蜷川監督が構想に7年の歳月を費やし完成させたという映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」は、小栗さん演じる作家・太宰治が、太宰の才能を誰よりも信じる妻に叱咤(しった)され、「人間に失格した男」の物語に取り掛かるまでを、太宰の2人の愛人と共に描き出していくエンターテインメント作だ。

 小栗さんは、7月に封切られた蜷川監督の「Diner ダイナー」(2019年)や、蜷川監督の監督デビュー作「さくらん」(2007年)にも出演していたが、がっちり組むのは今回が初めて。2人の付き合いは長く、最初の出会いは蜷川監督も小栗さんも「明確には覚えていない」(小栗さん)そうで、記憶をたぐった末に「このときが多分最初だと思う」(蜷川監督)とたどり着いたのは、蜷川監督が写真家として21、22歳のころの小栗さんを撮ったときだという。それから15年ほど時は過ぎた。

 蜷川監督は、当時と今とで小栗さんの印象は「変わらない」としながら、「小栗君とたまに撮影で会ったり、父(演出家の故・蜷川幸雄さん)の舞台で見たり、もちろん、映像やメディアで見たりしていて、これほどまでに急な坂を駆け上がる男の子を、近くで見られたことはすごく面白かったです」と感慨深げに語る。それだけに、今回一緒に仕事ができることには望外の喜びを感じているようだ。

 かたや小栗さんも、蜷川監督に対する印象は「ほとんど変わっていないです」としながら、「初めて撮ってもらった15年前から実花さんの世界は出来上がっていました。でもそれとは別に、こんな写真も実花さんは撮っているんだと驚かされる」ことがあり、そのたびに「カメラマンとしてどんどんすごい人になっていっている」と感嘆させられるという。

 ◇小栗は「昭和のスターみたい」

 蜷川監督はオフィシャルブログに、「小栗旬という人は、死ぬほどカッコいい男ですね。一緒に仕事できて幸せでした」と書き込んでいる。その真意を聞くと「もちろん、撮影現場の女性たちは(小栗さんを)好きだけど、若い役者の崇拝の仕方が異常なんです」と明かす。「スタッフからもすごく評判がいいし、人としての包容力だったり、リーダーシップだったり、座長としてそこにいるたたずまいに、私を含めてみんなが助けてもらいました。その人間力は素晴らしかったです。圧倒的でした。みんなが夢中になって当然だと思いました。昭和のスターみたいですよ」と称賛の言葉が止まらない。

 さらに、「差し入れの仕方一つとってもそうですし、うちの子供が(現場に)遊びに来た時の対応もカッコいい。本当にすごかった」と続け、それを蜷川監督の隣で、うつむき加減で聞いていた小栗さんが、「ありがたいです」と恐縮する一幕もあった。

 ◇脚本開発しながら「断られたらどうしよう」

 蜷川監督は、太宰という人間を「箇条書きにすると、すごくダメな、嫌な男」と表現する。その上で、「文壇からは正当に評価されなかったけれど、世間からは人気があって、“スター選手”としてトップを走っている人にしか見えていない景色を見ていたはずだ」と推測する。そういう人間が、「周囲の人々を、肉体をもって魅了していく過程を表現する」ためには、演じる俳優が「人間性も含めてチャーミングであることはすごく重要」であり、だからこそ、「演技だけではどうにもできない、肉体的なものが持つ説得力」がある小栗さんこそが適任と踏んだのだ。

 とはいえ、蜷川監督が小栗さんを太宰役にと決めたのは、脚本開発段階のまだ早いころだったという。そのため、「断られたらどうしようと思いながら開発していた時期が何年かあった(笑い)」そうだ。

 ◇太宰は「男の人にも人気があったと思う」

 小栗さんは、脚本の決定稿を読んだとき、その面白さに魅了されたという。「太宰治という、むちゃくちゃな生き方をする、本当にダメな男なんだけど、嫌いになれないキャラクターがずっとそこにいたんです。読みながら、彼が生きている時間を想像して、すごくワクワクさせられました」と当時の心境を振り返る。ただ、太宰が実在の、しかも近代の人物であることから、オファーを受けるか否かで「少し悩んだ」のも事実。しかし結局、「この面白い脚本に出ないというのは、役者としてどうなのだろう」という役者魂が背中を押した。

 そして、太宰を演じるにあたり10キロ以上の減量に挑み、最終的には63キロまで体重を落とした。加えて、改めて太宰の著作を読んだという。「昔、太宰の作品を読んだときと比べて共感できることはすごく減っていた」そうだが、それでも、「彼がやっていることはすごく人間らしいと思います。実際、残っている文献などを読むと、お酒の席ではユニークで面白い人だったと書き残している人たちが多いので、男の人にも人気があったのだと思います」と共感を寄せていた。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)