現在配信中の、フジテレビの動画配信サービス・FODのドラマ『ヤヌスの鏡』。1985年に杉浦幸主演でフジでドラマ化され、話題を読んだ同作が現代に蘇り、女優の桜井日奈子が主演を務めている。厳格な家庭に育つ優等生の高校生・小沢裕美(ヒロミ)が、厳しい祖母に閉じ込められた納戸の中で鏡台を見つけたことをきっかけに“ユミ”という全く別の人格を持った不良少女に変貌してしまう姿を描いていく。

二重人格という演じ分けが必要な役に挑戦した桜井だが、「こんなに面白い役をやらせてもらえるのかと、わくわくした」と、非常に頼もしい様子を見せる。今回は主演の桜井にインタビューし、撮影の裏話や、作品を通して考えたことについて聞いた。

  • 桜井日奈子

    桜井日奈子 撮影:泉山美代子

■新しい役にわくわく

――最初にこの『ヤヌスの鏡』のお仕事をもらったときはどう思われましたか?

お話をいただいてから原作を読んで、過去に大映ドラマで放送されていたものの1話を見ました。私が演じる役が、二重人格なんだということと、その性格がまったく正反対ということで、こんなに面白い役をやらせてもらえるのかと、わくわくしました。

――お母さん世代はドラマをリアルタイムで見ていたのかなと思いますが。

「当時すごく話題だったんだよ」という話を聞きました。ユミのメイクのこととか。あと”ヤヌスごっこ"で遊んでいた人もいたと聞いたので、今回の作品でも、当時話題になったときに負けないくらいに、みんなにワクワクしていただきたいですし、ユミとヒロミのギャップを楽しんでいただけたらなと思います。

――ヒロミは今でもラブ・コメディでも見かけることのあるような、引っ込み思案の女の子ですが、ユミのような不良少女というのは、なかなか現代では見かけないから、インパクトがあったのでは?

インパクトありましたね。今まであんなに濃いメイクで演じることがなかったので、目の周りも黒く囲んで、赤のリップで、髪もさらさらで、スカートも短くて。こんなに足を出すことはなかなかないので、最初は恥ずかしかったんですけど、そのメイクにかなり助けられたというか、外から自分の役を掘り下げるいい手助けになったと思います。

――ヒロミは祖母からの抑圧があって、ユミを生み出すわけですが、桜井さんは何か感情をため込んでしまうときはありますか?

ありますよ、あります。なかなか全部思い通りにいかないというか、やってることすべてに結果がうまくいくかというと、そうでもないし、本当にこの方向で合っているのか、という不安ももちろんあります。この世界って上には上がいる、上しかいないくらいみなさん才能を持っていらっしゃるので、すごく不安に襲われることもあります。「このままじゃだめだ」という焦りには、ヒロミが追いつめられるのと近しい気持ちもあったので、そういうものを引き出しながら演じていたかもしれないです。

――そういう感情を発散する方法は何ですか?

体を動かすことが好きなので、最近はヨガにはまっています。汗をかくとすっきりするので、それで発散してますね。ずっと部活でやってきたバスケもやりたいんですけど、なかなかできなくて。今はお友達を誘ってバスケをするということに憧れていたりします。

■自分は負けず嫌いな方

――ヒロミとユミを演じて印象深かったところは?

国生さゆりさんがヒロミのおばあ様を演じているんです。今回のおばあ様は、原作のおばあ様よりも厳しいんですけど、その奥には愛があるからだと透けて見えるところがあって。だからこそヒロミとしてはより苦しい部分はあって。私も厳しく言われても、「自分のことを思って言ってくれてるんだ」と考えて、「もっと結果を出したい」と思う方ので、そういう気持ちは共感できましたね。

――ほかのインタビューを読んでも、桜井さんはガッツがあって逆境には負けない印象はありますね。

ずっとバスケをやってて部活少女だったので、負けず嫌いだったり気が強かったり、ガッツはあると思います。

――最近は女優のほかにもMCをやられていて……。

とにかく勉強になることばかりです。自分はトーク力もまだまだですし、MCって特に、ゲストの方に話をふったり、かえってきたことを瞬時に頭の中に落とし込んで話をまとめてというテクニックも必要だと思うんですけど、自分にはまだまだなくて。ご一緒しているサバンナの高橋さんを見て、「こういうときにこういう相槌を打てば見てる方にもわかりやすいんじゃないか」と思ったり、意識して他の番組も見たりとか。もっと成長できるようにといろんなものを参考にしているところで、過渡期だと思います。

――ちなみに、桜井さんが沼にはまってることは?

最近、料理を頑張っていて、『ヤヌス』の現場にも、お弁当を持っていってました。どんな調味料をどんな料理に使うのかということとかをか知るのが楽しくて、けっこう続いています。

――ドラマには、進東健一役の白洲迅さんと、堤達也役の塩野瑛久さんという同世代の人たちもいたわけですが、撮影現場ではどんな風に過ごしてましたか?

塩野さんは印象としてはクールな方なのかなと思ったら、撮影に入って間もないときに控室で支度中に、モノマネができるということがわかりまして、それで白州さんと3人でモノマネ大会になったことがありました。お互いにまださぐりさぐりの状態だったんですけど、そこで打ち解けました(笑)。

――役の上での関係性はいかがですか?

ユミと達也は、いつも一緒に行動しているパートナーという感じだったので、ユミが好意を持つとしたら達也だと思ってたんです。でも、監督とお話したときに「ユミは達也のことを弟だと思ってるから、ユミが好意を寄せるとしたら進東のほう」と言われて、びっくりしました。でも、ヒロミも進東に好意を抱いているし、複雑だなと。そういう人間関係も魅力のドラマで、最後まで見ると「ほぉっ」ってなると思います。「ほぉっ」ってなんだって感じですけどね(笑)。

■どんどん自分の役の幅を広げたい

――今まで桜井さんが出演してきた作品のような胸キュンもあるかもですか?

私がキュンときたのは、達也がユミに対して忠実なところ。ユミからの思いが返ってくることはなくても、犬のように忠誠心があるところにぐっときましたね。

――逆に進東くんはどんなキャラクターでしたか?

ユミに翻弄されるヒロミを助けようとしてくれるんですけど、進東くんの思いはけっこうふわふわしてて、ユミの手のひらで踊らされていて「俺はどうしたらいいんだ!」って、どうにかしたいけどどうにもできないもどかしさを持ってるんです。そういう進東くんの思いを見てキュンとする人もいるんじゃないかと思います。

――最近の物語のキャラクターってツンデレとかが多いですけど、達也と進東はまた違うキャラクターなんですね。

確かにそうかもしれないですね。王子様キャラでもないし。女のユミやヒロミのほうがしっかりしている作品なので、当時としても珍しかったかもしれないですね。

――桜井さんは、実際にも達也みたいなキャラをいいと思いますか?

そうですね(笑)。以前はツンとしてる感じの人もかっこいいと思ってたんですが、今は何でも笑って聞いてくれるような優しい人がいいなと思うようになったので、犬系男子が好きかもしれないです。

――演じ終わって、ここはぜひとも見てほしいと思ったシーンはありますか?

撮影終盤のおばあ様とのシーンは、精神統一をして気合を入れてワンカットで撮ったので、涙も汗もたらしながら心の叫びをぶちまけました。ヒロミはおばあ様からのストレスで人格が解離してしまうので、実際におばあ様と対峙するのはユミなんですけど、ヒロミが環境を変えたいと思ったのがきっかけでユミが生まれたという背景もあるので、そのシーンは、ユミ・バーサス・おばあ様でもあり、ヒロミ・バーサス・おばあ様でもある、印象的なシーンだと思います。

――緊張感のある撮影だったと思いますが、国生さんとのエピソードは?

おばあ様には定規で叩かれたり、納戸に押し込められたりするシーンがあるんですけど、カットがかかると、国生さんは「大丈夫?」と聞いてくれる優しい方でした。それと、心でお芝居される方なんだなと。おばあさまにビンタされるシーンがあって、国生さんからは「5発のうちの1発だけしか本当には当てないからね」と言われたんですけど、実際、撮影が始まると、5発とも当たってしまったんです。きっとそういう身体的な痛みがあったからこそ、感情が動いたので、ありがたい痛みだと思いました。予想外のことが起こると、より大きく心が触れるので、そのときはガチ泣きで演技しています。

――ユミのような役って今までなかったと思いますが。

今まではキラキラした学園ものの女子高生役も多かったので、ユミのような不良少女の役って、いい意味で私のイメージを壊してくれたんじゃないかと思います。演じてみて、最終的に残った感情が「楽しかったな」ということでした。これからも、出会ったことのない役を演じて、どんどん自分の役の幅を広げていきたいです。

■桜井日奈子
1997年4月2日生まれ、岡山県出身。2014年に「岡山美少女・美人コンテスト」で美少女グランプリに輝く。15年webムービーで“岡山の奇跡”として一躍注目を集める。16年に舞台『それいゆ』で女優デビュー。同年『そして、誰もいなくなった』でドラマデビュー。18年『ママレード・ボーイ』で映画初主演を飾る。その他の出演作に、ドラマ『THE LAST COP/ラストコップ』(16)、『僕の初恋をキミに捧ぐ』(18)、映画『ラストコップ THE MOVIE』(17)、『ういらぶ。』(18)など。現在、NHKEテレ『沼にハマってきいてみた』に月曜レギュラーMCとして出演中。公開待機映画に『殺さない彼と死なない彼女』(11月15日公開)がある。