半導体を年間で多く購入している電子機器サプライヤトップ20社の2019年の購入総額は、前年比9%減の3166億ドルとの予測を市場調査会社である英IHS Markitが発表した。半導体市場の軟化と世界経済の不確実性の高まりを受けた結果だという。

2019年のマイナス成長の主な要因はメモリ価格の低下と、半導体を搭載する最終セット製品市場の需要低迷だとIHSでは指摘している。具体的には、世界経済の減速、貿易における緊張の高まり、消費者の購買意欲低下、半導体の過剰在庫、スマートフォン(スマホ)やサーバなどのけん引役の成長鈍化などが挙げられる。産業分野や自動車向けに半導体支出が伸びているものの、全体の減少を相殺するほどの規模はないため、成長の減速を止められない状況となっているとIHSでは説明している。

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    図1 世界で半導体購入額が高い企業20社合計金額の推移 (出所:IHS Markit)

高まる中国勢の存在感

半導体の購入額トップ20社のほとんどは、スマートフォンやサーバの上位サプライヤでもあり、これら2大市場の低迷で、半導体の購入額トップのAppleは2019年に前年比15%減、Samsung Electronics、Lenovo、Huawei Technologies、およびDell Technologiesもそれぞれ同23%減、同9%減、同13%減、同10%減と、軒並み支出額が減る見込みで、プラス成長はAmazon、HP、Continental、Bosch、Cisco Sytemsの5社だけと見られる。

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    図2 世界で半導体購入額が高い企業20社の2019年における前年比予測 (出所:IHS Markrt)

一方、Lenovo、Huawei Technologies、Xiaomi、OPPO、Vivoなどの中国の主要なプレーヤーがトップ20にランクインするようになってきたが、その2019年における半導体購入額の合計は530億ドルと見られている。ちなみに2014年では250億ドルであったため、5年間で購入額は倍増したことになる。これは、中国の電子機器サプライヤたちによる半導体市場に与える影響が増していることを示すもので、中国勢による需要の拡大の一方で、貿易の不確実性の高まりが、中国内の半導体産業の成長を加速させ、半導体市場における競争力を高めることに繋がっているとIHSは見ている。

2020年には5Gがけん引役となって市場は回復

スマホ市場は、中国、北米、欧州を中心とした需要の飽和により、出荷台数の減少が進むと見られている。買い替えサイクルの長期化、5Gへの移行に伴う様子見などに加えて、米中の貿易戦争の激化が市場にさらなる悪影響をもたらす状況となっている。例えばAppleのiPhoneは中国市場で貿易戦争が始まった2018年下期以降、四半期ごとに一貫してシェアの低下が続いている。

ただし2020年には5G市場の立ち上がる始めることもあり、スマホ市場が緩やかな回復へと転じ、半導体購入額トップ20社の総額は前年比4.5%増の3330億ドルとなるとIHSでは予測している。また、5G関連のアプリケーションから大量のデータが生成されるため、データセンターへの設備投資も増加、データセンター向け半導体の購入額も同13%増と伸びを見せるとIHSでは見ている。

このように2020年の見通しは、5Gが主要なけん引役となることで、一見してポジティブに見えるが、米中の貿易戦争のみならず、日韓の貿易紛争がさらに激化するリスクを考慮する必要が出てきた。そのため、半導体産業の当事者は、これらのリスクを適切にかわすための戦略を再考しなければならないとIHSでは指摘している。